『花壇地錦抄』3○冬木之分

『花壇地錦抄』3○冬木之分
○松のるひ・・・8品
 「松のるひ」は8品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。
「松のるひ」として「黒松・赤松・ちやうせん松・唐松・五葉松・ひめこ松・鹿嶋松・霜ふり」の品名がある。以上8品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「黒松・赤松・ちやうせん松・唐松・五葉松」の5品である。
 「黒松」は、クロマツ(マツ科)。
 「赤松」は、アカマツ(マツ科)。
 「ちやうせん松」は、チョウセンマツ(マツ科)。
 「唐松」は、カラマツ(マツ科)。
 「五葉松」は、ゴヨウマツ(マツ科)。
 なお、「ひめこ松」は『牧野新日本植物図鑑』によれば、ゴヨウマツの別名とされている。
 また、「霜ふり」については、キタゴヨウマツの中にシモフリゴヨウの名が記されている。

○竹のるひ・・・13品
 「竹のるひ」は13品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。
 タケについては、「竹のるひ」として「からたけ・紫竹・なりひら・箱根竹・金竹・苦竹・淡竹・箆・鳳凰竹・しな川竹・寒竹・棕櫚竹・ほてい竹」の品名がある。以上13品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「紫竹・なりひら・箱根竹・苦竹・淡竹・箆・鳳凰竹・寒竹・棕櫚竹・ほてい竹」の10品である。
 「紫竹」は、クロチク(イネ科)。
 「なりひら」は、ナリヒラダケ(イネ科)。
 「箱根竹」は、ハコネダケ(イネ科)。
 「苦竹」は、マダケ(イネ科)。
 「淡竹」は、ハチク(イネ科)。
 「箆」は、ヤダケ(イネ科)。
 「鳳凰竹」は、ホウライチク(イネ科)。
 「寒竹」は、カンチク(イネ科)。
 「棕櫚竹」は、シュロチク(ヤシ科)。
 「ほてい竹」は、ホテイチク(イネ科)。
 『牧野新日本植物図鑑』によれば、ハチク(イネ科)は別名クレタケ、カラダケとある。ここでは「淡竹」をハチクとしたが、「からたけ」がハチクの可能性もある。また、『樹木大図説』には、マダケの別名として、「からたけ」「唐竹」がある。
 「金竹」は、キンメイチク、オウゴンチク(キンチク)などを指すものと推測される。これらはマダケの変種で、説明文からは確定しにくい。なお、『タケ類』鹿島書店によれば、キンメイチクは明治以降に発見されたする記述がある。そのため、オウゴンチクを指すと思われるが、確信はない。
 「しな川竹」は、『タケ類』鹿島書店によれば、アズマネザサ(東根笹)の異名としてシナガワダケ(品川竹)が記されている。しかし、「しな川竹」は、「竹のるひ」であるからササではないと思われるので、不明とした。

○笹のるひ・・・7品
 「笹のるひ」は7品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。
「笹のるひ」として「焼葉・小くまささ・豊後笹・児笹・箱根笹・野笹・根笹」の品名がある。以上7品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「焼葉・豊後笹・根笹」の4品である。
 「焼葉」は、クマザサ(イネ科)。
 「豊後笹」は、オカメザサ(イネ科)。
 「児笹」は、チゴザサ(イネ科)。
 「根笹」は、ネザサ(イネ科)。
 なお、「小くまささ」は、説明に「くまささの葉の小さきもの也」ある。クマザサの矮性と思われるが、コクマザサは別名ヒメシノ、コガシアズマザサの変種とも言われている。
 「児笹」は、『樹木大図説』によれば、チゴザサ・別名シマザサ・ノダザサと記されている。
 「箱根笹」は、『タケ類』鹿島書店によれば、ハコネダケ(アズマネザサの変種)の可能性があるが、確信はない。

