行春の草花

行春の草花 
クマガイソウ・ヤマシャクヤクヤマブキソウ・ラショウモンカズラ
イメージ 1    四月は三月から咲いている花に加えて、イカリソウキランソウ・キンラン・クマガイソウ・サクラソウ・ヒメウズ・ヤマシャクヤクヤマブキソウ・ラショウモンカズラなど様々な野草が咲き乱れる。この時期は、草だけではなく樹木の花も多く咲き、さらに外来の園芸種はそれ以上に、色とりどりの華やかな花を咲かせる。そうなると、日本の野草はどうしても注目度が低くなる。だが、これから紹介するクマガイソウは決して外見も見劣りするものではない。特に近年、外国人の関心が高く、自分の国では見ることのできない花景観だと言って、愛好者が増えているようだ。
イメージ 2 また他にも、ヤマシャクヤクヤマブキソウなど、清涼の感ある美しさで、外来の園芸種には見られない野草がある。草丈の低いヒトリシズカサギゴケなどは、白い花のカーペットを形成し、これも繊細な野草景観をつくる。四月は野草を見る絶好の季節であり。そこで、日本特有の花として特徴のあるクマガイソウ・ヤマシャクヤクヤマブキソウ・ラショウモンカズラを紹介する。


★クマガイソウ
イメージ 3  クマガイソウの名は、花の形が源平の戦いで有名な熊谷直実が背負った母衣(流れ矢を防ぐ)に似ていることから付いたとされている。それで、昔からそのように呼ばれていたと思っていたが、『草木名初見リスト』(磯野直秀)によれば、初見は『花壇地錦抄』(1695年)とある。また、『古今茶道全書 内花書之部一巻』(1694年)にも記されている。誰が命名したかはわからないが、とにかく、熊谷直実生存中に(1141~1207年)つけられた名前でないことは確かなようだ。
  クマガイソウは、ラン科の多年草である。草丈は40cm以下で、葉は30㎝程までで、扇型の2枚が対生するように着く。花の形も変わっているが、葉の形状も独特である。花は、唇弁が大きく膨らみ袋状となり、細い楕円形の緑色を帯びた花弁を持つ。色は、クリームに紫褐色の模様が入る。
イメージ 4  千葉県内には里山や竹林に群生していたが、近年では住宅開発によってあまり見る機会が無くなった。自生しているクマガイソウは、直射日光が当たりにくいやや薄暗い場所に群生している。そのため、地植えするには、同じような環境を形成させて移植すればよい。まず日照、半日陰で、春先にはある程度陽が差し込んでもよいが、夏期には日陰にしなければならない。強い直射日光を当てると、葉焼けを起こして枯れてしまうことがある。また冬期に、霜柱が立ったり凍結したりするような場所は、避けなければならない。

イメージ 7

イメージ 5 日照の次は土壌、特に選ばないが滞水しないことと、地表が乾燥しないことが必要。そして、土壌を含む植栽地周囲の湿度を保つことも大切で、風通しがあってもよいが、湿った空気で覆われていることが何よりも重要である。そのため、防風と、クマガイソウの上部が覆われていることが必要である。そのような条件を満たす竹林は、簡単に造成できないことから、常緑広葉樹の下に植えることを薦めたい。なお、クマガイソウの根は、髭のような細かい根がありません。まるで棒のような根茎に1㎜程の根が数本生えるという疎根です。その根に他の植物の根が絡めば負けてしまい枯れるので、細根性の樹木や草は近くに植えないこと。
  クマガイソウは活着すれば、案外容易に殖えるもので、特に管理する必要がない。地表の乾燥を感じたら散水するくらいで、施肥をしたり、病虫害の薬剤散、剪定などの必要はない。以上のことから、栽培は容易と思えるが、実際は移植してもなかなか活着しないようで、2年目は花が咲くものの、3年経つと葉が小さくなり、消えてしまうことが多い。土地にあっているか否かは、植えた翌年の状況、株数が増えているかを見ればわかる。

ヤマシャクヤク
 イメージ 6 ヤマシャクヤクは、キンポウゲ科とされていたが、現在ではボタン科に改められている。草丈は40cm程まで生長するが、30㎝以下の方が趣がある。花は一重で白色、少しずつ開き4~5㎝になる。ヤマシャクヤクが可憐に感じるのは、蕾から開花後までの期間が短いことも要因の一つだろう。長く咲いても1週間、短い時は2日で散ってしまう年もある。開花後には結実し種ができ、実は赤と黒コントラストが美しい。花の色は、白色だけでなく、紅色の花の咲く種もある。ただし、紅色は育ててみると、白色のヤマシャクヤクより難しく、生育形態が少し違うようである。
 シャクヤクが日当たりのよい場所を好むのに対し、ヤマシャクヤクは日陰でないと生育できない植物である。芽の出た頃の午前中の日差しは望ましいものの、初夏からの直射日光は決して当ててはなりない。さらに乾燥が加われば、葉は焼け、枯れることもある。地植えにあたって考慮することは、夏期はもちろん、冬期も樹林下になるようにしなければならないことだ。具体的には、シラカシやツバキなど鬱閉度の高い常緑広葉樹より、常緑樹であればキンモクセイ、落葉樹ならカエデ類の下に植栽することが望ましい。それも、風通しのよい場所が望ましい。

