『花壇地錦抄』3夏木

『花壇地錦抄』3夏木
○楓のるひ・・・23品
 「楓のるひ」は23品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。「楓のるひ」は、「高雄・八しほ・野村・せいがいは・しやうじやう・楊貴妃・たつた・獨搖楓・大しだり・うすかき・いともみぢ・二面・南京・青葉・十二ひとへ・板家・九重・なりひら・鳳凰・朝日・通天・かよひ・日光楓」の品名がある。以上23品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「高雄・板家」の2品である。
 「高雄」は、タカオモミジ(カエデ科)。
 「板家」は、イタヤカエデ(カエデ科)。
 なお、「野村」は園芸種として知られているが、植物名は花材や茶花として記されていない。
 その他の品名は、ヤマモミジなどの変種(園芸種)と思われるが、品名の説明文だけではわからない。
 伊藤伊兵衛は、「楓類」について『増補地錦抄』(宝永七年1710)で「歌仙楓号」に36品、『公益地錦抄』(享保四年1719)「後出歌仙もみち集」に36品、『地錦抄附録』(享保十八年1733)に28品記している。さらにこれら3冊を合わせて、『歌仙百色紅葉種』をまとめている。『増補地錦抄』には、「青葉・赤地錦・朝霧・飛鳥川・嵐山・うらべ・奥州獨揺・かぎり・笠取山・かよひ・切錦・小倉山・九重・さは山・鹿紅葉・しがらみ・しぐれ山・しめの内・白波・深山楓・袖の内・高尾・立田・たむけ山・通天・唐錦・ときは・業平・紅の波・待風・武蔵野・村雲・名月・紋錦・八染・侘人」の品名がある。『公益地錦抄』には、「秋風・幾染・鬱金・内ゆかし・うづらの羽・おくしも・神無月・古郷・小雨の錦・駒駐・小夜時雨・鹿毛織錦・敷島・しぐれそめ・しのぶ・関守・千染・千里・七夕・手染糸・遠江人・とやま・名取川・初もみぢ・花のえん・ひとしほ・ます紫・松がえ・水かがみ・もみぢがさね・紋儘・夕暮・夕時雨・隣家・わすれがたみ・綾蘭笠」の品名がある。『地錦抄附録』には、「十寸鏡・浅茅・葛城・唐織・唐楓・黄八丈・清瀧・金襴・朽葉・御所染・呉服・品河・水潜・扇子流・つたの葉・釣錦・七瀬川・軒端・初花・麓寺・待霄・真間・道しるべ・夕霧・若紫・漣波・枩影・柞」の品名がある。
 以上百品の中で、『花壇地錦抄』と同じと推測できる品名は、「立田・かよひ・九重・通天・高尾・業平」の6品である。23品中6品という割合は、少ないように感じる。同じと思われる6品そのすべてが『増補地錦抄』に記されたものである。『増補地錦抄』は、『花壇地錦抄』の刊行から15年しか経過していない。その間にどのようなカエデ類の変遷があったかのだろうか。当時は、カエデ類を初めとして品種の生成消滅が著しかったのだろうか。
      
                                   
○藤並桂のるひ・・・20品
 「藤並桂のるひ」は20品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。フジ並びにカツラについては、「野田藤・野ふぢ・白藤・大豆藤・ひめふぢ・土曜藤・○茘桂(まさきかつら)・五味子・江戸梅もどき・木天蓼・蒲萄・蓪草・絡石・凌霄・蓮翹・連玉・黄梅・忍冬・壁生草・百部桂」の品名がある。以上20品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「野田藤・野ふぢ・白藤・ひめふぢ・土曜藤・○茘桂(まさきかつら)・五味子・江戸梅もどき・木天蓼・蒲萄・蓪草・絡石・凌霄・蓮翹・連玉・黄梅・忍冬・壁生草・百部桂」の19品である。
 「野田藤」は、ノダフジマメ科)。
 「野ふぢ」は、ヤマフジマメ科)。
 「白藤」は、ノダフジマメ科)の白花。
 「ひめふぢ」は、メクラフジ(マメ科)。
 「土曜藤」は、ナツフジ(マメ科)。
 「○茘桂(まさきかつら)」は、テイカカズラキョウチクトウ科)。
 「五味子」は、サネカズラ(キョウチクトウ科)。
 「江戸梅もどき」は、ツルウメモドキニシキギ科)。
 「木天蓼」は、マタタビ(サルナシ科)。
 「蒲萄」は、ブドウ(ブドウ科)。
 「蓪草」は、アケビアケビ科)。
 「絡石」は、オオイタビ(クワ科)又はテイカカズラキョウチクトウ科)。『牧野新日本植物図鑑』ではテイカカズラを「絡石」とするは誤りとある。また、テイカカズラは前に出ており、オオイタビと推測する。
 「凌霄」は、ノウゼンカズラノウゼンカズラ科)。
 「蓮翹」は、レンギョウ(モクセイ科)。
 「連玉」は、レダマ(マメ科)。
 「黄梅」は、オウバイ(モクセイ科)。
 「忍冬」は、スイカズラスイカズラ科)。
 「壁生草」は、ツタ(ブドウ科)。
 「百部桂」は、ヘクソカズラ(アカネ科)。

