梅雨の草花

梅雨の草花
オカトラノウ、クガイソウ、コシジシモツケ、ソバナ、トリアシショウマ
  山野草の植栽(特に植え替え)時期としては、四月から梅雨に入る直前を薦めたい。鉢植の場合は、根の動き出す直前か、根が休眠している時期が最適とされている。たが、ここで問題なのは、地上部がなければ休眠中かということ、必ずしもそうではないことだ。さらに、地植えの植物は、移植時に植物の地上部が見えないと、根や球根の所在がわかりにくい。また堀取り時に、隣接地にある植物を傷つけてしまう恐れがある。特に、貴重な植物の近くを掘る場合は、細心の注意を払う必要があり、地上部のある時期の方が適している。
  次に、移植後の散水を考慮すれば、植物の数が少なければそほど問題はないが、何種類もあって、あちこちに移植した場合は、その後の散水に大変な労力がかかる。そのため、なるべく自然の散水を期待したいことから、梅雨入り前までに移植しておくことが望ましい。
  さて、六月には山野草らしい花が次々に咲く、その中でオカトラノウ、キスゲクガイソウ、コシジシモツケスカシユリ、ソバナ、トリアシショウマ、ネジバナノカンゾウ、ホタルブクロ、ヤブカンゾウなどは代表的な植物である。その中からオカトラノウ、クガイソウ、コシジシモツケ、ソバナ、トリアシショウマを紹介したい。これらの植物は、草丈が50㎝以上あり、半日陰を好むものの日の当たる場所にも生育するという、これまでに紹介した野草とは少し性質が異なる。

オカトラノウ
 イメージ 2オカトラノウはサクラソウ科の多年草で、草丈は0.5~1.0m程である。花は、茎の先端に多数の白色の小花(直径8~12mm)を穂状(総状花序)に10~20cm程つける。植物名から虎の尾を連想させるが、実際は猫の尾よりも短い。「虎の尾」と呼ぶ植物は、オカトラノオの他にもクガイソウがある。これらの花は、江戸時代の初期から活花や茶花によく使用され、人気が高かった。オカトラノオの魅力は、たたずまいが清楚であまり自己主張しないこと。群生していても周辺の植物と馴染みやすい。移植もその後の管理も容易なので、個人庭園だけでなく、公園や街路の花壇への植栽を薦めたい。特に、雑草が繁茂し、見苦しい状況になりやすい沿道の植込みには、最適である。
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イメージ 3  オカトラノウは、見た目にはさほど強そうに見えないが、在来種としては外来種にも負けないくらい強靱な植物である。草丈が高い割りには、根は浅く、10㎝程の深さに地下茎が伸びている。表土の厚さをあまり確保できない場所に植える植物としては、最適である。土質も選ばず、多少の乾湿には耐え、病虫害もほとんどなく、移植も管理も容易である。
イメージ 1オカトラノオは、3月下旬頃から芽が出ることから、移植はそのころから真夏を避ければいつでも可能である。なお、移植後活着すれば繁殖力は旺盛で、個人の庭では増えすぎないようにコントロールする必要がある。小さな庭では、地下茎の広がりを制限するためポットに植え、他の植物の場所への浸食を防ぐ必要があるくらいである。日照については、日の当たる場所を好むが、半日陰でも十分に生育する。個人の庭では、日向より半日陰くらいの場所に植えた方がよい。
イメージ 4  オカトラノウが一面に咲いた光景もよいが、ゼンテイカノカンゾウなどと共に植え込むことを提案したい。その他にも、クガイソウミヤコワスレなどとの組合せ、ハンゲショウオオバギボウシなどとのコラボレーションも試してみたいと思っている。




クガイソウ
 イメージ 6 クガイソウは、オオバコ科の多年草で、草丈は0.8~1.3m程と野草としては高い。葉は、幅1~5cm、長さ5~15cmで、4から8枚が輪生したものが茎に蓋のように9層(実際は6~10)付くので、九蓋草という。花は、茎の先端に多数の淡紫色の小花(1~5mm)を穂状(総状花序)に20~30cm程付ける。また花は、穂状の花の根元に、小さな(10~20㎝)穂を6程輪生状に付けるものもある。クガイソウは東京周辺の平地でも十分に生育する植物だが、高山植物としても人気のある植物である。この花の群生は、清涼感を感じさせるので、庭や公園の一角に植栽したい。
イメージ 5  クガイソウは、三月中旬から芽を出し生育する。根は細根が発達していて、株分けしやすい。長い根は30㎝以上になるが、20㎝程度あれば活着するので、移植も容易である。日照を好むものの、夏季の直射日光は避けた方がよく、半日陰となる場所に植栽したい。土質は特に選ばないものの、乾燥に弱いことから散水ができない場合は保水性のある土壌が望ましい。寒さに強く、夏には葉焼けすることもあるが根が乾燥しなければ問題ない。注意したいことは、花の咲くころのアブラムシの発生である。枯らすまでにはいかないが、見た目がかなり悪くなる。対策としては、殺虫剤を使いたいところだが、早いうちに手で落としてもよい。しかし、公園などあまり管理の行き届かない場所では、ある程度の発生は覚悟しなければならないだろう。
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イメージ 7  配植で考慮することは、クガイソウだけを植えると、風で倒れることがある。そこで、ミヤコワスレ(カントウヨメナなど)やフジバカマ(サワフジバカマなど)を混植するとよい。また、クガイソウより草丈の高いソバナを一緒に植えることも提案したい。なお、クガイソウによく似た植物として、外来種のベロニカがある。



