茶花と花材の植物名その1

茶花と花材の植物名その1
  茶会記や花伝書に記された植物名を整理する。茶花や花材として記された名称は、当時の呼び名であり、必ずしも現代名と同じではない。また、同じ植物と思われるものにも、いくつもの名前が書かれている。その上、書かれている名(漢字で記された)の読み方も何通りかあり、混乱している。そこで、茶花と花材にどのような呼び名があったかを、現代名の五十音順に示している。
  現代名としては『牧野新日本植物図鑑』(北隆館)を基本にし、『樹木大図説』(有明書房)を補足的に使用する。なお、その他の資料として、『資料別・草木名初見リスト』(磯野直秀)、『明治前園芸植物渡来年表』(磯野直秀)を参考にした。
  茶花と花材の名称を再度検討する際、これまで不明であった植物の現代名が明らかになり、錯誤もいくつかわかった。その結果、以前に示した茶花や花材の名前が変わり、花伝書の花材数や種類にも変化が生じた。そのため、以下に示す植物名を全て示した後、花伝書の各々について再度整理する予定である。
 
アオイアオイ科)・・・総称名・・・葵=アオイの初見→万葉集785年前
カラアヲイ=アオイ・・・タチアオイと推測されるが『山科家礼記』1492年(延徳四年)に記される。
葵=アオイ・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
アヲイ=アオイ・・・『松屋会記』1636年(寛永十三年)に記される。
あふひぐさ=アオイ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
側金盞花=アオイ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
蜀葵=アオイ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
かたみ草=アオイ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
 
アオキ(ミズキ科)・・・種名・・・アオキの初見→多聞院日記1565年
青木=アオキ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
 
アカザアカザ科)・・・種名・・・アカザの初見→新撰字鏡900年頃
藜=アカザ・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
藜菜=あかざ=アカザ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
莕菜=アカザ・・・『古流生花四季百瓶図』1778年(安永七年)に記される。
 
アカネ(アカネ科)・・・種名・・・アカネの初見→万葉集785年前
茜草=アカネ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
あかね花=アカネ・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
 
アカマツ(マツ科)・・・種名・・・アカマツの初見→花壇地錦抄1695年
女松=アカマツ・・・『立花大全』1683年(天和三年)に記される。            
赤松=アカマツ・・・『攅花雑録』1757年(宝暦七年)に記される。
陰松=アカマツ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
アカメガシワトウダイグサ科)・・・種名・・・アカメガシワの初見→大和本草1709年
楸(ひさき)=アカメガシワ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
 
アクシバツツジ科)・・・種名
山礬(とらしば)=アクシバ・・・『古流挿花湖月抄』1790年(寛政二年)に記される。
 
アケビアケビ科)・・・種名・・・アケビの初見→新撰字鏡900年頃
木通=アケビ・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
わけび=アケビ・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
 
アサ(クワ科)・・・種名・・・アサの初見→日本書紀720年
麻=アサ・・・『立花指南』1688年(貞享五年)に記される。
 
アサガオヒルガオ科)・・・種名・・・アサガオの初見→古今和歌集914年頃
あさかほ=アサガオ・・・『天王寺屋会記』1558年(弘治四年)に記される。
牽牛花=アサガオ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
朝顔アサガオ・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
槿=アサガオ・・・『抛入花薄』1767年(明和四年)に記される。
蕣=アサガオ・・・『古流生花四季百瓶図』1778年(安永七年)に記される。
 
アザミ(キク科)・・・総称名・・・アザミの初見→新撰字鏡900年頃
鬼あさミ=アザミ・・・『天王寺屋会記』1583年(天正十一年)に記される。
苦芖=アザミ・・・『立花指南』1688年(貞享五年)に記される。
薊=千針草=姫あさみ=アザミ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
あざみ=鬼莇=アザミ・・・『立花便覧』1695年(元禄八年)に記される。
続断=アザミ・・・『抛入花薄』1767年(明和四年)に記される。
  『抛入花薄』には、「続断」(あざみ)について、「あざみは野辺に多く生る物也俗にこれを鬼あざみと云・・・」とある。「鬼あざみ」とは記されてはいても、今のオニアザミを指しているのではなく、そこでは、野生のアザミ類を指していたようだ。そのため、「鬼小薊」(抛入花傳書)や「おにあさみ」(挿花故実化)などと記されていても、それはアザミ類の一種であると考えられる。したがって、植物名は総称してアザミとする。
大薊=アザミ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
阿さみ=アザミ・・・『古流生花四季百瓶図』1778年(安永七年)に記される。
 
