初秋の草花

初秋の草花
  夏の暑さは、年々厳しくなっている。例年なら、炎天下にもよく耐えるツリガネニンジンやワレモコウなども、近年は枯れそうなくらいに弱る。酷暑は山野草にも影響を与え、そのせいか秋の花の開花が遅くなっているのではないかと思われる。九月は、台風や秋雨前線による降雨、暑さも落ち着いてくる時期だが、事情が変わった。これまでなら、株分け、挿し芽などに適した時期であった。しかし、30℃を超える日が続くと、秋蒔きの種は発芽せず(温帯植物の発芽最適温度20~25℃)、挿し芽もうまくいかない(発根能力は25℃以下が適)。また、病菌の発生は30℃以上でぐんと高まる。そのため、作業の時期を遅らすか、地温を25℃以下にするような管理をしなければならない。
  九月の花としては、八月から咲いているアサガオオミナエシカワラナデシコ・キキョウ・ギボウシ・キレンゲショウマ・ツリガネニンジン・ツリフネソウ・ハマカンゾウ・ミズギボウシミソハギ・レンゲショウマに加えて、アキギリ(キバナアキギリ)・アキチョウジ・イヌショウマ(オオバショウマ)・キレンゲショウマ・シオン・センニンソウ・タカクマホトトギスツルボナンバンギセルヒガンバナなどある。これらの植物の中で、特にアキチョウジ、キバナアキギリ、シオン、ハマカンゾウを紹介したい。 
  
アキチョウジ(セキヤノアキチョウジ)
 イメージ 1アキチョウジの自生地は中部以西、セキヤノアキチョウジは関東以北にというように自生地が異なるものの、花は区別できないほどよく似ている。性質も差が見られないので、アキチョウジとして述べることにする。
 アキチョウジは、シソ科の多年草で、草丈は30~90㎝程である。花は、茎から柄が出てその先に青紫の筒状の唇形花(2㎝位)を付ける。全体に小花を散りばめたように咲き、また、散って落ちた花が、地面に青いカーペット状に残り、それも美しい。一見、弱そうに見えるが、暑さ寒さにもよく耐え、かなり乾燥しても枯れない強い植物である。病虫害の心配もほとんどなく管理も楽である。
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イメージ 2  アキチョウジの芽吹きは案外遅く、三月下旬になってからである。その後の生長は早く、四月になって急に伸びる。移植は容易で、株分けは、この時期が最適である。なお、アキチョウジは強靱な植物なので真夏でも移植ができ、試しに挿木も可能か挑戦した。写真のように、八月に挿木をして、九月には活着した枝に蕾を持ち、開花した。花は十月になっても咲き続け、比較的花期が長い。
  イメージ 3アキチョウジはよく茂り、周辺の植物に覆い被り光を遮るので、十分なゆとりをもって植えた方が良い。茎は、伸びて倒れ地面に触れると、そこから根が出て、一株植えると、そこから徐々に広がっていく。樹下など半日陰に植えることが望ましく、かなり日陰でも生育する。樹木の下に植えれば、雑草の繁茂が防げる。アキチョウジは耐陰性があることから、他の植物と混植しても負けずに生育する。たとえばキツリフネやシロバナホトトギスなどとの混植することを薦めたい。

アキギリ(キバナアキギリ
 イメージ 5 シソ科の多年草で、草丈は20~40㎝程である。花は2~3㎝位で、茎の先に列状に並び、キリの花に似ていることから命名されたようだ。特別人目を引く花ではないが、公園や庭の片隅に咲いている姿は、心休まるものがある。アキギリとキバナアキギリの違いは、花の色と葉の大きさである。アキギリ(オオアキギリ)は紫色、キバナアキギリは黄色の花が咲く。葉の大きさは、個体差や生育地で評価が違うこともあるので断言できないが、キバナアキギリの方が大きいような気がする。
イメージ 6 3月下旬に芽を出すが、その頃にはアキギリとキバナアキギリの区別はつかない。そのため、アキギリとキバナアキギリの取り扱いはほぼ同じで、片方だけに特別な世話をしたという記憶はない。そして、アキギリの白い花を付けた株を見ると、この二つは雑種を作るのではないかと思われる。アキギリは、本来は日当たりの良いところを好むようだが、日陰の場所でもそれなりに生育する。雑草のなかでも生育し、雑草と間違えて引き抜いた株を、適当に移植しても活着するほど強い植物である。なお、病気の発生は少ないが、虫に葉を食べられることがよくある。葉に穴が空いても、枯れることはなく、毎年咲いてくれる。 
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 アキギリはあまり自己主張しないことから、同時期に咲く植物との混植を進めたい。たとえば、シュウカイドウをあげたい。シュウカイドウは、正確に言えば、江戸時代に渡来した植物であるが、定着してあちこちに野生化している。また、花や姿が日本的であり、茶花や生花にも多用されていることから、キバナアキギリと一緒に植えても違和感は感じられない。イメージ 9キバナアキギリだけでも見る人を和ませる魅力はあるが、ピンクと黄色の組合せにするとさらにメリハリが出て、庭の主要な植栽、花壇としても見応えがある。さらに、他の混植植物として、アキギリの紫色の花に対しては、シロヨメナとの組合せも薦めたい。


