『花壇地錦抄』4 草花夏之部

『花壇地錦抄』4 草花夏之部
○石竹のるひ
 「石竹のるひ」は8品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらを『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「おらんた」だけである。
 「おらんた」は、カーネーションナデシコ科)。
 「牡丹石竹・京小袖・紫かのこ・郭公・武蔵野・江戸紫・つま白」は、セキチクナデシコ科)の変種と思われるが、ナデシコ同様に説明文だけからでは、セキチクの変種と断定することは無理がある。

○葵のるひ
 「葵のるひ」は7品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらを『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「小あふひ」だけである。
 「小あふひ」は、ゼニアオイ(アオイ科)。
 「葵のるひ」とされる「くれない・雪白・うすずみ・むらさき・源氏・そこ白」は、タチアオイアオイ科)の変種と思われるが、説明文だけからでは、変種と断定することは無理がある。

○蘭のるひ
 「蘭のるひ」は12品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらを『牧野新日本植物図鑑』などから推測すると以下のようになる。
 「大蘭」は、スルガラン(ラン科)。
 「小蘭」は、スルガラン(ラン科)・変種?。
 「白茎」は、スルガラン(ラン科)・変種?。
 「茶蘭」は、チャラン(ラン科)。
 「風蘭」は、フウラン(ラン科)。
 「春蘭」は、シュンラン(ラン科)。
 「石蘭」は、ガンセキラン?(ラン科)。
 「沢蘭」は、サワラン(ラン科)。
 「ばらん」は、ハラン(ラン科)。
 「日光蘭」は不明。
 「紫蘭」、シラン(ラン科)。
 「白蘭」、シラン(ラン科)・変種?。
 「黄蘭」は、『花壇綱目』の「黄蘭」と同じ植物であれば、キンラン(ラン科)と推測される。

○花菖蒲るひ
 「花菖蒲のるひ」は8品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これら「るり八重・江戸紫・しやれかき・白・村雪・縮緬・紅絞・紫縮緬」は、『牧野新日本植物図鑑』から確認できず、ハナショウブ(アヤメ科)の変種と推測される。
 次の「○白昌草」から、『花壇地錦抄』と『花壇地錦抄前集』とでは記述が大きく異なる。
 『花壇地錦抄前集』の記述は、『花壇地錦抄』巻一、二、三と同じ順で、「るひ」および品名を示していた。なお、『花壇地錦抄前集』は、冒頭の「牡丹」で「牡丹花形図」を差し込むなど、『花壇地錦抄』とは違っていた。しかし、『花壇地錦抄前集』四では、構成が異なるだけでなく『花壇地錦抄』にはない「るひ」(品)が登場している。
『花壇地錦抄』の続きを示す。

○白昌草
 「白昌草」は4品、または42品とも考えられる。各品名には、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。なお、『花壇地錦抄前集』は、『花壇地錦抄』と記述が大きく異なる。『花壇地錦抄前集』は、「○白昌草」を「紫あやめ・白あやめ・柿やめ」の3品を「これまであやめるひ」とし、それ以後は、草花の図が続き、「あざミるい」「水草るい」の品名、図が続く。それに対し、『花壇地錦抄』は「紫あやめ・白あやめ・柿やめめ・一八」と「一八」が続く。
 『花壇地錦抄前集』の記述は、冒頭の「牡丹」で「牡丹花形図」を差し込むなど、『花壇地錦抄』とは違っていた。それでも、『花壇地錦抄』の巻一、二、三と同じ順で、「るひ」および品名を示していた。しかし、『花壇地錦抄前集』四では、構成が異なるだけでなく『花壇地錦抄』にはない「るひ」(品)が登場している。
 ここでは、『花壇地錦抄』に記されている順に品名を示し、『牧野新日本植物図鑑』などから推測して以下のように示す。
 「紫あやめ」は、アヤメ(アヤメ科)。
 「白あやめ」は、アヤメ(アヤメ科)の白花か。
 「柿やめ」は、アヤメ(アヤメ科)・変種?。
 「一八」は、イチハツ(アヤメ科)。

