初夏の草花

初夏の草花
エビネタツナミソウ、チョウジソウ、ヒメカンゾウ
  五月に咲く草花(東京周辺)を紹介すると、まずアヤメ類(イチハツ、カキツバタハナショウブ等)、エビネクリンソウシャクヤク、シラン、セキチクセッコクタツナミソウ(コバノタツナミソウ等)、チョウジソウ、ハルリンドウヒメカンゾウミヤコワスレなどがあげられる。その中でも、比較的容易に植えられる植物として、アヤメ類、エビネシャクヤク、シラン、セキチクタツナミソウ、チョウジソウ、ヒメカンゾウミヤコワスレがある。
  アヤメ類、シャクヤク、シラン、セキチクミヤコワスレは、庭や公園などで見ることができ、比較的知られている。それに対し、タツナミソウ、チョウジソウ、ヒメカンゾウは、あまり見る機会がなく、使用されていないような気がする。そこで、和のガーデニングとして薦めたい植物として、タツナミソウ、チョウジソウ、ヒメカンゾウ、さらにエビネを紹介したい。

エビネ
イメージ 1  エビネは、ラン科の多年草で、植物に関心がある人なら誰でも知っている植物である。ただ、大半は鉢植で、高価なエビネを鑑賞するというスタイルである。しかし、以下に示すエビネは、これまでの「貴重なエビネ」という概念にとらわれず、エビネの特性を活かしたより身近な植栽を提案したい。
  ここで対象とするエビネは、いわゆる地エビネ (ジエビネ) やキエビネなど比較的育てやすい種である。エビネ(以下、ジエビネなどを指す)は、北海道から沖縄まで、林床のどこにでも普通に見られる植物である。自生する原種のエビネは、他の植物に負けず、病虫害も少なく、頑強な植物と言える。なかでも、耐陰性と耐乾性はきわめて高く、そのため特別な管理は要らない。また、エビネは繁殖も旺盛で、根の基部(バルブ状の)はよく増殖し、そこから容易に葉が出る。
 
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エビネの栽培は容易で、後の管理も、直射日光を長く当てたり、水浸しのような過湿にしさえしなければ枯れることはない。葉が虫に食われたり、斑点が生じたりすることはあるが、多少のことでは枯れない。そのため、冬期の霜に当てないなどの当然防ぐべきこと、病虫害の注意事項などは、ここでは特に触れない。もし、エビネの詳細な栽培法が気になる方は、様々な資料が出されているので、それらを参考にされたい。
イメージ 2  まずエビネの生態を示すと、2月に入ると芽が伸び始める。しかし、本格的に生長するのは3月後半からである。花芽は葉の生長と共に伸び、4月の末頃から咲き、5月中旬くらいまで咲いている。その後もエビネの葉は生育し、梅雨明け頃からは、逆に勢いが衰える。夏の高温が続くと、立っていた葉が傾き倒れてしまう。それでも、枯れることはないのでそのままにしておいてよい。秋には葉はしっかりとしていて、冬になってもすべての葉が枯れることはない。倒れたままで年を越し、やがて枯れ始める。(芽の写真参照)
イメージ 4 次に成長に合わせて、他の山野草と一緒に植える例を示す。まず、エビネの芽の写真には、キクザキイチゲの芽も写っている。3月に入るとキクザキイチゲが先に繁茂し、開花する。キクザキイチゲが枯れ始める4月の末頃から、エビネの花が開花する。6月には、エビネが植栽地の全面を覆うようになる。
 イメージ 5そして、エビネの中にキツリフネが生育し、9月に開花する。このように、他の植物と一緒に楽しむことができる。また、キクザキイチゲにとっては、地上部のない期間にエビネが生育していることによって、踏み込まれることはなく保護してもらえることにもなる。
イメージ 6 また、同時期に咲く花との、花の色の対比を楽しむこともできる。たとえば、キエビネサクラソウを植えると、写真のように黄色とピンクが互いに引き立て合う。このように、他の植物と一緒に植えることで、エビネが他の花の背景となる。また、逆に背景となる植物を植えることで、植栽地の魅力を増すことができる。

タツナミソウ
イメージ 7  タツナミソウはシソ科の多年草で、草丈は30㎝前後である。花は、名前のように長さ3~5cmの唇形で、穂状花が同方向に連なり、波頭のように見える。花の色は青紫色から淡紅紫色である。一面に咲く光景は趣があり、ポットで楽しむより、地植えの方が適している。日当たりを好むが、多少日陰でも良く生育し、草丈があるので他の雑草にも負けにくい。ただし、踏圧の多い場所では案外弱いので、土が固まらない、比較的排水のよい場所が適している。
イメージ 8  タツナミソウという植物がいつ頃から知られるようになったかを調べると、初見は、『草木名初見リスト』(磯野直秀)によれば『諸国産物帳』(享保20~23年1735~38年)とされている。思っていたより遅く、江戸時代にはあまり注目されていなかったようだ。その理由は、芽吹きが4月になってからと遅く、他の草花に紛れ判りにくいからだろう。開花は植えている場所によってかなり違いがあり、5月から6月初めまでの開きがある。タツナミソウが知られない理由として、5月ころに咲く草花は数多く、その中の花としてはインパクトがさほど強くない、ということもあるかもしれない。それでもタツナミソウが波のように咲き並ぶ様子は、独特の趣があり、一度は植えてみたいと思わせる魅力がある。
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  タツナミソウは、どのような植物と相性が良いかなど、組合せはまだ試していない。そこで、タツナミソウの可能性について、これから検討するため、タツナミソウの性質を示す。まず、移植時期は、芽の出る前は判りにくいので避け、芽の出たすぐ、それも梅雨入り前までなら、比較的活着が良い。移植の際、掘り取る深さは10㎝位までで良いと思う。根の広がりもほぼ同じくらい。土は特に選ばないが、壌土~植壌が適しているようだ。
  植栽地の環境として気をつけたいことは、暑さと乾燥である。寒さには弱いとされているが、東京周辺であれば地中が凍結することはほとんどなく、問題はないと思われる。そのため植栽は、多少木陰ができるような場所を選ぶことを薦めたい。タツナミソウの繁殖は、地下茎と種子からも容易にでき、環境条件がよければ、何もしなくても自然に増えるくらいである。
イメージ 10 なお、タツナミソウの変種に、ひと回り小さいコバノタツナミソウがある。海岸沿いや丘陵地などに自生し、タツナミソウより強靱で、近年園芸植物として使用されることが多くなっている。コバノタツナミソウは、草丈は5~15cm。花は2cm程の青紫・白色の花をつける。開花は、タツナミソウより早く、4月から咲く。コバノタツナミソウがタツナミソウと異なるのは、一月にも葉が青々していることである。