シオン
イメージ 10  シオンは、キク科の多年草で、草丈は1~2m程と高い。花は枝分かれした茎の先に、淡青紫色の3㎝位の花をいくつも付ける。野草の中では最も草丈が高く、群生させるとボリュームがあり一際目立ち存在感がある。シオンは、江戸時代の華道書に必ずといって良いほど記されいる花材である。当時は、あちこちで栽培されていたと思われるが、近年ではあまり見る機会がなくなった。その理由として、鉢植にするには草丈が高すぎ取り扱いにくく、また花材としての人気も一頃より衰えたためであろう。
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  シオンの芽は3月の末、遅い年は4月に入ってから出る。周囲の植物に紛れ見にくいが、生育が早く高くなることから、5月にはハッキリと目に付く。シオンは非常に強健な植物で、病虫害の心配がないだけでなく、放置していても良く花が咲く。移植は容易で、夏期以外であれば可能で、冬期でも凍らせなければ行なえる。繁殖力も旺盛、春先に雑草と共に刈り取らイメージ 11れても、再び伸びて花が咲くほど強い。狭いところ、隙間のような場所にも生育することから、庭もよいが、公園や街角など人目の付くところに積極的に植えたい。シオンは、9月から11月の初めまで長く咲き、秋らしい風情を演出するには最適な花である。ただ、シオンは浅根性なため、表土が薄くても生育するが、風倒を起こしやすい。倒れるのを防ぐため、他の植物と混植することによって、風倒を補強すると共に景観的にもより美しくなる。
  たとえば、ミヤコワスレやフジバカマなどの中や後方に植えれば、互いに引き立てあい目立つ。また、ヒガンバナを前にするシオンの写真を見たが、思いもよらぬ組み合わせに可能性を見いだした。シオンは、外来種の草花にも形状や色彩で合わせることが容易で、混植しても負けることがない。和風の庭にこだわらず、積極的に使われることを期待したい。

ハマカンゾウ
イメージ 13 ハマカンゾウは、ユリ科多年草で、草丈は50~90㎝程である。花は、7~9㎝で赤みを帯びた黄橙色で、8月末から咲き10月も咲き続ける。ハマカンゾウは、橙色系の花が少なくなる時期に咲くことから、もう少し注目して良い植物である。イメージ 15花は、ノカンゾウに良く似ているが、赤みが濃く、葉に厚みがある。ヤブカンゾウゼンテイカノカンゾウと同じ場所に植えれば、連続して花を見ることも可能である。冬になると、ノカンゾウなどの葉は枯れるものの、ハマカンゾウは枯れずにいる、濃い緑のままで植栽地に残る。閑散とした冬の花壇や植込みを彩る、東京周辺では貴重な植物であり、積極的に植栽したい。
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ハマカンゾウは、日照を好み、多少の日陰にも耐えうる。その上、土質を選ばす、施肥も不要である。根からの繁殖力が強く、すぐに密生するので3年位で株分けが必要である。移植も容易で、真夏に株分けしたことがあるが、活着している。ハマカンゾウは暑さ寒さにも強く、管理も楽で、病虫害もあまりなく、アブラムシも付き難いようだ。なお、ハマカンゾウは強靱な植物ではあるが、花を観賞するには、乾燥した日陰地は避けた方が良い。逆に強くて繁茂することから、周辺の植物がハマカンゾウに埋もれ、花は咲かず、さらには勢いが衰えることもある。そのため、個人の庭では、根の広がりを制限するため遮蔽板を埋めるか、ポットに植える必要がある。