○冬木・・・70品
 「冬木」は70品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。
70品を『牧野新日本植物図鑑』などから推測すると以下のようになる。
 「(圓)柏」は、イブキ(ヒノキ科)。
 「黒(圓)柏」は、『牧野新日本植物図鑑』にはないが、『樹木大図説』には変種として、クロイブキ(ヒノキ科)の名がある。
 「はゐ(圓)柏」は不明。
 「柏槙」は、ミヤマビャクシン(ヒノキ科)。
 「木柏槙」は不明。
 「はい柏槙」は、ハイビャクシン(ヒノキ科)。
 「唐柏槙」は、『牧野新日本植物図鑑』にはないが、『樹木大図説』には変種として、唐イブキ(ヒノキ科)の名がある。
 「ひむろ」は、ヒムロ(ヒノキ科)。
 「しやしま」は、サワラの変種と思われるが、不明とする。
 「檜」は、ヒノキ(ヒノキ科)。
 「両面」は、コノデガシワ(ヒノキ科)と推測する。
 「唐ひば」は不明。
 「ちやうせんひば」は不明。
 「びやくだん」は、『牧野新日本植物図鑑』にはないが、『樹木大図説』には変種として、ワビャクダン(ヒノキ科)の名があり、別名ビャクダンとある。
 「あすならふ」は、アスナロ(ヒノキ科)。
 「そくはく」は不明。
 「ほろの木」は、ネズ?(ヒノキ科)。
 「高野槙」は、コウヤマキ(スギ科)。
 「羅漢樹」は、ラカンマキ(マキ科)。
 「いぬ槙」は、イヌマキ(マキ科)。
 「虎の尾」は、トウヒ(マツ科)。
 「樅」は、モミ(マツ科)。
 「ひめこ樅」は不明。
 「つがもミ」は、バラモミ(マツ科)?。
 「うら白」は、ダケモミ(マツ科)?。
 「伽羅樹」は、キャラボク(イチイ科)。
 「いぬかや」は、イヌガヤ(イヌガヤ科)。
 「柊棈」は、モチノキ(モチノキ科)。
  「大坂もち」は、『樹木大図説』にソヨゴ(モチノキ科)の別名に「オホサカモチ」があるが、ソヨゴは、以下に「そよぎ」があるため不明とする。
 「鳥取もち」は、トリモチノキの別名としてヤマグルマ(ヤマグルマ科)がある。
 「いさはいもち」は不明。
 「榊」は、サカキ(ツバキ科)。
 「栢」は、カヤ(イチイ科)。
 「そよぎ」は、ソヨゴ(モチノキ科)。
 「榼」は、イスノキ(マンサク科)。
 「猿榼」は不明。
 「ひささき」は、ヒサカキ(ツバキ科)。
 「かしの木」は、カシ(ブナ科)・総称名。
 「椎」は、シイノキ(ブナ科)・総称名。
 「さつま椎」は、マテバシイ(ブナ科)。
 「柴」は不明。
 「肉桂」は、ニッケイクスノキ科)。
 「桂心」は、ヤブニッケイクスノキ科)。
 「楠」は、クスノキクスノキ科)。
 「もつこく」は、モッコク(ツバキ科)。
 「濱もつこく」は、シャリンバイ(バラ科)。
 「ゆつりは」は、ユズリハトウダイグサ科)。
 「たらやう」は、タラヨウ(モチノキ科)。
 「木犀」は、モクセイ(モクセイ科)・総称名。
 「柘」は、ツゲ(ツゲ科)。
 「ひめつげ」は、ヒメツゲ(ツゲ科)。
 「白つげ」は不明。
 「やどめ」は、『牧野新日本植物図鑑』にはないが、『樹木大図説』にイヌツゲ(モチノキ科)の別名とある。
 「白頭花」は、ハクチョウゲ(アカネ科)。
 「梔子」は、クチナシ(アカネ科)。
 「唐梔子」は、コリンクチナシ(アカネ科)?。
 「まさき」は、マサキ(ニシキギ科)。
 「玉つばき」は、ネズミモチ(モクセイ科)。
 「うら白」は、シロダモ(クスノキ科)?。
 「柊木」は、ヒイラギ(モクセイ科)。
 「槐」は、エンジュ(マメ科)。
 「桐」は、キリ(ゴマノハグサ科)。
 「棕櫚」は、シュロ(ヤシ科)。
 「唐棕櫚」は、トウジュロ(ヤシ科)。
 「びろう」は、ビロウ(ヤシ科)。
 「沈丁花」は、ジンチョウゲジンチョウゲ科)。
 「馬酔木」は、アセビツツジ科)。
 「柘楠花」は、シャクナゲツツジ科)。
 「こせう」は、コショウ(コショウ科)。
 「とべら」は、トベラトベラ科)。

○實秋色付て見事成るひ・・・10
 「實秋色付て見事成るひ」は10品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらを『牧野新日本植物図鑑』などから推測すると以下のようになる。
 「唐たちはな」は、カラタチバナヤブコウジ科)。
 「仙蓼」は、センリョウ(センリョウ科)。
 「深山樒」は、ミヤマシキミ(ミカン科)。
 「やぶほそば」は不明。
 「花丁子」は、『牧野新日本植物図鑑』にはないが、『樹木大図説』にオニシバリ別名ナツボウズ(ジンチョウゲ科)とハナチョウジゴマノハグサ科)がある。
 「梅嫌」は、ウメモドキ(モチノキ科)。
 「やぶかうじ」は、ヤブコウジヤブコウジ科)。
 「墅雞隠」は、キジカクシ(ユリ科)。
 「錦木」は、ニシキキ(ニシキギ科)。
 「南天」は、ナンテン(メギ科)。