チョウジソウ
イメージ 11  チョウジソウは、キョウチクトウ科多年草で、草丈は30~60㎝程である。花の大きさは1~1.5㎝と小さく、色は青から薄青紫色である。花が、上から見ると「大」の字に、また横から見ると「丁」の字のように見えることから、チョウジソウと名付けられたとされている。チョウジソウは江戸時代には人気があり、活花や茶花としても使用され、絵手本である『野山草』(橘保国)にも描かれるほどであった。しかし、現代では一部の人しか知られず、あまり見る機会がない。だが、最近になって市販されていることがわかった。もっとも、市販されているのは、国産のチョウジソウではなく、北米原産のホソバチョウジソウではないかと思われる。
イメージ 15  自生地では林縁に群生し、耐寒性があり、強靱な植物だという印象を受けた。チョウジソウの芽出しは、3月中頃以後である。
イメージ 12植栽は容易で、土壌は踏み固められた粘土質や礫まじりの砂土でもない限り生育する。チョウジソウは、多少の乾燥にも耐え、湿地でもない限り適応する。移植は、夏期と冬期以外であれば可能。根は株のように固まっていて、細い枝根は10㎝位まで掘り取れば良いだろう。また、株分けによる増殖だけでなく、実生からの生育も容易である。管理も容易で、病虫害はほとんどなく、施肥の必要もない。どちらかと言えば過密防止のための株分けが必要だろう。
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イメージ 13 チョウジソウは、派手さはないが、自己主張しないので扱いやすい。また、一面に咲くと見応えがある。チョウジソウの良いところは適応性の高いことだ。いろいろな場所に植えて試したがすべて成功している。たとえば、キンランの脇に植えてみた。現在でも両方とも咲き続け、ほぼ同時期に花を咲かせ、見るものの目を楽しませてくれる。なお最近は、年数が経過したことから双方の勢いは少し衰え、花つきが良くない。特にキンランが衰退気味である。
 イメージ 14 次に試みたのは、シュウカイドウやギボウシなどの側に植えたケース。当初、チョウジソウを地植にしたら、ギボウシを駆逐した。そのこで、チョウジソウはポットに植えて、根が広がらないようにした。また、シュウカイドウについては、種からよく増えるので、蔓延らないように間引きをしている。また、背後となる西側にアキチョウジを植えてみた、これはまだ間もないため、即断できないものの持続するものと思われる。

ヒメカンゾウ
イメージ 16 ヒメカンゾウは、ユリ科多年草で、草丈は30~60㎝程である。原産地は不明であるが、江戸時代から植栽されている。5~7㎝くらいの黄橙色の花をつける。日当たりのよい場所であれば、土質は選ばないようで、施肥も不要である。ヒメカンゾウは、根からの繁殖力が強く、すぐに密生するので株分けが必要である。また、移植は容易で、寒さにも暑さにも強く、取り扱いは容易な植物である。
イメージ 17  ヒメカンゾウは、三月に入ると芽を出す。その後勢いよく生長し、四月末頃から五月中旬にかけて咲き、八月の末頃から枯れ始める。来年に向けての移植は、十月に入ってからでよい。ヒメカンゾウの根は長く、30㎝位間で伸び、その先からまた芽が出る。途中に膨らみがあり、移植に際しては、その下より数㎝までで切り離してよい。土質は、砂壌土から埴土くらいまで対応するくらい。移植は容易で、真夏や真冬のような条件の悪い時を除けば、いつでも可能と言えるくらいである。病虫害は少ないものの、開花後にアブラムシがつくことがある。栽培上気をつけることは、風通しのよい十分に日の当たる場所に植えること。乾燥させないことくらいである。
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 イメージ 19 ヒメカンゾウの植栽は、当初、矮性のアヤメの隣に植えたが、ヒメカンゾウの勢いが強くアヤメの中に進入した。その翌年にはアヤメを駆逐したので、ヒメカンゾウをポットに移した。それでアヤメへの浸食は止められ、現在はうまく共存している。なお、ヒメカンゾウとアヤメの花が同時に開き、黄色と紫色のアンサンブルを見ようとしたが、ヒメカンゾウの方が少し早く咲いてしまった。
  ポットに植え替えたヒメカンゾウのその後は、地植と変わらないくらいの勢いで増え、2年目にはまた株分けが必要である。ヒメカンゾウだけの植込みなら地植えもよいが、他の植物と共に鑑賞するには、ポット植えにすることを薦めたい。また、同じように繁殖力の旺盛な植物、たとえばミヤコワスレのような植物と混植することも試してみたい。