コシジシモツケ
イメージ 8  コシジシモツケ(ソウ)は、バラ科多年草で、草丈は0.6~1.2m程である。花は、茎の先端に淡紅色の小さな花を穂状(10×20㎝の散房状花序)に多数つける。なお、コシジシモツケの園芸種としてキョウガノコがある。これらは、素人目には区別がつかず、どちらを植栽しても外観ではわからないようだ。この花を庭や公園に薦める理由は、和の雰囲気を感じさせるからである。また、栽培は比較的容易で、群落まではにならなくても十分に鑑賞できる。
 イメージ 9コシジシモツケは、日本海側に分布する植物であるが、関東地方でも十分に生育する。コシジシモツケキョウガノコには、淡紅色だけでなく紅や白色もあり、白色は茶花として人気がある。東京周辺では3月初旬に芽を出す。繁殖は株分けとされているが、少し離れた場所に種から発芽した芽を見ると、種からの繁殖も容易なのではないかと思われる。根は、株から20~30㎝ほどの細根が発達しており、移植は容易である。根がしっかりとしていれば、夏季を除きいつでも可能だ。日照については、半日陰より日当たりのよい方が良く生育する。夏季の直射日光にも耐えるが、その場合は少し湿り気のある場所が適している。そのため、土質は特に選ばないものの、根が乾燥しないことが必要である。病虫害については、ほとんど発生はなく、管理の容易な植物である。 
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イメージ 10 コシジシモツケは、1株でも数本立ちし、草丈に加えて葉の茂りが多くボリューム感がある。5月に入ると、急激に繁茂し2株でも1㎡くらい地表を覆い、埋め潰しや後方の目隠しに適している。逆に、成育のよい場所では放置していると過密になるので、3~4年に一度は株分けする必要がある。また、コシジシモツケの中にツリガネニンジンやソバナのような草丈が高くなる植物を植えることを提案したい。

トリアシショウマ
イメージ 11  トリアシショウマはユキノシタ科の多年草で、草丈は0.5~1.0m程である。花は、穂状で白い小花を円錐状につけ、15~25cmくらいになる。トリアシショウマは本州中部以北に自生するとされているが、東京周辺でも十分生育する。また、園芸店でトリアシショウマによく似た植物が売られているが、それはアスチルベで園芸品種である。
イメージ 12  トリアシショウマは、三月下旬に芽が出るが、その若芽の先端に出る3枚の葉が閉じた姿が、鳥の足に似ていることからその名が付いたとされている。花芽形成の過程はよくわからないが、前年にすでにできているような気がする。なお、トリアシショウマの若葉は食用になり、食感や独特のぬめり感などのある山菜としても知られている。
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イメージ 13 植栽地は、半日陰の場所が生育に適しているが、土が乾燥さえなければ日向でもよく生育する。移植は容易で、病虫害も少なく管理の容易な植物である。また、根の繁殖力は比較的強く、株分けは植栽後3年経てば行なえるほどだ。そのため、庭に植栽するだけでなく、街路樹の下草として使用することを提案したい。



ソバナ
イメージ 14 ソバナはキキョウ科の多年草で、林縁や沢沿いなどに自生し、草丈は1.0m程とされているが、我が家では2.0m位まで伸びる。ソバナの芽吹きは三月初旬で、枯れるのは十一月。ソバナは、若芽を食用にするくらいで、柔らかい先端部分を害虫に食べられることもしばしば。が、早期であれば、また横から枝が出て花芽を付ける。
イメージ 15  山地での花期は、8月頃とされるが東京周辺では6月から咲く。花は、茎に出た10以上の小枝に、青紫色の円錐状に近い鐘形の花をつける。ソバナは2.0m位に伸びると、40㎝程に広がり多数の花をつけ、見応えがある。ただ、高くなると自立して生育することは難しいため、添えの支柱が必要となる場合もある。花の咲く時期にはちょっと注目されるが、その他の期間は存在を忘れられるようなあまり目立たない植物である。
 イメージ 16生育には半日陰で湿り気のある場所が適しているが、滞水すると根腐れする。土壌はあまり選ばないものの、肥沃な方が花つきが良い。移植は比較的簡単、できれば、太い根茎が十分に伸びるように柔らかい土壌に植えたい。植える場所は、他の草や灌木の中から伸びることを考慮して選びたい。

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