盛夏・東京オリンピックの草花

盛夏・東京オリンピックの草花
  2020年8月、東京オリンピックパラリンピックの開催時には、ぜひ外国から訪れた人々を「日本の花おもてなし」したい。世界各国から集まるオリンピックは、日本の「花」を全世界にアピールする絶好の機会でもある。日本の良さを印象づける「日本らしい花」、それには「日本ならではの花」、さらに外国では「見ることのできない花」を、空港や駅やホテル、競技会場などに積極的に飾りたい。
 オリンピック期間は7月24日から8月9日までの17日間。真夏の開催は、植物にとっても厳しく、高温から花を守ることの難しさがある。また、春に比べて花の種類も少ない時期なので、美しい花をどうやって確保するかも難しい。しかし、日本のガーデニング技術は世界最高であり、難問があればあるほど、それに対応する技術を世界に誇ることができる。日本の花は、「おもてなし」の主役として、様々な機会を通じ、その素晴らしさを外国の方々に感じていただく絶好の手段である。またこれをチャンスに、日本の「花」を世界にPRする機会でもある。
イメージ 1  以前、外国人にバラ園を案内しようと提案したら、バラは自国でも見られるので、ぜひ日本の花を見てみたいと告げられた。考えてみれば確かにその通りだろう、わざわざ時間と多額の費用をかけて外国を訪れたら、その国でしか味わえないものをリクエストするのが当然である。イメージ 2そこで、東京オリンピック開催期間に咲いている日本ならではの花を探すと、アサガオオニユリオミナエシカノコユリカワラナデシコ・キキョウ・キツネノカミソリギボウシ・キレンゲショウマ・クルマユリサクユリ・シモバシラ・ツリガネニンジン・ツリフネソウ・ハマゴウ・ハマボウハンゲショウヒオウギ・フシグロセンノウ・ミソハギミヤマアズマギク・レンゲショウマなど20種類以上もの花が咲いている。
イメージ 3  その中で、外国の人にぜひ見せたい花は、江戸の夏を彩った花、Japanese morning-glory 朝顔である。花の種類が豊富で、鉢植え、生花、地植えと様々な見せ方がある。変化アサガオも面白いが、さらに、朝顔人形を見せたらどういう反応を得られるだろう。近年は日本人ですら見る機会のない朝顔人形だが、明治30年代までは毎年飾れられ、世間を賑わしていた。
イメージ 4 お薦めのもう一つの花は、レンゲショウマである。銀色を帯びた淡い紫の花は、逆光から覗くと透き通って見える。可憐で、しかも凛として媚びない、日本ならではの魅力を示す花である。暑い夏に咲くレンゲショウマは、涼感と同時に、幻想的な雰囲気を醸しだす。外国から訪れた方に、まず空港で見てもらいたい花である。
  選手村やマラソンコース沿道の花壇を飾る、夏の炎天下に咲く花としては、オニユリオミナエシカノコユリ・キキョウ・クルマユリ・シモバシラ・センノウゲ・ツリガネニンジンハンゲショウヒオウギミソハギミヤマアズマギクなどがある。なかでも、ユリ類は、花壇にふんだんに植えることを期待したい。もちろん、オミナエシ・センノウゲ・ツリガネニンジンハンゲショウヒオウギミソハギなどを混植することは言うまでもない。さらに、並木の下の植込みについては、カワラナデシコ・キキョウ・キツネノカミソリキツリフネ・キレンゲショウマ・サラシナショウマ・フシグロセンノウ・マツムシソウミヤマアズマギクなどが適している。また花壇には、草花に限らずハマゴウ・ハマボウ・フヨウなどの灌木も加えたい。
 以上の中から詳しく紹介する植物は、オミナエシヒオウギツリガネニンジン、レンゲショウマである。

オミナエシ
イメージ 8 オミナエシは、オミナエシ科の多年草で、草丈は30~100㎝程である。花は、茎の先端に黄色の小花を傘状に広げて咲く。オミナエシ秋の七草の一つにあげられているが、六月初めから九月まで鑑賞できる花期の長い花である。多少の日陰でも育つが、炎天下にも負けずに咲く強靱な植物でもある。移植も容易で、地下茎によりよく繁殖し、病虫害の心配もほとんどない。数株植えても、群生したような光景になるので、庭や公園の一角に植えたい植物である。ただ気になるのは、花の匂いである。人によっては腐臭を感じ、嫌う人がいることも考慮したい。
イメージ 9 オミナエシの芽は、二月の末頃から動き出すが、開花するのは六月になってからである。花が咲いている期間が長いことから、色々な花とのコラボが楽しめる。イメージ 10オミナエシは、どちらかといえば中心的な役割を果たす花ではなく、引き立て役の方が適している。たとえば、キキョウ、ソバナ、ナデシコミソハギなどの傍に植えると、互いの花の良さが引き立つ。その他にも探せば、相性の良い花があると思う。そうした植物に、同じオミナエシ科のオトコエシがあり、一緒に植えてみたい。イメージ 11オトコエシは、オミナエシによく似ているが、オミナエシに比べ男性的であるとされている。花は白色で、開花はオミナエシより少し遅れる。茎は少し太くしっかりしている。
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  オミナエシを増やすには、梅雨に入る直前、脇から出た芽を切り移植する。根茎は太く横臥し、芽が垂直に出てくるので切断しやすい。根茎から伸びる細根はあまり太くなく、本数も少なく頼りないようだが、案外簡単に活着する。

