『花壇地錦抄』6 草木植作様之巻

『花壇地錦抄』6 草木植作様之巻
 「草木植作様之巻」は、植物の植え方について解説している。
 先ず、植栽には土・土壌に合わせて植えなければならないことを、事例をあげて示している。「たとへハ草ヲ原地に植れハ枯れ  野草を泥中ニ植れバ腐(根腐れ)する事」など示し、「故ニ、土の品々をわかち(土壌の性質にあった)草木の植作り様をしるす」、とある。
 次は、植栽時期について、夏木の類(落葉植物)は二月(現在の三月頃)と九月(現在の十月頃)が良い。冬木の類(常緑)は、四五月(現在の五六月頃)が適している。
 播種時期、接木・挿木の時期についても触れているが、詳細はなし。
 春に種を蒔き、生育して枯れ、翌年生育しないものを「一年草」というと、記している。

「草木植ル土之事」
 「草木植ル土之事」として、土を「忍土、真土、野土、赤土、砂、肥土、田土」とに分ている。これらの土は、関東地方の土を念頭に記していると思われる。
 「忍土」は、植物などの腐食を含んだ、腐葉土であろう。
 「真土」は、土に砂の混じった「砂真土」としており、砂壌土であろう。
 「野土」は、関東地方の関東ローム層の溶脱層、いわゆる黒土を指していると思われる。
 「赤土」は、関東ローム層の溶脱層の下にある褐色の土、赤土を指していると思われる。
 「砂」は、細やかな砂であろう。
 「肥土」は、「畑の土」と耕作された土を指している。
 「田土」は、「田の土」であり、粘土分の多く含まれた土を指している。
 この7分類は、現代の・砂土・砂壌土・壌土・埴壌土・埴土の5分類より実用的であったと思われる。ただ気になるのは、土壌の物理性と肥沃度が混在している。物理性だけで分けると、    
 「砂」は、砂土(粘土が12.5%未満)に該当。
 「真土」は、砂壌土(粘土が12.5~25%)に該当。
 「野土」は、壌土(粘土が25~37.5%)に該当。
 「赤土」は、埴壌土(粘土が37.5~50%)に該当。
 「田土」は、埴土(粘土が50%以上)に該当。
 「忍土」は、腐葉土と「土」とは言うものの土をあまり含まず、厳密には土ではない。
 「肥土」は、腐食土で有機物を多く含んだ肥えた畑土である。総合的な培養土と考えられるが、基盤となる土の性質は定かではない。また、「溝の土をあげ日ニほし細末したる」と記していおり、土としてより肥料の効用が重視されている。

「草木ニ用ル肥之事」
 「草木ニ用ル肥之事」は、肥料について「合肥・くだし肥・魚洗汁・田作」の4つに分けている。 「合肥」は、下肥、藁灰、糠などを野土・赤土・真土に交ぜ込んだ総合的(窒素・燐酸・カリを含む)な肥料である。
 「くだし肥」は、「合肥」が固形であるのに対し液肥である。製造に「五十日」、下肥を醗酵させるには少ない。固形物を沈下させた、尿を薄めた液肥(窒素肥料)と思われる。
 「魚洗汁」は、「魚のわた」を含むもので、ぼかし肥料(主に窒素・燐酸肥料)のようである。
 「田作」は、ごまめ(干鰯)を主とした肥料(主に燐酸・カリ肥料)のようである。
 続いて、施肥する時期「冬中より二月中旬」、施肥の仕方(葉の出たては無用、肥料を上から散布しないなど)を記している。
 なお、以後の個別解説には、馬糞・酒かすなども肥料として使用することが記されている。

草木植作様伊呂波分
 「草木植作様伊呂波分」は、個別に「植頃」(植栽時期)や挿し木時期、土質や肥料などを、イロハ順に記したものである。それらは、本文中の植物の中から選んで記したと思われるが、その品名は必ずしも同じではない表記がいくつか見られる。そのため、本文中のどの植物であるか確認する必要がある。中には、判別が困難なため、本文中に登場しなかった品名も見られる。そこで、順に対照させ、以下のように検討した。