イメージ 17
イメージ 8  植栽地の土は、粘土質でなければ選ばないようであるが、耐水しないこと。多少乾燥気味でも生育し、過湿は根腐れを起こしやすい。また、土質は多少肥沃な土の方が花つきがよい。ある公園では、化成肥料を散布している例もあり、たぶん肥料焼けしにくいのだろう。
  植栽時期は、シャクヤクと同じで晩秋が良いとの見方もあるが、私は芽の出た直後が適しているように感じる。植栽地周辺が過密にならなければ、病虫害はあまりない。種がこぼれ、発芽し殖えるくらいで、管理は比較的容易である。注意するのは、夏期の高温で、地表が湿る程度の散水を夕方行なうことが望ましい。

ヤマブキソウ
 イメージ 9 ヤマブキソウは、ケシ科の多年草である。草丈は40㎝程になり、幅は草丈以上に広がりがある。ヤマブキソウは、灌木のヤマブキ(バラ科)の花に似ていることから名付けられたように、ヤマブキそっくりである。別名、クサヤマブキとも呼ばれ、花はヤマブキより少し大きく、3~4cmで花びらは4枚。花の色は、透明感のある黄色でヤマブキよりむしろ美しい。植栽も管理も容易なのに、あまり植えられていないのが不思議なくらいである。
イメージ 10 自生地は、比較的明るい林内や林縁で、群生することが多い。花の咲く頃までは陽に当てた方が良いが、それ以後は半日陰となることが望ましい。実際に植栽してみると、かなり耐陰性があり、ほとんど日陰となるような場所でもよく生育すること画わかる。逆に、夏期に直射日光が当たると葉が枯れて、翌年の花つきが悪くなる。
イメージ 11  ヤマブキソウは、植栽地が乾燥しなければ土質を選ばない。施肥は不要だが、肥沃な土壌を好むようである。耐陰性があり、土壌を選ばないことから、植栽可能地にこと欠かない。たとえば、建物の北側で、草花の植栽が困難な場所でも生育し、こぼれ種から殖えるくらいである。植栽の時期は、夏期以外であればいつでも可能で、容易に活着する。移植時に、根を崩さず植えれば失敗することはまずない。なお、根は根塊から出ており、多少切れても支障はない。
イメージ 12
 また、繁殖も容易で、株分け、播種どちらも可能である。株分けは、株を分けるというより、塊を割る感じで行なう。播種も、こぼれ種からあちこちに発芽することから、早春に移植すれば良い。
  植栽後の管理は、病虫害がほとんどないことから容易で、手入れは不要。注意しなければならないのは夏期の散水で、水分過剰は根腐れを起こす。ヤマブキソウは、葉が十分に繁茂すれば、地下の根塊は肥っており、水不足で枯れても翌年の花には影響ない。

ラショウモンカズラ
イメージ 13  ラショウモンカズラは、シソ科の多年草である。蔓状に生育し、草丈は30㎝程の高さだが、匍匐して倍以上に伸びる。地面に茎が着くと根を生やし再び伸びるという、繁殖力の旺盛な植物である。カキドオシに似ているため、間違える人も少なくない。ちなみに、カキドオシの取り扱いはラショウモンカズラとほぼ同じで、さらに容易である。ラショウモンカズラという名は、花を渡辺綱羅生門で切り落とした鬼女の腕の形に見立てたものである。
 イメージ 14 カキドオシが雑草として蔓延るためか、それに似ているラショウモンカズラはあまり人気がないようだ。が、花の美しさはもう少し注目されてもよい、と思うほどである。シソ科の野草の花としては最も大きく5cm程、青紫色の花が10輪以上にまで連なる。耐陰性があることから、ラショウモンカズラより丈の高い植物の下に植栽するとよい。花期は4月から5月であるが、狂い咲きすることが多く、季節外れにも咲くことがある。
 
イメージ 15
イメージ 16植栽は容易で、土壌は選ばす、植栽時期も7月までであれば失敗することはないだろう。半日程度であれば直射日光に当てても枯れることはなく、日陰地であれば散水も不要。管理は容易だが、逆に繁茂しすぎないようにしなければならない。繁殖は、地面に付いた部分から根の出た部分を切取り、移植すれば良い。