 「萱草」は、カンゾウユリ科)・総称名。
 「白青紅」は、ヤブカンゾウユリ科)・変種?。
 「黄菅」は、ユウスゲユリ科)。
 「日光黄菅」は、ゼンテイカユリ科)。
 「さんしこ」は、キツネノカミソリヒガンバナ科)?。
 「唐さんしこ」は、ナツズイセンヒガンバナ科)。
 「唐桐」は、ヒギリ(シソ科)。
 「下野草」は、シモツケソウ(バラ科)。
 「南京下野」は、シモツケバラ科)・変種?。
 「夏雪」は、キョウガノコバラ科)?。
 「淡盛」は、アワモリショウマ(ユキノシタ科)。
 「升麻」は、トリアシショウマ(ユキノシタ科)。
 「薬種升麻」は、サラシナショウマキンポウゲ科)?。
 「夏節」は、アキカラマツ(キンポウゲ科)?。
 「から松草」は、カラマツソウ(キンポウゲ科)。
 「ぎほうし」は、ギボウシユリ科)・総称名。
 「麒麟草」は、キリンソウ(ベンケイソウ科)。
 「雪の下」は、ユキノシタユキノシタ科)。
 「唐ぎぼうし」は、オオバギボウシユリ科)。
 「車三七」は、クガイソウゴマノハグサ科)。
 「釣鐘草」は、ホタルブクロ(キキョウ科)。
 「ゆわう草」は、クサレダマ(サクラソウ科)。
 「木香」は、モッコウ(キク科)。
 「はんくわい草」は、ハンカイソウ(キク科)。
 「げんげ草」は、ゲンゲ(マメ科)。
 「草びやう」は、キンシバイ(オトギリソウ科)。
 「わうき」は、黄耆出あればオウギ(マメ科)?。
 「ひあふき」は、ヒオウギ(アヤメ科)。
 「鋸草」は、ノコギリソウ(キク科)。
 「大坂ひあふき」は、ヒオウギ(アヤメ科)・変種?
 「うつぼ草」は、ウツボグサ(シソ科)。
 「はんげしやう」は、ハンゲショウドクダミ科)。
 「山郭公」は、ヤマホトトギスユリ科)。
 「風車」は、カザグルマキンポウゲ科)。
 「むしやりんだう」は、ムシャリンドウ(シソ科)。
 「るり八重風車」は、カザグルマキンポウゲ科)・変種?。
 「鐵線」は、テッセン(キンポウゲ科)。
 「張夏草」は、ギンセンカ(アオイ科)。
 

朝顔るひ
 「朝顔るひ」は17品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらを『牧野新日本植物図鑑』などから推測すると以下のようになる。。
 「白あさがほ」は、アサガオヒルガオ科)の白花。
 「赤あさがほ」は、アサガオヒルガオ科)の赤花。
 「浅黄あさがほ」は、アサガオヒルガオ科)の浅黄花。
 「るり朝がほ」は、アサガオヒルガオ科)の瑠璃色花。
 「二葉朝がほ」は、アサガオヒルガオ科)の変種。
 「ちやうせん朝がほ」は、チョウセンアサガオ(ナス科)。
 「白ひるがほ」は、ヒルガオヒルガオ科)の白花。
 「赤ひるがほ」は、ヒルガオヒルガオ科)の赤花。
 「南京昼顔」は、コヒルガオヒルガオ科)か。
 「夕顔」は、ユウガオ(ウリ科)。
 「栝樓」は、カラスウリ(ウリ科)。
 「虎尾」は、オカトラノオサクラソウ科)。
 「きじの尾」は、ルリトラノウ(ゴマノハグサ科)か。
 「草蓮花」は、レンゲショウマ(キンポウゲ科)。
 「梅花草」は、ウメバチソウユキノシタ科)。
 「石斛」は、セッコク(ラン科)
 「芭蕉」は、バショウ(バショウ科)
 「濱おもと」は、ハマオモト(ヒガンバナ科

○夏菊のるひ
 「夏菊のるひ」は20品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらは、「夏秋論・水揚妃・黄水揚・屋うくわ水揚・玉牡丹・砂金・たいしよくわん・小紫・宇治川・ありあけ・黄太白・きりん・黄一文字・ありま山・南京紫・ほつうけ・南禅寺・雪わり・黄兩面・黄正」の品名がある。以上の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できた品名はない。
                                     
水草のるひ
 「水草るひ」は26品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらを『牧野新日本植物図鑑』などから推測すると以下のようになる。。
 「蓮花」は、ハス(スイレン科)。
 「唐蓮」は不明。
 「金蘂蓮」は不明。
 「小蓮花」は、ヒツジグサスイレン科)。
 「水あふひ」は、ミズアオイミズアオイ科)。
 「白水あふひ」は、ミズアオイミズアオイ科)の白花。
 「川骨」は、コウホネスイレン科)。
 「澤瀉」は、オモダカオモダカ科)。
 「白くわい」は、クワイオモダカ科)。
 「黒くわい」は、クログワイ(カヤツリグサ科)。
 「ふとい」は、フトイ(カヤツリグサ科)。
 「葦」は、イ(イグサ科)。
 「星草」は、ホシクサ(ホシクサ科)。
 「鷺草」は、サギソウ(ラン科)。
 「蒲黄」は、ガマ(ガマ科)。
 「○草(まこも)は、マコモ(イネ科)。
 「菖蒲」は、ショウブ(サトイモ科)。
 「鬼石菖」は、セキショウサトイモ科)。
 「鎌倉石菖」は、セキショウサトイモ科)・変種?。
 「東石菖」は、セキショウサトイモ科)・変種?。
 「唐石菖」は、セキショウサトイモ科)・変種?。
 「琉球」は、セキショウサトイモ科)・変種?。
 「菱」は、ヒシ(ヒシ科)。
 「蛇床」は、ヒルムシロ(ヒルムシロ科)。
 「稲」は、イネ(イネ科)。
 「蛙床」は、トチカガミトチカガミ科)。
 「かるも」は不明。

○杜若のるひ
 「杜若のるひ」は12品あり、すべてに説明がある。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。これらは、「鷲尾・羅生門・村雲・橋姫・濡鷺・薄雲・四季咲・ごまほし・白・六葉・八葉・八橋」の品名がある。以上の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できた品名はない。これらはカキツバタ(アヤメ科)の園芸種であろう。