十八世紀前半の茶花その1

茶花    15 茶花の種類その12
十八世紀前半の茶花その1
  十八世紀にはいると、花卉への関心はさらに高まり、園芸書が数多く刊行された。茶人がそれらの図書をどのくらい参考にしたかはわからないが、茶花の選定に少なからず影響を与えたものと思われる。茶花の種類が増えたのは、以前にも増して植物の情報が社会に浸透する十八世紀以降だろうと考えられる。そこで、十八世紀前半の茶会記から茶花の種類を探ることにした。
『茶会記の研究』の十八世紀前半の茶会記として、『伊達綱村茶会記』(十八世紀前半の茶会記が245会残っている)に加えて、まとまって記された茶会記は「御茶湯之記(308)」「学恵茶湯志(127)」「他所之茶事道具献立之留(182)」「槐記茶会記(96)」「利休百五十年忌茶会(86)」「如心斎茶会記(140)」「不羨斎会付(228)」などの存在することが記されている。
  「御茶湯之記」には、1713~36年に渡る308会の茶会記が記されているとされている。「御茶湯之記」は、『茶会記の研究』に『茶杓箪笥』に翻刻されている記されているので、『茶杓箪笥』(芳賀幸四郎・他、淡交社)を探した。『茶会記の研究』には、「翻刻は人名と茶杓のみ」と備考に指摘されていたように茶会記の一覧はその通りだった。ただ、解説には、28会の茶会記が掲載され、その内26会に茶花が記されていた。また、その他に「御茶湯之記」の茶会記が記されている資料として、『公家茶道の研究』の一部に記されており、その茶会記には茶花の記載がある。さらに同書の「御茶湯之記」の注意書(10)を見ると・・・「予楽院自会記」の名で一部が翻刻されている(芳賀幸四郎・水谷川柴山他『予楽院公  茶杓箪笥』所収、淡交社)とある。そのため、これらの茶会から29会を調べた。最も多いのはツバキで、次いでヤナギ、キク、ウメとなっている。なお、新しい茶花としてビワ、ザクロ、ナツツバキ、スモモ、レンギヨウなどが登場している。
『学恵茶湯志』は、仙台藩主四代・伊達綱村の127の茶会を記したものである。茶会記は、正徳六年(1716)から享保四年(1719)まで記されている。伊達綱村には、元禄年間に催された茶会を記した『伊達綱村茶会記』が存在し、その10年ほど後の茶会記となる。期間を違えた同一人の茶会記が数多くあり、それも124の茶花を記載している茶会記があることは興味深い。
 イメージ 1 登場する茶花の種類は、27種(175花)が登場する。最も多く使われる茶花はツバキ、次いでスイセン、ウメ、キクである。その次にコウホネカキツバタレンギョウキンセンカムクゲ、ラン、セキチク、アヤメ、ナギ、サザンカ、ユリ、センニチソウ、ヤマブキ、リンドウ、ササ、カイドウ、ネジアヤメ、シャクヤク、アオイ、ボタン、オグルマ、ガンピ、アジサイ、トコナツがある。
  『伊達綱村茶会記』の茶花と比べると、75%の21種が同じであり、コウホネの使用が多いなど同一人ならではの茶会記と言えそうである。また、『伊達綱村茶会記』の茶花と同様に、花色の記述はあるものの品種については触れていない。以前になかった植物には、トコナツ、ナギなどこれまでの茶会記に見られなかった新しい茶花がある。なお、トコナツは中国から渡来したセキチクを改良したものであることから、茶花としてはセキチクとして扱う。
  使用した茶花の記載例を以下に示す。
ツバキは、「赤椿」「椿」「白玉椿」「白椿」「薄色椿」などと記載されている。
スイセンは、「水仙」と記載されている。
  ウメは、「紅梅」「白梅」「梅」などと記載されている。
キクは、「夏菊」「寒菊」「小菊」「黄菊」「白菊」などと記載されている。
コウホネは、「こうほね」「かうほね」などと記載されている。
カキツバタは、「杜若」と記載されている。
レンギョウは、「れんきやう」「連尭」などと記載されている。
  キンセンカは、「金仙花」「金銭花」と記載されている。
  ムクゲは、「むくけ」「木槿」などと記載されている。
ランは、「蘭」「紫蘭」と記載され、正しい名称はシランだと思われる。
  セキチクは、「せきちく」「石竹」などと記載されている。
  アヤメは、「あやめ」「菖蒲」「白あやめ」などと記載されている。
  ナギは、「なぎ」と記載されている。
サザンカは、「山茶花」と記載されている。
  ユリは、「緋百合草」「緋百合」などと記載されている。
  センニツソウは、「千日紅」と記載されている。
  ヤマブキは、「山吹」と記載されている。
  リンドウは、「竜胆」と記載されている。
  ササは、「笹」と記載されている。
  カイドウは、「海棠」と記載されている。
  ネジアヤメは、「はれん」と記載されている。
  シャクヤクは、「芍薬」と記載されている。
  アオイは、「小葵」と記載されている。
  ボタンは、「牡丹」と記載されている。
  オグルマは、「小車」と記載されている。
  ガンピは、「鳫緋」と記載されている。
アジサイは、「あちさゐ」と記載されている。
  トコナツは、「常夏」と記載されているが、セキチクの一種とする。
  『学恵茶湯志』の茶花と、他の茶会記の種別の使用頻度を比較すると、『伊達綱村茶会記』との相関係数は0.82である。また、『伊達綱村茶会記』と『天王寺屋会記』自会記との茶花の種別の使用頻度を比較すると、相関係数は0.79と重複種が50%しかない割には高い値である。また、『松屋会記』久重茶会記とは0.80と、比較的高い値である。それに対し、『小堀遠州茶会記集成』とは0.58とあまり高くない。
  「他所之茶事道具献立之留」は、『茶会記の研究』に1723~26年の茶会記が182会記されているとあるが、探すことができなかった。なお、『公家茶道の研究』に茶会記の一部に記されており、十八世紀前半全体の中で加える。
  「利休百五十年忌茶会」は、『茶器名物図彙  下』(草間直方)に掲載されており、86会の茶会記が記され、その66の茶会に茶花が記されていた。しかし、記された茶花の種類は、ツバキ、スイセン、ウメ、キク、ヤナギ、サザンカの6種しかなかった。