アシ(イネ科)・・・種名・・・アシの初見→古事記712年
ヨシ=アシ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
あし=アシ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
蘆=アシ・・・『立花大全』1683年(天和三年)に記される。
葦=氷室草=なには草=さされ草=芦=アシ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
 
アジサイユキノシタ科)・・・種名・・・アジサイの初見→万葉集785年前
アジサイアジサイ・・・『松屋会記』1636年(寛永十三年)に記される。
あぢさい=アジサイ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
紫陽陽=アジサイ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
繍毬花=紫綉毬=紅綉毬=アジサイ『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
 
 
アズマギク(キク科)・・・種名・・・アズマギクの初見→毛吹草1645年
我妻菊=アズマギク・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
あつまきく=アズマギク・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
東菊=アズマギク・・・『華道全書』1717年享保二年)に記される。
 
アセビツツジ科)・・・種名・・・アセビの初見→下学集1444年
馬酔木=アセビ・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
あせぼ=アセビ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
馬酔草花=あせみの花=あしひの花=アセビ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
 
アツモリソウ(ラン科)・・・種名・・・アツモリソウの初見→花壇綱目1664年
敦盛草=アツモリソウ・・・『生花百競』1768年(明和五年)に記される。
 
アテ(ヒノキ科)・・・種名・・・(参考)アスナロの初見→花壇地錦抄1695年
アテビ=アテ・・・『立花指南』1688年(貞享五年)に記される。
 
アブラナ
アブラナ科)・・・種名・・・アブラナの初見→多聞院日記1592年
ナタネノ花=アブラナ・・・『天王寺屋会記』1579年(天正七年)に記される。
菜のとう=アブラナ・・・『立花便覧』1695年(元禄八年)に記される。
 
アマドコロユリ科)・・・種名・・・アマドコロの初見→合類節用集1680年
すずこゆり=萎甤=アマドコロ・・・『挿花四季枝折』1794年(寛政五年)に記される。
 
アマナユリ科)・・・種名・・・アマナの初見→和漢三才図会1713年?
慈姑=アマナ・・・『生花百競』1768年(明和五年)に記される。
阿まな=アマナ・・・『古流生花四季百瓶図』1778年(安永七年)に記される。
 
アマモヒルムシロ科)・・・種名・・・アマモの初見→諸国産物帳1735~40年
藻鹽草(もしほぐさ)=アマモ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
 
アヤメ(アヤメ科)・・・種名・・・アヤメの初見→お湯殿の上の日記1528年
はなしやうふ=アヤメ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
あやめ=アヤメ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
 
アラカシ(ブナ科)・・・種名
櫧木=アラカシ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
アラセイトウアブラナ科)・・・種名・・・アラセイトウの初見→草木写生1660年
紫羅蘭花アラセイトウ・・・『源氏活花記』1765年(明和二年)に記される。
 
アリタソウアカザ科)・・・種名
耆婆草=アリタソウ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
アワ(イネ科)・・・種名・・・アワの初見→古事記712年
粟=アワ・・・『立花指南』1688年(貞享五年)に記される。
 
アワモリショウマユキノシタ科)・・・種名・・・アワモリショウマの初見→草花魚介虫類1661年
淡盛=アワモリショウマ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
あはもり=アワモリショウマ・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
 
アンズバラ科)・・・種名・・・アンズの初見→お湯殿の上の日記1447年
杏子=アンズ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
杏之花=金杏花=甜梅花=アンズ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。