『続華道古書集成』全五巻の花材1

『続華道古書集成』全五巻の花材1
花材数
  『続華道古書集成』全五巻に記された、『華嚴秘傳之大事』『極儀秘本大巻』『立花全集』『華傅書』『花書』『唯可順生花物語』『挿花てことの清水』『東肥群芳百瓶』『華伝書』『小笠原花傳書』『生芲傳』『立花聞書集』『立花草木集』『花の巻』『花傳集』『桐覆花談』『萩濃霜』『和樂旦帳』『生花正傳記』『佛花抄』『立華極秘口傳抄』『立花傳』『千流花之秘書』『千家流生花口傳』『四方の薰り』『撓方挿方初學』『真揃之口傳』『池坊家傳百ヶ條聞書』『深秘口傳書』『はしめくさ』『千撰諫草中奥』『允中挿花鑑』『古流生花門中百五十百瓶図』、33の花道古書に記された花材の種類は472種である。ちなみに、『華道古書集成』の花道書35に記された種類は519種である。
 『続華道古書集成』は『華道古書集成』と比べて書数で2冊少なく、種類数では約一割の47種少ない。1冊あたりの平均花材数を比べると、『続華道古書集成』は84.8種、『華道古書集成』は84.6種である。1冊あたりの花材数はとほとんど変わらず、若干ではあるが『続華道古書集成』の方が多いにもかかわらず、全体では一割もの差が生じている。
 『続華道古書集成』と『華道古書集成』の作成時期を比べると、『華道古書集成』は『仙傳抄』が1445年(文安二年)から『挿花秘傅伝圖式』が1799年(寛政十年)までである。『続華道古書集成』は、その成立・刊行などの年次に疑問のある花伝書が少なくない。そのため比較的信じられるものとして、最も早い時期として『立花全集』が1729年(享保十四年)から『古流生花門中百五十百瓶図』が1848年(弘化五年)までとなる。期間としては、『華道古書集成』が『続華道古書集成』より倍以上長い。その間に「生花」は、様式や環境が大きく変化しており、花材についても影響があったと考えられる。そのため『華道古書集成』に記される花材の種類が多くなったと考えられる。しかし、花材となる植物について見れば、後世になるにしたがって植物が渡来することから花材数も増えるはずである。問題は、新しく渡来した植物を使用するか否か、また過去に使用した花材を使い続けているかにある。
 花材に使用される植物数は、個々の花伝書にどのくらい記されるかが大きく影響すると思われる。そこで、『続華道古書集成』に最も多くの植物名を記した花道書を示すと、『はしめくさ』が最も多く153記されている。次いで『四方の薰り』が150、『立花傳』が138、『立花聞書集』が125と続く。それに対し、『華道古書集成』の最も多い書は『生花枝折抄』が215、『立花指南』が160、『抛入花傳書』が160、『立花秘傳抄』の141と続き、『続華道古書集成』の花伝書より多い。一花伝書に記された花材数の平均では差がないものの、個々の花伝書では大きな違いがある。『続華道古書集成』に200を超える花材はないことから、そのため総花材数が増えなかったものと考えられる。

新しい花材
 『続華道古書集成』は、『華道古書集成』より花材の種類が少ないが、新たな花材が79種増えている。したがって、『華道古書集成』の花材519種の118種は『続華道古書集成』に登場しなかったことになる。
★『極儀秘本大巻』に記された新しい花材は、「仙台萩」「るかう」「丁子草」「もちすり」「濱菊」「こんきく」「細針」「ささゆり」「弁慶草」「夏はせ」の10種である。
  「仙台萩」は、マメ科多年草センダイハギしとた。
  「るかう」は、ヒルガオ科サツマイモ属つる性多年草ルコウソウとした。
  「丁子草」は、キョウチクトウ科多年生草本チョウジソウとした。
