茶花と花材の植物名その9

茶花と花材の植物名その9
  茶会記や花伝書に記された植物名を整理する。茶花や花材として記された名称は、当時の呼び名であり、必ずしも現代名と同じではない。また、同じ植物と思われるものにも、いくつもの名前が書かれている。その上、書かれている名(漢字で記された)の読み方も何通りかあり、混乱している。そこで、茶花と花材にどのような呼び名があったかを、現代名の五十音順に示している。
  現代名としては『牧野新日本植物図鑑』(北隆館)を基本にし、『樹木大図説』(有明書房)を補足的に使用する。なお、その他の資料として、『資料別・草木名初見リスト』(磯野直秀)、『明治前園芸植物渡来年表』(磯野直秀)を参考にした。
  茶花と花材の名称を再度検討する際、これまで不明であった植物の現代名が明らかになり、錯誤もいくつかわかった。その結果、以前に示した茶花や花材の名前が変わり、花伝書の花材数や種類にも変化が生じた。そのため、以下に示す植物名を全て示した後、花伝書の各々について再度整理する予定である。
 
シラスゲ(カヤツリグサ科)・・・変種
白すげ=シラスゲ・・・『古田織部茶書』1603年(慶長八年)に記される。
 
シラン(ラン科)・・・種名・・・シランの初見→毛吹草1645年
白蘭紫蘭=シラン・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
紫白蘭=シラン・・・『當流茶之湯流傳集』1694年(元禄七年)に記される。
白及=シラン・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
志らん=シラン・・・『挿花故実化』1778年(安永七年)に記される。
 
ジンチョウゲジンチョウゲ科)・・・種名・・・ジンチョウゲの初見→尺素往来1481年前
沈丁花ジンチョウゲ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
ちん丁花=ジンチョウゲ・・・『立花初心抄』1675年(延宝三年)に記される。
ぢんてうけ=ジンチョウゲ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
じんちやう花=ジンチョウゲ・・・『當流茶之湯流傳集』1694年(元禄七年)に記される。
瑞香=ジンチョウゲ・・・『挿花四季枝折』1794年(寛政五年)に記される。
 
スイカズラスイカズラ科)・・・種名・・・スイカズラの初見→新撰字鏡900年頃
すひかずら=スイカズラ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
忍冬=スイカズラ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
にんどう=スイカズラ・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
金銀花=スイカズラ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
スイセンヒガンバナ科)・・・種名・・・スイセンの初見→下学集1444年
スイセン花=スイセン・・・『山科家礼記』1488年(長享二年)に記される。
水仙花=スイセン・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
雪中花=玉玲瓏=金盞銀台花=眞水仙スイセン・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
謂銀臺=スイセン・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
スイレンスイレン科)・・・総称名・・・スイレンの初見→撮壌集1454年
睡蓮=スイレン・・・『抛入花薄』1767年(明和四年)に記される。
水蓮=スイレン・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
スオウマメ科)・・・種名
蘇枋=スオウ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
スホウ=スオウ・・・『槐記』1726年(享保十一年)に記される。
 
スカシユリユリ科)・・・種名・・・スカシユリの初見→花壇綱目1664年
すかしゆり=スカシユリ・・・『立花大全』1683年(天和三年)に記される。
總百合=スカシユリ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
洗百合草=スカシユリス・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
透百合=スカシユリス・・・・・・『抛入花薄』1767年(明和四年)に記される。
夜合=べにすかし=スカシユリ・・・『古流挿花湖月抄』1790年(寛政二年)に記される。
 
スギ(スギ科)・・・種名・・・スギ科の初見→古事記712年
杉=スギ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
スキ=スギ・・・『挿花秘傅伝圖式』1799年(寛政十年)に記される。
 
スギナ(トクサ科)・・・種名・・・スギナの初見→文明本節用集1500年頃          
つくし=スギナ・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
杉菜=スギナ・・・『華道全書』1717年享保二年)に記される。
土筆=スギナ・・・『砂鉢生花傳』1775年(安永四年)に記される。
 
スゲ(カヤツリグサ科)・・・総称名・・・スゲの初見→古事記712年
スケ=スゲ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
 
