市民が自由を得る昭和二十年九月下旬

江戸東京市民の楽しみ(昭和時代)335

市民が自由を得る昭和二十年九月下旬

 敗戦後の政府が行ってきた施策、国民はどのように感じていたのであろうか。戦中社会での既得権を如何に守っていくか、よく言えば急激な変化を進めないための施策を講じていた。旧体制の力を復活、浸透するように画策しているように思える。それに対し、連合軍は再度の軍拡国家の台頭を防ごうとして、「日本産業の解体」、「報道の自由」・「政府統制から解放」などを最高司令官方針として明示している。

 高見順は、連合軍の進め方に「戦いに負け占領軍が入って来たので、自由が束縛されたというのならわかるが、逆に自由を保障されたのである。なんという恥しいことだろう。自国の政府が自国民の自由をほとんどあらゆる自由を奪していて、そうして占領軍の通達があるまで、その奪を解こうとしなかったとは、なんという恥しいことであろう」と述べている。

 確かに嘆かわしいが、当時の国民は連合軍からの指示も、戦後の政府からの指示も、戦中の指示と同じように感じていたようだ。自らの権利を主張するような意識が乏しく、人々に権利の自覚を求めるのは酷である。そのような中で、市川房子を初めとする戦後対策婦人委員会は、「廿歳から婦人に選挙権」を政府や政党などに通達建議した。男子同等の選挙権や公民権、婦人の政治結社への参加などは、画期的な提言であった。

 

九月二十二日、朝日新聞は、米国から「マ元帥への大網指示」として「日本産業の解体」などを示す。

 二面に「低下した学徒の体力」、「味噌 配給は円滑、噂に根なし〝いも味噌〟で原料何も難も吹っ飛ばす」「疎開者の年復帰 来月からの中旬から緩和」但し食料・住宅事情を考えて。「集団疎開の全学童 今年中には帰校」などの記事。朝日連載「乞食大将」映画化の広告

 高見は、読売新聞「季節風」から「通りかゝったひとりのお内儀さんが手にとって値段をきくと卅円だという、お内儀さんも余りの高値に驚いた様子だったが、さきからじっとたゝずんで見ていた私服の一警察官がこの値段をきくと〝ちょっと来てくれ〟と駅前の交番へ連れて行った。

……やがて一応の調べがつくとその警察官は外へ向って〝即戦災者で下駄のほしい人は罹災証明書をもらって来て下さい〟と戦災者たちを集めてこの闇男が持っていた四十足ばかりの下駄を十分の一の三円で売らせてそのまゝ釈放した、闇露店横行の折から名判官ぶりに界隈で好評噴々」と記している。

 

九月二十三日、朝日新聞は、連合軍司令部より「新聞紙法を指示」を掲載。日本の全刊行物に適用する。

 二面に「相撲、野球、庭球など明朗体育を復興」がある。「農村にも盛んに奨励」。また、「脚光を浴びる帝劇 国立劇場に更生」も記されている。都民の娯楽は、徐々に復興していくようだ。松竹『そよかぜ』の広告。

 

九月二十四日、朝日新聞は、連合軍司令部よりの「日本管理政策の正文発表」を掲載する。「現存の統治形態利用 賠償は物資と施設で」との方針を示す。また、「新聞紙法を指示」を掲載。

 二面に「陸軍外地部隊の復員 あす第一船帰る 内地の主力も七割復帰」と、深刻な社会問題とある。

 また、「米国との貿易再開 原料輸送に米船舶の援助を」との中島商相会見記の記事。

 「映画に盛る”新日本” 連合軍、制作の方針を指示」を示す。「米映画六十本 日本へ発送中」

 日本ニュース「原子爆弾の惨害など」近日公開、「東宝芸能大会」東京宝塚劇場の広告。

 読売新聞は、「映画は一日三回」、「日曜、祭日は朝十時から四回 演劇も戦前に復帰」として、「都民の生活を明朗にするため・・・近く映画演劇などの上映、上演所要時間並びに一日の興行 回数をだいたい戦前通りに復活させる・・・」ことになったと。

