終戦二週間前に叫ばれた勝利とは

江戸東京市民の楽しみ(昭和時代)325

終戦二週間前に叫ばれた勝利とは

 新聞には、戦況が国内外ともに行き詰まっているためか、記事に勢いが感じられない。本土決戦が頻繁に出てくるが、国民のどれだけの人が本当に戦えると考えていたのであろう。中小都市の空襲が頻繁になり、焼け出された人々は自分たちの生活再建に目一杯である。戦う気力はなく、戦っても勝ち目のないことはわかっていたと思われる。

 朝日新聞は、空襲を「敢闘あるところ必ず勝利がある」や「疎開をやっていたので実害は僅少」、さらには「対策を完全にしておいたところに勝利があり」などと書いているが、誰が本気で信じたであろうか。本土決戦を強行すれば、沖縄の再来であることは自明であろう。軍や政府は、本土決戦で勝つことを信じていたのであろうか。

 

八月五日

 朝日新聞は「牛島中将・大将に」「沖縄血戦に善謀・・・」と讃えている。前日二面の末端の人であるならば、その行動を讃えざるを得ないが、最高位の指揮官が多数の兵士や住民を死傷に追いやったのに「善謀」としている。

【映画『豹変と沈黙 日記でたどる沖縄戦への道』】一部参照
https://news.yahoo.co.jp/articles/4fa4385a5e05432962578c692b358d94e7aecd9a?page=2

 

 二面に「実現近い〝戦時住区〟」との東京都の構想が語られた。「すべて戦闘体制」のためで、「狙ひは防衛と自活、生産」という、住区の構想が示される。都内に食糧や工場など自活できる復興町会を「盛上がる力で隣組町会」で創ろうというもの。

 他に、「たばこ 一日三本」、「一日に六、七千足 靴修理班の店開き」が写真と共に取り上げられている。本土決戦を控え、戦意高潮化しようと「国民の軍歌」の募集記事(締切八月十五日)もある。映画広告に「完成迫る!伊豆の娘たち」と「愛と誓ひ」がある。

 

八月四日

 朝日新聞「大鳥島を艦砲射撃 敵戦艦に直撃弾 わが陸上部隊猛然反撃」と、戦争続行を記している。

 二面に、一職員が「最後の連絡果して 局舎と運命共に 死してなほ手にバケツ」と、国民に戦意の持続を訴える。他に米国の爆撃予告ビラを念頭にしてか「敵謀略の正体」に「心理戦争にはこの構へ」と、解説するが心構えが国民に伝わったであろうか。

 また、新戦力として、「羽ばたくぞ”木の翼”」「入魂独特、モスキート(木製爆撃機実戦には使用されず)」を凌ぐ、との記事がある。実戦に対応できる代物か否かは、素人でもわかりそうなものだ。

 「敵謀略の正体」と題して、「心理戦争にはこの構へ」で騙されるなと。「喰えぬビスケット」と『こんな事実…』これが危ない」との例をあげている」。そして「嘘を真に…敵の宣伝第一課」との注意喚起を訴えている。

「興行広告」に金龍館の森川一座・初日がある。

 高見は、「読売、強がり記事を掲ぐ」として、「沖縄と本土決戦 接岸、上陸何れでも 我に攻むる強味 今ぞ敵の足場摧かん

 本土決戦は沖縄決戦の延長戦である、従って沖縄決戰以来今日まで決戦は連続行われている、敵が本土上陸を敢行する時が決戦ではない、重ねていうが本土決戦はすでに開始されている」と、強がり記事を紹介する。

 そして「読売、毎日両紙とも、爆撃予告の敵のビラに驚くなという記事を出している。当局からの指示によるのであろう」と結んでいる

 