い・・・8品、すべてに説明がある。
「(圓)柏」はイブキ、本文中の「(圓)柏」と同じ表記である。
「いぬ槙」はイヌマキ、本文中の「いぬ槙」と同じ表記である。
「いつき」はヤマボウシ、本文中の「いつき」と同じ表記である。
「いばら」は、棘のある低木の総称名である。本文中の「荊棘」に対応するものであろう。
「いつまで草」はツタらしく、本文中の「壁生草」に対応するものであろう。
「岩蓮花」はイワレンゲ、本文中の「岩れんげ」に対応するものであろう。
「いち八」はイチハツ、本文中の「一八」に対応するものであろう。
「いちりん草」はイチリンソウ、本文中の「一りん草」に対応するものだろう。

ろ・・・0品、記入なし。

は・・・16品
「白もくれん」はハクモクレン、本文中の「白蓮花」に対応するものであろう。
「花丁子」はオニシバリ、本文中の「花丁子」と同じ表記である。
「白丁花」はハクチョウゲ、本文中の「白頭花」に対応するものであろう。
「はぎ」はヤマハギ、本文中の「萩」に対応するものであろう。
「濱おもと」はハマオモト、本文中の「濱おもと」と同じ表記である。
「ばらん」はハラン、本文中の「ばらん」と同じ表記である。
「初ゆり」はカタクリ、本文中の「初ゆり」と同じ表記である。
「ばれん」はネジアヤメ、本文中の「ばれん」と同じ表記である。
「はくせいかう」はヤブカンゾウ、本文中の「白青紅」に対応するものであろう。
「はくげしやう」はハンゲショウ、本文中の「はんげしやう」と同じ表記である。
「花せうぶ」はハナショウブ、本文中の「花菖蒲」に対応するものだろう。
「はんくわい草」はハンカイソウ、本文中の「はんくわい草」と同じ表記である。
「白らん」はシラン(ラン科)・変種?、本文中の「白蘭」に対応するものだろう。
「はなけし」はケシ、本文中の「花芥子」に対応するものだろう。
「ばせを」はバショウ、本文中の「芭蕉」に対応するものだろう。
はこね草」はハコネソウ、本文中の「箱根草」に対応するものだろう。

に 7品
「につけい」はニッケイ、本文中の「肉桂」に対応するものだろう。
「にしきぎ」はニシキギ、本文中の「錦木」に対応するものだろう。
「にんだう」はスイカズラ、本文中の「忍冬」に対応するものだろう。
「につくわらん」は本文中の「日光蘭」に対応するものだろうが、『牧野新日本植物図鑑』に該当する植物名は不明。
「日光きすげ」はゼンテイカ、本文中の「日光黄菅」に対応するものだろう。
「によい」はフトイ、本文中の「ふとい」に対応するものだろう。
「にしき草」はハゲイトウヒユ科)の変種、本文中の「錦草」に対応するものだろう。

ほ 7品
「牡丹」はボタン、本文中の「牡丹」と同じ表記である。
「ぼけ」はボケ、本文中の「木瓜」に対応するものだろう。
「布袋草」はクマガイソウ、本文中の「布袋草」と同じ表記である。
「星草」はホシクサ、本文中の「星草」と同じ表記である。
「鳳仙花」はホウセンカ、本文中の「ほうせんくわ」に対応するものだろう。
「ほととぎす」はホトトギス、本文中の「郭公」に対応するものだろう。
鳳凰草」はホウセンカ、本文中の「鳳凰草」と同じ表記である。

へ 2品
「へくそかずら」はヘクソカズラ、本文中の「百部桂」に対応するものだろう。
「弁慶草」はベンケイソウ、本文中の「弁慶草」と同じ表記である。

と 7品
「唐蓮」は本文中の「唐蓮」と同じ表記であるが、『牧野新日本植物図鑑』に該当する植物名は不明。
「唐桐」はヒギリ、本文中の「唐桐」と同じ表記である。
「とらのを」はオカトラノオ、本文中の「虎の尾」に対応するものだろう。
「とうき」はニホントウキ、本文中の「とうき」と同じ表記である。
「とりかぶと」はトリカブト、本文中の「芨菫」に対応するものだろう。
「とうれんげ」は本文中の「唐蓮花」に対応するものだろうが、『牧野新日本植物図鑑』に該当する植物名は不明。
「とべら」はトベラ、本文中の「とべら」と同じ表記である。