  「もちすり」は、ラン科ネジバナ多年草ネジバナとした。
  「濱菊」は、キク科常緑多年草ハマギクとした。
  「こんきく」は、キク科シオン属多年草コンギクとした。
 「細針」は、ウマノスズクサ多年草サイシンとした。
 「ささゆり」は、ユリ科ユリ属球根植物ササユリとした。
 「弁慶草」は、ベンケイソウ科多年草ベンケイソウとした。
  「夏はせ」は、ツツジ科スノキ属落葉低木ナツハゼとした。
★『華傳書』に記された新しい花材は、「しおかせ」「唐栬」「琉球つつぢ」の3種である。
 「しおかせ」は、キク科多年草クマノギクとした。
 「唐栬」は、カエデ科落葉高木トウカエデとした。
 「琉球つつぢ」は、ツツジ科常緑低木リュウキュウツツジとした。
★『花書』に記された新しい花材は、「板屋楓」「田村草」「土佐水木」「ムヘ」「野田藤」「胡貝母」の6種である。
  「板屋楓」は、カエデ科落葉高木イタヤカエデとした。
 「田村草」は、キク科多年草タムラソウとした。
 「土佐水木」は、ミズキ科落葉低木トサミズキとした。
 「ムヘ」は、アケビ科常緑つる性木本ムベとした。
 「野田藤」は、マメ科落葉つる性木本ノダフジとした。
 「胡貝母」は、ユリ科多年草コバイモとした。
★『唯可順生花物語』に記された新しい花材は、「まるめろ」1種である。
 「まるめろ」は、バラ科落葉高木マルメロとした。
★『挿花てことの清水』
に記された新しい花材は、「唐松」「寒葵」「額」の3種である。
 「唐松」は、マツ科落葉高木カラマツとした。
 「寒葵」は、ウマノスズクサ多年草カンアオイとした。
 「額」は、アジサイ科落葉低木ガクアジサイとした。
★『東肥群芳百瓶』に記された新しい花材は、「朝鮮宇津木」「瑠璃虎迺尾」「木防己(ツツラフジ)」「野萩」4種である。
 「朝鮮宇津木」は、アジサイ科落葉低木ヒメウツギとした。
 「瑠璃虎迺尾」は、オオバコ科多年草ルリトラノオとした。
 「木防己(ツツラフジ)」は、ツヅラフジ科つる性木本ツヅラフジとした。
 「野萩」は、マメ科落葉低木キハギとした。
★『花傳集』は、に記された新しい花材は、「さわら」「とねりこ」「まこも」「まさき」4種である。
 「さわら」は、ヒノキ科常緑高木サワラとした。
 「とねりこ」は、モクセイ科落葉高木トネリコとした。
 「まこも」は、イネ科多年草マコモとした。
  「まさき」は、ニシキギ科常緑低木マサキとした。
★『生芲傳』に記された新しい花材は、「ささけ」1種である。
 「ささけ」は、マメ科つる性一年草ササゲとした。★『萩濃霜』
に記された新しい花材は、「女貞(鼠餅)」1種である。
 「女貞(鼠餅)」は、モクセイ科常緑小高木ネズミモチとした。
★『和樂旦帳』に記された新しい花材は、「金梅草」「山しやく薬」「山茶科」「天南星」4種である。
 「金梅草」は、キンポウゲ科多年草キンバイソウとした。
 「山しやく薬」は、ボタン科多年草ヤマシャクヤクとした。
  「山茶科」は、リョウブ科落葉小高木リョウブ科とした。
  「天南星」は、サトイモ科のテンナンショウと思ったが、図からウラシマソウとした。
★『生花正傳記』に記された新しい花材は、「すみれ」1種である。
 「すみれ」は、スミレ科多年草スミレとした。
★『佛花抄』に記された新しい花材は、「かんし」「みかん」2種である。
 「かんし」は、ミカン科常緑小高木ベニコウジとした。
 「みかん」は、ミカン科常緑小高木コミカンとした。
★『立花傳』に記された新しい花材は、「岩はせ」「からよもぎ」「水ふき」「大名竹」「根笹」「野かいとう」「ハセ」7種である。
  「岩はせ」は、ツツジ科常緑小低木アカモノとした。