ヒオウギ
イメージ 13 ヒオウギは、アヤメ科の多年草で、草丈は40~100㎝程である。葉が扇のような形となり、茎の先端に、白い斑点のある橙色の花をいくつか付ける。ヒオウギは日照を好み、炎天下にも耐えうる、しかも、土質を選ばす、施肥も不要である。移植は容易で、病虫害の心配もなく管理の容易な植物である。イメージ 14試しに、根の土を洗い落とし、メール便で送っても、2、3日間であれば枯れることなく活着する。またヒオウギは、六月に移植しても花が咲く程強靱な植物である。ヒオウギは種からも根からも増え、耐寒・耐暑と強靱であるため、公園などにもっと積極的に植えたい。
イメージ 15 ヒオウギの芽出しは遅く、四月中頃のようだ。と言うのは、他の多くの植物は既に生育し、花が咲いているので、それらの方に気を取られ、ヒオウギの芽を写すことを忘れてしまう。五月になり、ヒオウギが15㎝以上に伸びたところで、やっとその存在に気づくことが多い。開花は七月に入ってからで、それも末頃から咲く年もある。開花するまでは、あまり目立たない植物だが、咲けば独特の橙色の花は存在感を示す。ヒオウギは、エビネランが生育するくらいの乾燥地であっても十
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分に耐え、半日陰の場所でも開花する。また、土の少ないところでも良く生育し、開花する。

ツリガネニンジン
イメージ 5  ツリガネニンジンはキキョウ科の多年草である。草丈は、資料によっては0.3~1.0mとの記述もあるが、肥沃な庭や公園などでは1mを超える例も少なくない。花は、茎の上部から5~9段に青紫色の鐘形の花を下向きに輪生する。花は可憐だが、炎天下にもよく耐え、土壌条件の悪い場所でもワレモコウと同程度に育つ強靱な植物である。
イメージ 6  ツリガネニンジンは、東京周辺では三月中旬以降から芽を出し、七月に咲く種と八月に咲く種があるようだ。花の色は白と青紫だが、青紫とは言うものの炎天下では白みがかって見える。高原や山で見る独特な透明感のある色は、平地では期待しにくいかもしれない。根(根茎は生薬)は、ニンジンと言うよりゴボウのように細長い。根が地中深くまで入っているため乾燥にも耐え、また強靱なことから土質は選ばない。移植は芽出しの直後と秋の枯れた後が適している。株分けも同時期で、根が深いことから、掘り取りさえ確実に行なえば容易である。ツリガネニンジンは、病虫害の心配がなく管理も容易である。
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 ツリガネニンジンは、根が広がらないことから、他の植物との混植に適している。ただ、植栽で注意することは、何本かまとめて群植しても、直立しにくく倒れやすいことである。そのため、他の植物(ヨメナ・フジバカマなど)と混植する必要があるが、周囲にツリガネニンジンより早く生育する植物を植えると被圧されることがある。

レンゲショウマ
イメージ 17 レンゲショウマはキンポウゲ科多年草で、草丈は50㎝程だが、花茎は90㎝以上に伸びることもある。花は3~4㎝程の大きさで、透明感のある淡い銀紫の花を下向きに咲かせる。一茎に10輪以上の花をつけることもあり、群生する姿は見応えがある。特に自生地では、うす暗い中に咲いていることから、遭遇した時の感動はまた格別である。
イメージ 18  レンゲショウマの芽吹きは三月中旬。蕾は六月に入ると膨らみ始めるが、その速度はゆっくりで、なかなか開かない。開花は七月になれば始まるが一斉に開くことはなく、上部から徐々に咲き、九月中頃まで咲いている。葉は、十月には枯れ始めるが、養分を蓄積するためにできるだけ残しておきたい。花芽は秋に形成されるようで、そのためにも葉のあることが重要である。ただ、できるだけ葉を残し養生させても、花は隔年しか咲かないことがあり、なかなか思うようにならない植物である。
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 植栽、移植を嫌う植物かと思ったが、夏や冬を避け、根を痛めなければ案外容易に活着する。株分けも容易で、移植時に少し残った根からも再生され、株も大きくなる。また、土壌も乾燥さえしなければあまり選ばないようだ。ただ、山野草について一般に言われる、夏の暑さと直射日光、大気の乾燥に注意する必要がある。気をつけるのは、レンゲショウマは暑さにやや弱い植物で、夏に枯れることがある。それは根が充分に生育していないことに原因がある。加えて、適正な灌水が行なわれないことや風通しの悪化、無用な施肥などがあげられる。病害虫は、比較的少ないといえるが、新芽はどうしてもヨトウムシなどに狙われやすい。