○荊棘のるひ・・・13品
 「荊棘のるひ」は13品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。イバラについては、「はまなす・らうぎ・長春・白長春・猩々長春・はと荊・牡丹荊・ちやうせん荊・ごや荊・山桝荊・箱根荊・唐荊・荊茨」の品名がある。以上13品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「はまなす長春・牡丹荊・山桝荊・荊茨」の5品である。
 「はまなす」は、ハマナシ(バラ科)。
 「長春」は、コウシンバラ(バラ科)。
 「牡丹荊」は、トキンイバラ(バラ科)?。
 「山桝荊」は、サンショウバラ(バラ科)。
 「荊茨」は、サルトリイバラ(ユリ科)?。
 なお、「はと荊」は、ハトヤバラ又はナニワバラ(バラ科)の可能性がある。『牧野新日本植物図鑑』のナニワバラの解説に「まれに花が淡紅色の変種あり、ハトヤバラという」がある。『花壇地錦抄』の説明には「白中りん」とあることから、「はと荊」はハトヤバラではないと推測する。

辛夷のるひ
 「辛夷のるひ」は9品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。コブシについては、「こぶし・しで辛夷・白蓮花・木蓮花・玉蘭花・大山蓮花・あんらんじゆ・しやら双じゆ・いつき」の品名がある。以上9品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「こぶし・しで辛夷・白蓮花・木蓮花・大山蓮花・しやら双じゆ」の6品である。
 「こぶし」は、コブシ(モクレン科)。
 「しで辛夷」は、シデコブシモクレン科)。
 「白蓮花」は、ハクモクレンモクレン科)。
 「木蓮花」は、モクレンモクレン科)。
 「大山蓮花」は、オオヤマレンゲ(モクレン科)。
 「しやら双じゆ」は、ナツツバキ(ツバキ科)。
 なお、『牧野新日本植物図鑑』によれば、ハクモクレンの漢名は「玉蘭」とある。
 また、「あんらんじゆ」については、カリン(バラ科)をアンラン樹ということが記されている。そのため、「あんらんじゆ」はカリン(バラ科)の可能性があるものの、「梨のるひ」には「くわりん」・カリンが記されており、判断に迷う。
 「いつき」は、『樹木大図説』によればヤマボウシ(ミズキ科)の別名に記されている。他にヤマボウシを指す品名がないので、「いつき」はヤマボウシの可能性が高い。

木槿のるひ
 「木槿のるひ」は6品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。「木槿のるひ」については、「長八木槿・白縮緬・紫ちりめん・うすすミ・はまぼ・そこあか」の品名がある。以上6品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「はまぼ」の1品である。
 「はまぼ」は、ハマボウアオイ科)。
 その他の品名は、ムクゲアオイ科)の変種(園芸種)で、当時の名称であろう。たとえば、「そこあか」は茶花に使用される「底紅」を指すものと思われる。

○柳るひ
 「柳るひ」は4品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。ヤナギについては、「獨搖楓・大しだれ・めやなぎ・みどり柳」の品名がある。以上4品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「獨搖楓・みどり柳」の2品である。
 「獨搖楓」は、シダレヤナギ(ヤナギ科)。
 「みどり柳」は、カワヤナギ(ヤナギ科)。