 「からよもぎ」は、キク科多年草オトコヨモギとした。
  「水ふき」は、スイレン科一年生水生植物オニバスとした。
 「大名竹」は、イネ科常緑竹トウチクとした。
 「根笹」は、イネ科常緑竹ネザサとした。
 「野かいとう」は、バラ科落葉低木ノカイドウとした。
  「ハセ」は、ウルシ科落葉小高木ハゼノキとした。
★『千流花之秘書』に記された新しい花材は、「ひこたい」「ひよん」2種である。
 「ひこたい」は、キク科多年草ヒゴタイとした。
 「ひよん」は、マンサク科常緑高木イスノキとした。
★『四方の薰り』に記された新しい花材は、「苧環草」「熊竹蘭」「岩蕗」「琉球藺」「ちゃほ檜」「にちにち草」「淡竹」「濱万歳青」「布袋草」9種である。
  「苧環草」は、キンポウゲ科多年草オダマキとした。
 「熊竹蘭」は、ショウガ科多年草クマタケランとした。
  「岩蕗」は、ユキノシタ多年草クロクモソウとした。
 「琉球藺」は、カヤツリグサ科多年草シチトウとした。
 「ちゃほ檜」は、ヒノキ科常緑低木チャボヒバとした。
 「にちにち草」は、キョウチクトウ科一年草ニチニチソウとした。
  「淡竹」は、イネ科常緑竹ハチクとした。
 「濱万歳青」は、ヒガンバナ科多年草ハマオモトとした。
 「布袋草」は、ミズアオイ水草ホテイアオイとした。
★『撓方挿方初學』に記された新しい花材は、「伽羅木」「磯馴松」2種である。
  「伽羅木」は、イチイ科常緑針葉樹キャラボクとした。
  「磯馴松」は、ヒノキ科常緑針葉樹ハイビャクシンとした。
★『深秘口傳書』に記された新しい花材は、「岩つつし」「紫つつし」「赤つつし」「高野槇」「兒笹」「はこ柳」6種である。
 「岩つつし」は、ツツジ科落葉低木イワツツジとした。
  「紫つつし」は、ツツジ科常緑低木オオムラサキとした。
  「赤つつし」は、ツツジ科常緑低木クルメツツジとした。
  「高野槇」は、スキ科常緑高木コウヤマキとした。
  「兒笹」は、イネ科常緑竹チゴザサとした。
  「はこ柳」は、ヤナギ科落葉高木ヤマナラシとした。
★『生花實躰  はしめくさ』に記された新しい花材は、「鳫翅(柏)」「糸杉」「竹島百合」「八代草」「御帯花」5種である。
 「鳫翅(柏)」は、スギ科常緑針葉樹サワラとした。
 「糸杉」は、スギ科常緑針葉樹センニンスギとした。
  「竹島百合」は、ユリ科多年草タケシマユリとした。
  「八代草」は、キキョウ科多年草ヤツシロソウとした。
  「御帯花」は、バラ科落葉小高木コゴメウツギとした。
★『允中挿花鑑』に記された新しい花材は、「山査花」「紅繡毬」「十月櫻」「石龍丙」「木香花」「ヤナギサウ」6種である。
  「山査花」は、バラ科落葉低木サンザシとした。
  「紅繡毬」は、アカネ科常緑低木サンダンカとした。
  「十月櫻」は、バラ科落葉小高木ジュウガツザクラとした。
  「石龍丙」は、キンポウゲ科越年草タガラシとした。
 「木香花」は、バラ科常緑つる性木本モッコウバラとした。
  「ヤナギサウ」は、アカバナ科多年草ヤナギランとした。
 以上は、『続華道古書集成』の主な33の花道書に記された新しい花材である。なお、花材数が20に満たないため除いた『正傳略意抄』に、これまでの花伝書に記されていない花材が1つある。それは、「くろもじ」でクスノキ科常緑低木のクロモジである。
 また、『華道古書集成』には記されていないが、『山科家礼記』に記されている花材で、『続華道古書集成』三巻『生花正傳記』に記された花材がある。それは、「山椒」でミカン科落葉低木のサンショウである。なお、サンショウは、『川上不白利休二百回忌茶会記』にも登場している。