 

九月二十五日、朝日新聞は、最高司令官指示とする「賃金統制を維持」、「物資、公正に配給、輸出入には許可制」などの記事。「財閥と官僚結託 工業家土地、建物に投資」との「米記者の観る日本経済界」を掲載。

 「生活急需品の生産へ 特殊預金の封鎖とく 設備五萬、流動資金廿萬円まで」と。生活用品の不足に切迫しているが、民間にまかせている。

 二面に「廿歳から婦人に選挙権」初の政治委員会での申し合わせが出ている。「たばこ配給方法改正 転出入届は小売人へ 近く成年男子の再登録」との見出し。一日三本が来年は4本になる、配給回数などについての改正などを記事とするくらい、嗜好品の要望は高いことを示している。また、「危いメチール」、九名死亡、三名失明の記事がある。

 

九月二十六日、朝日新聞は、最高司令官方針を明示、「報道の自由」、「政府統制から解放」との記事。

 二面に「天幕興業も許す 都民の娯楽機関を豊かに」とある。「そよかぜ」予告広告

 

九月二十七日、朝日新聞は「戦後経済再建と財閥の動向」を、「大資本、解体命令に」、「転換策に全力、見逃せぬ国内世論の硬化」を掲載する。

 二面に「体育会・学振を解体 純民間団体に切替へ」を示す。また、「姿を消す無茶な闇値 新宿に正札つきの露店商組合  黒山のような賑い」を紹介している。さらに「東京バラ(東京ローズ)」の仮面を脱いだ謎の魅力を掲載。

 

九月二十八日、朝日新聞は「天皇陛下 マ元帥をご訪問」との記事。司令第三弾「統制は民生を本位 労働者の団体契約を示唆」を掲載する。

 二面に「闇市粛清のため 価格を表示」警視庁 新方針を指示。また、映画は「再映物でお茶を濁す」とある。まだ、娯楽の本格的な復興はまだ先のことを示している。「尾上菊五郎公演」前売り広告

 高見は、「皇陛下がマッカーサー元帥を御訪問されたその新聞記事を見て驚いた。敗戦国である以上何もおどろくに当らないことかもしれないが」と記している。

 

九月二十九日、朝日新聞天皇マッカーサーの写真掲載、「聖上 米記者に御言葉 全世界平和に寄与」と示す。「民生を確保 社会的安定を達成を」など掲載。

 二面に「文化外交『音楽祭』へ 心も躍る前奏曲 生まれ出る日本音楽連盟」がある。

 

九月三十日、朝日新聞は「新聞、言論の自由へ」と、連合軍司令官「新たなる措置」通達として「制限法令を全廃」が出された。

 二面に「淺草六区の復興策」が示され、「観音様も近く遷座式」との記事。また、「学生スポーツの在り方」として「銃剣術、射撃は禁止、野球は全国的に」とある。さらに、「街をきれいにしましょう」と、全都一斉に清浄化運動を、という記事もある。

 高見は、「自国の政府によって当然国民に与えられるべきであった自由が与えられずに、自国を占領した他国の軍隊によって初めて自由が与えられるとは、――顧みて羞恥の感なきを得ない。日本を愛する者として、日本のために恥しい。

 戦いに負け占領軍が入って来たので、自由が束縛されたというのならわかるが、逆に自由を保障されたのである。なんという恥しいことだろう。自国の政府が自国民の自由をほとんどあらゆる自由を奪していて、そうして占領軍の通達 があるまで、その奪を解こうとしなかったとは、なんという恥しいことであろう。

 産報が解散した。皇国勤労観の名の下に、労働階級を軍部、官僚、資本家の奴隷たることを強要した産報。――」とある。