八月三日

 朝日新聞には「見えぬ縦深陣地で 敵接岸に手具脛」を引いての戦いを載せている。

 毎日新聞には「B29中小都市襲撃を激化」が記されている。

 朝日新聞二面に「嘗てない長時間爆撃 目標が去っても油断ならぬ」と、一度爆撃されたところに再度の攻撃があるとの警告。

「備へあれば憂ひなし 焼けぬ滅敵の魂 事前の疎開にあがる凱歌」とある。「急げ井戸の改修」防火用水の確保の要請。被害を最小限にしたとして、八王子や長岡、水戸での事例を記している。八王子では「火のつきかかったカーテンをむしり取り、職員を激励叱咤、遂に死守したのである、敢闘あるところ必ず勝利がある」が記されている。長岡では「市民の予めこれに備へて家財等の疎開をやっていたので実害は僅少に止まった」と。水戸は「焼土に毅然たり 各地の戦訓を活かした民防空」として、「要するに水戸市の場合は各地の戦訓を十分活かして事前の対策を完全にしておいたところに勝利があり、まさに『戦訓の凱歌』である」としている。さらに、「沈着、部署を死守 展晴れ国鉄義勇戦闘隊」との記事もある。

 新聞は「凱歌」「勝利がある」と誇らしげに書かれているが、都市襲撃よる被害は少なからずある。それなのに勝利とする、このような人々を迷わせるような記事を掲載し続ける新聞、そして記者、末期的と言わざるを得ない。

 東京都は「総額三千六百万円 戦時農場費三百五十万円 都の戦災復興予算決まる」を発表した。この計画、精選後を踏まえているかどうか、気になる。また、「戦災青森目覚しい復興」「統制ある指揮が災禍を超克」があるも、復興の具体的な記述はない。

「伊豆の娘たち」「北の三人」映画広告

 

八月二日

 朝日新聞「制空部隊、潜艦協力 来襲の敵を痛撃す」「わが陸海の戦備着々強化」「撃墜破千二十機 七月中の来襲敵機二万」とある。

 二面に「我等けふより一兵 聖域に誓ふ忠節 堂々、鉄道戦闘隊の出陣」に参謀総長の訓示。

中小都市への空襲が激化する中、「〝敵襲下よくやった〟官民協力もうあと一歩」とある。加えて、「軍管区情報の国境」に関して「神経を細かく聞く 隣接地区の人はかうして」との指示。さらに、青森の事例に「防空態勢末だし 思切つた建物疎開が急務」との記事もある。

 その他に、「太った疎開学童 鳴子温泉の小石川組」と、子供を持つ都民を安心させる記事もある。

 高見は、「毎日が『軍に毅然 、大方針あり』と提灯記事を書いている。咋日は読売が同種 の記事を掲げていたが。ところが、毎日は提灯記事の隣りに社説を提げている『民意を伸張せ しめよ』『知る者は騒がぬ』控え目ながら軍に注文を出している。

 国民はもはや、提灯記事、気休め記事は読まぬのである」と断じている。

 

八月一日

 朝日新聞の見出しは、「敵空母十数隻 丗日の来襲二千機」「敵艦三膄撃沈破」「地雷で吹飛ぶ敵兵」などと、まだ戦果を記し、戦争の継続を促している。

 読売新聞は「敵が狙ふ我精神 崩すな国内団結

 それに対し、毎日新聞には、「焦土に爆笑続く」日比谷公園で野外劇、吉右衛門真実の一幕と、街中の娯楽も記している。

 朝日新聞二面には、「愛と誓ひ」東宝映画、「最後の帰郷」大映映画の広告がある。

 また同紙二面には、「われら鉄道戦闘隊」「『戦』の一字誇らかに」と写真入りで。

「航空灯をつけた敵機 爆音で味方機と識別しよう」と、「新手の偽騙行動」に注意喚起している。

疎開学寮中心に」「学童集団疎開を恒久化」それに伴い「残留好調も地方へ」。「都内への再入校認めず」として「疎開学童の食糧は十分」との記事。食糧事情は改善していないのであろう「乾燥野菜の作り方―コツは手まめにやること」などが掲載されている。