続華道古書集成の植物 第三巻

続華道古書集成の植物    第三巻
『立花圖巻』                                       
  『立花圖巻』は、解題によれば「室町時代の立花伝書。筆写本・・・書写年代は奥書の天文廿三年と見て過誤なく・・・と考えられるが、他に拠所なく不詳」とある。立花図21枚あるが、図には花材名の記入はなく、描かれた絵から植物名を明確に同定することは困難である。

『花傳集』
 『花傳集』は、解題によれば「写本(江戸初期)・・・室町期の花伝に江戸初期の花伝を相伝者の誰かが書き加えたものと推定・・・通読して判読出来ない文字の多いのに気付く」とある。問題のありそうな書ではあるが、125程の花材が示され、115を現代名にした。
 これまでの花道書になかった花材が、以下の5種出現した。
 「さわら」は、ヒノキ科のサワラとした。初見は『山科家礼記』1457年である。
 「とねりこ」は、モクセイ科のトネリコとした。初見は『新撰字鏡』900年頃である。
 「まこも」は、イネ科のマコモとした。
  「まさき」は、ニシキギ科のマサキとした。
  「まるめろ」は、バラ科のマルメロとした。初見は『新刊多識偏』1631年である。
  『資料別・草木名初見リスト』(磯野直秀)と対照させると、「江戸初期の花伝」とされるように大半が十七世紀までの初見である。花材から見ると、『花傳集』は比較的古い花材が記されており、参考になりそうな花伝書である。

『花傳大成集』
  『花傳大成集』は、解題によれば「元禄五年に藤掛似水が、新左衛門に宛てた立花の伝書」とされる自筆本である。花材は50程記されている。特に特別な植物はない。なお、記述の中には、「射干」と「著莪」が並べて書かれている。異なる植物なのかもしれないが、判断できないもののシャガとする。と言うように、著者ならではの花材の記述が多い。

『桐覆花談』
  『桐覆花談』は、解題によれば「挿花の伝書・・・桐覆軒井上団支の口授遺書をもとにして、門弟が他の伝書を合せ編集・・・享保十四年の序文と後序がある」とされる。
  花材は50程記されている。その中で「孔明菜」は、アブラナ科のショカサイと思われるが、確証がないので不明とする。他に特別な植物はない。

『新撰五十瓶圖』
  『新撰五十瓶圖』は、解題によれば「立花と砂之物をあわせ四十七図・・・元禄年間に猪飼三左衛門の手によって、板行された」ものである。図は縮小され、描かれた絵から植物名を明確に同定することは困難である。

『立花折本』
  『立花折本』は、解題によれば「池坊専好のその弟子の作品であろうか・・・制作年月もなく筆者も未詳」とある折本。元図は彩色であるが、縮小され単色のため、描かれた絵から植物名を明確に同定することは困難である。

『梅翁流花道秘記』
  『梅翁流花道秘記』は、解題によれば「この伝書の筆写年代及び筆者も明確でない・・・数少ない茶花の伝書として貴重」とある。記された花材は、20にも満たず、その種類も偏っている。なお、気になる花材として、「杜若  花菖蒲  アヤメ  鴟尾」の記述がある。十七世紀に4種の花を一連にして把握していたのだろうか。

『萩濃霜』
 『萩濃霜』は、木村都山が著した真古流の生花書で、1786年(天明六年)に刊行されている。記された花材は、70ほどで56種を現代名にした。花材は、記述だけでなく描かれたものもあり、比較的判読しやすい。新しい花材として、「女貞(鼠餅)」が描かれて、ネズミモチである。

和樂旦帳』
  『和樂旦帳』は、解題によれば「八代流橘湖斎白龍著・・・寛政七年自序、寛政八年跋・・・すべて瓶花図」の和大本である。図は96、描かれた花材の種類は50程、現代名にしたのは39と少ない。新しい花材として、「金梅草」はキンポウゲ科のキンバイソウと思われる。
 「山しやく薬」は、ボタン科のヤマシャクヤクとする。
  「山茶科」は、リョウブ科のリョウブ科とする。
  「天南星」はサトイモ科のテンナンショウと思ったが、図を見ればウラシマソウである。どちらを正しいとするか、「瓶花図」ということで図を優先して、ウラシマソウとする。
  なお、「大礒」はヒャクブ科のヒャクブと思われるが、確証がないので不明とする。
 『和樂旦帳』は以上のように、図が縮小されていることに加え、絵の精度が良くないので参考とする。

『出世傳私考』
  『出世傳私考』は、解題によれば「松月堂古流の花書・・・享和四年板行・・・文化四年に伝書として授与」したものである。花材数が少なく、特に特別な植物はない。
『からころも』
  『からころも』は、『伊勢物語』に由来し、燕子花を中心にした作品の図が記されている。そのため、花材なる植物は少なく検討を省く。

『古流生花再選百瓶圖』
  『古流生花再選百瓶圖』は、天保十一年に刊行した生花図である。題のとおり百瓶の図であるが、図が縮小され花材を同定するのは困難なため、検討を省く。

『生花正傳記』
  『生花正傳記』は、解題によれば「江戸後期天保頃の写本・・・遠州流の伝書・・・本書の成立は文政頃」とある。花材は105程記されており、現代名にしたのは102種である。新しい花材として、1種、「すみれ」がある。スミレは万葉集に記されているように初見は古いもので、当然花材になっていたと思われたが、『生花正傳記』が花材での初見となる。なお、その他に珍しい植物はない。

『花術見分集』
  『花術見分集』は、写本で作成時期は天保年間の始めらしいが不詳。生花についての図解で、石の見分を詳述しているのが目に付く。花材なる植物は少なく検討を省く。

『根本生花百華式』
  『根本生花百華式』は、解題によれば「嘉永六年刊行・・・一九七瓶の花形図・・・幕末池坊生花の形態を知る・・・資料」とある和大本。『根本生花百華式』は、図が縮小され花材を同定するのは困難なため、検討を省く。

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