○梨るひ・・・10品
 「梨るひ」は10品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。ナシについては、「こがなし・青梨子・水なし・くわんをんじ・まつを・くわりん・まるめろ・かんなし・嶋梨子・枳梖」の品名がある。以上10品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「まるめろ・くわりん・枳梖」の3品である。
 「くわりん」は、カリン(バラ科)。
 「まるめろ」は、マルメロ(バラ科)。
 「枳梖」は、ケンポナシ(クロウメモドキ科)。

○柿のるひ・・・14品
 「柿のるひ」は14品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。 カキについては、「でんない・と山・ミやうたん・さくミやうたん・甲刕丸・甲州大丸・加羅・大柿・大平・八右衛門・あまかき・きぞろ造・はちや・藤六」の品名がある。以上14品は、カキ(カキノキ科)以外『牧野新日本植物図鑑』で確認できなかった。

○柑るひ・・・10品
 「柑るひ」は10品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。ミカンについては、「だいだい・蜜柑・雲州橘・橘柚・金柑・枳殼・くねんぼ・かうじ・柚子・橘」の品名がある。以上10品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「だいだい・蜜柑・雲州橘・金柑・枳殼・くねんぼ・柚子・橘」の9品である。
 「だいだい」は、ダイダイ(ミカン科)。
 「蜜柑」は、キシュウミカン(ミカン科)。
 「雲州橘」は、ウンシュウミカン(ミカン科)。
 「金柑」は、金柑(ミカン科)。
 「柷殼」は、カラタチ(ミカン科)。
 「くねんぼ」は、クネンボ(ミカン科)。
 「かうじ」は、ベニミカン(ミカン科)別名ベニコウジを推測する。
 「柚子」は、ユズ(ミカン科)。
 「橘」は、ニッポンタチバナ(ミカン科)。

○栗のるひ
 「栗のるひ」は7品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。 クリについては、「栗のるひ」として「丹波大栗・頼母栗・志ばくり・錘栗・三度栗・志だれ栗・箱根栗」の品名がある。以上7品は、クリ(ブナ科)以外『牧野新日本植物図鑑』では確認できなかった。

○山桝るひ・・・25品
 「山桝るひ」は25品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。「山桝るひ」として「朝倉・柚さんせう・日向さんせう・柘榴・甘柘榴・雌漆・(蘇)枋・いぬさんせう・花柘榴・漆・くるみ・もくろじ・紫陽・がく・美陽・下野・小てまり・甘茶・酴醿・梶・ななかまど・百日紅・接骨木・くろもじ・木瓜」の品名がある。以上25品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「朝倉・柘榴・雌漆・蘇枋・いぬさんせう・花柘榴・漆・くるみ・もくろじ・紫陽・がく・美陽・下野・小てまり・酴醿・梶・ななかまど・百日紅・接骨木・くろもじ・木瓜」の21品である。
 「朝倉」は、アサクラザンショウ(ミカン科)。
 「柘榴」は、ザクロ(ザクロ科)。
 「雌漆」は、ヌルデ(ウルシ科)。
 「(蘇)枋」は、ハナズオウマメ科)。
 「いぬさんせう」は、イヌザンショウ(ミカン科)。
 「花柘榴」は、ハナザクロ(ザクロ科)。
 「漆」は、ウルシ(ウルシ科)。
 「くるみ」は、クルミ(ウルシ科)。
 「もくろじ」は、ムクロジムクロジ科)。
 「紫陽」は、アジサイユキノシタ科)。
 「がく」は、ガクアジサイユキノシタ科)。
 「美陽」は、ビヨウヤナギ(オトギリソウ科)。
 「下野」は、シモツケバラ科)。
 「小てまり」は、コデマリバラ科)。
 「酴醿」は、ヤマブキ(バラ科)。
 「梶」は、カジノキ(クワ科)。
 「ななかまど」は、ナナカマド(バラ科)。
 「百日紅」は、サルスベリミソハギ科)。
 「接骨木」は、ニワトコ(スイカズラ科)。
 「くろもじ」は、クロモジ(クスノキ科)。
 「木瓜」は、ボケ(バラ科)。
 なお、「甘茶」は、ヤマアジサイの変種と推測する。