スズカケソウゴマノハグサ科)・・・種名
鈴掛の花=スズカケソウ・・・『立花大全』1683年(天和三年)に記される。『立花大全』には、小毬、小手毬の記述があり、これがコデマリを指しているなら、鈴掛の花=スズカケソウとした。しかし、鈴掛がコデマリである可能性は否定できない。
すずかけ=スズカケソウ・・・『立花便覧』1695年(元禄八年)に記される。『立花便覧』にも、小でまりとすずかけ、両方の記述があることから、すずかけ=スズカケソウした。
 
ススキ(イネ科)・・・種名・・・ススキの初見→古事記712年
いとすゝき=ススキ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
白薄=ススキ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
薄=すすき=ススキ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
尾花=ススキ・・・『立花指南』1688年(貞享五年)に記される。
瓦花=袖波草=亂草=ススキ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
芒=ススキ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
スズラン(ラン科)・・・種名・・・キミカゲソウの初見→毛吹草1645年
山蘭=鈴蘭=スズラン・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
スモモバラ科)・・・種名・・・スモモの初見→日本書紀720年
スモゝキ=スモモ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
李花=スモモ・・・『立花指南』1688年(貞享五年)に記される。
 
セキショウサトイモ科)・・・種名
せきしやう=セキショウ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
石昌=セキショウ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
 
セキチクナデシコ科)・・・種名・・・セキチクの初見→本朝無題詩1163年頃
せキチク=セキチク・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
石竹=セキチク・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
石竹=嬰麦(せきちく)=セキチク・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
セッコク(ラン科)・・・種名・・・セッコクの初見→本草和名918年頃
石斛=セッコク・・・『砂鉢生花傳』1773年(安永二年)に記される。
長生草=セッコク・・・『川上不白利休二百回忌茶会記』1783年(天明三年)に記される。
 
セツブンソウキンポウゲ科)・・・種名
節分艸=セツブンソウ・・・『生花百競』1768年(明和五年)に記される。
 
ゼニアオイアオイ科)・・・種名・・・ゼニアオイの初見→本草名物附録1672年?
コアロヒ=小葵=ゼニアオイ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
錦葵=ゼニアオイ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
銭葵=ゼニアオイ・・・『砂鉢生花傳』1773年(安永二年)に記される。
 
セリ(セリ科)・・・種名・・・セリの初見→日本書紀720年
セリ=セリ・・・『天王寺屋会記』1579年(天正七年)に記される。
 
センキュウ(セリ科)・・・種名
川芎=センキュウ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
 
センジュギク(キク科)・・・種名
三波丁子=センジュギク・・・『華道全書』1717年享保二年)に記される。
センダイハギ(マメ科)・・・種名・・・センダイハギの初見→毛吹草1645年
仙臺萩=センダイハギ・・・『立花大全』1683年(天和三年)に記される。
 
センダン(センダン科)・・・種名
樗花=センダン・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
楝=センダン・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
せんたん=センダン・・・『川上不白利休二百回忌茶会記』1782年(天明二年)に記される。
 
ゼンテイカユリ科)・・・種名
染帝花=ゼンテイカ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
センテイ花=ゼンテイカ・・・『古流生花四季百瓶図』1778年(安永七年)に記される。
 
センニチコウヒユ科)・・・種名・・・センニチコウの初見→花壇綱目1664年
千日草=センニチコウ・・・『伊達綱村茶会記』1701年(元禄十四年)に記される。
千日紅=センニチコウ・・・『生花百競』1768年(明和五年)に記される。
 
センノウナデシコ科)・・・種名・・・センノウの初見→愚管記1378年
仙翁草=センノウ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
せンノヲケ=センノウ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
紅梅草=センノウ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
剪秋羅=センノウ・・・『古流挿花湖月抄』1790年(寛政二年)に記される。
 
センブリ(リンドウ科)・・・種名
胡黄連=センブリ・・・『砂鉢生花傳』1775年(安永四年)に記される。
 
ゼンマイ(ゼンマイ科)・・・種名・・・ゼンマイの初見→温故知新書1484年
センマイ=ゼンマイ・・・『山科家礼記』1488年(長享二年)に記される。
ぜんまひ=ゼンマイ・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。