信鴻のガーデニング安永四年2

信鴻のガーデニング安永四年2
○五月
 五月も植物名を18日記載している。摘みの記載は、「いちこ・笋・梅子」などと変わり、4日に減っている。ガーデニング作業と思われる記述も10日となる。それらの中から、記された植物名は31ある。新たな植物の種類は11種である。以下、日付順に示す。
 「いちこ」は、キイチゴバラ科)と思われるが、確証はない。                「笋」は、マダケ(イネ科)とする。
 「茗荷」は、ミョウガ(ショウガ科)とする。
 「高野榧」は、コウヤマキ(スギ科)とする。
 「紫陽花」は、アジサイユキノシタ科)とする。
 「鬼石菖」は、ショウブ(サトイモ科)とする。
 「姫百合」は、ヒメユリ(ユリ科)とする。
 「紅黄草」は、コウオウソウ(キク科)とする。
 「秋海裳」は、シュウカイドウ(シュウカイドウ科)とする。
 「布袋竹」は、ホテイチク(いね)とする。
 「釣荵」は、シノブ(ウラボシ科)とする。
 以上の他に「名しれさる」とあり、植物数としては一つ増えることになる。
○六月
 六月は、ガーデニング作業と思われる記述が12日あるものの、植物名を記載した日は3日である。記された植物名は3しかない。新たな植物の種類は以下の1種である。
 「宮城野」は、ミヤギノハギマメ科)とする。
○七月
 七月は、ガーデニング作業と思われる記述が13日あり、植物名を記載した日は10日である。収穫した日は、5日である。それらの中から、記された植物名は14あり、新たな植物の種類は8種である。以下、日付順に示す。
 「さゝけ」は、ササゲ(マメ科)とする。
 「番椒」は、トウガラシ(ナス科)とする。
 「交(ママ)竹桃」「爽竹桃」は、キョウチクトウキョウチクトウ科)とする。
 「千日紅」は、センニチコウ(キク科)とする。
 「茄子」は、ナス(ナス科)とする。
 「緋桐」は、ヒギリ(クマツヅラ科)とする。
 「尾花」は、ススキ(イネ科)とする。
 「蕣」は、アサガオヒルガオ科)とする。
○八月
 八月は、収穫物が増え、収穫した日は17日もある。植物名を記載した日は15日であるものの、ガーデニング作業と思われる記述は1日しかない。それらの中から、記された植物名は19あり、新たな植物の種類は6種である。以下、日付順に示す。
 「とちの実」は、トチノキトチノキ科)とする。
 「栗」は、クリ(ブナ科)とする。
 「柿」は、カキ(カキノキ科)とする。
 「蜀黍」は、トウモロコシ(イネ科)とする。
 「桂花」は、総称名モクセイ(モクセイ)とする。
 「初菌」は、ハツタケ(ベニタケ科)とする。
○九月
 九月の植物名を記載した日は18日であるものの、ガーデニング作業と思われる記述は6日しかない。
収穫物の大半はハツタケで、収穫した日は13日もある。それらの中から、記された植物名は19あり、新たな植物の種類は2種である。以下、日付順に示す。
 「伽羅木」は、キャラボク(イチイ科)とする。
 「箱根草」は、ハコネソウ(ウラボシ科)とする。
○十月
 十月の植物名を記載した日は20日であるものの、ガーデニング作業と思われる記述は12日ある。い。
収穫物の大半はハツタケで、収穫した日は3日もある。それらの中から、記された植物名は30あり、新たな植物の種類は4種である。以下、日付順に示す。
 「蘿葡」は、ダイコン(アブラナ科)とする。
 「松菰」は、マツタケマツタケ科)とする。
 「芋子」は、ヤマノイモヤマノイモ科)とする。                      「萩」は、総称名ハギ(マメ科)とする。
 なお、不明なものとして「畑の芋」と「あたみ菊」がある。「畑の芋」は、ヤマノイモとは異なるようだが、サトイモやサツマイモとも異なるような気がするので、判断つかない。「あたみ菊」は、キクの品種らしいが詳細は不明。
○十一月
 十月の植物名を記載した日は9日であるものの、ガーデニング作業と思われる記述は21日ある。それらの中から、記された植物名は14あり、新たな植物の種類はない。
○十二月
 十二月の植物名を記載した日は11日であるものの、ガーデニング作業と思われる記述は9日ある。い。収穫物は「蕗臺」などで、収穫した日は6日もある。それらの中から、記された植物名は13あり、新たな植物の種類は以下の1種である。
 「青木」は、アオキ(ミズキ科)と思われるが、他の青い木を指している可能性もある。
○閏十二月
 閏十二月の植物名を記載した日は6日で、ガーデニング作業と思われる記述は3日ある。収穫物は「土筆」で、収穫した日は3日もある。それらの中から、記された植物名は6あり、新たな植物の種類は以下の1種である。 

                                                                              ○信鴻のガーデニングを安永四年とそれ以前との違いを見る。
 安永四年は、閏月があることから例年より日にちが多く、そのことを踏まえて見る必要がある。ガーデニング作業と思われる記述は139日程ある。植物名を記した日は167日程ある。収穫した日は78日程ある。植物を遣り取りした日は31回、植木屋へは20日程訪れている。それらの中から、記された植物名は304程あり、植物種は90種ある。新たに登場した植物の種類は47種てある。
 信鴻がガーデニング作業をした日数を安永三年の181日と比べ139日と少ない。安永三年は平均すると二日に一回(51%)行っているのに対し、安永四年は閏月で一月多いことから、三日に一回程(36%)程になる。安永四年の採取・収穫をした日数は78日(月平均6日)、安永三年は52日(月平均4日)である。採取・収穫をした日は、安永四年の方が多いことから、その分安永四年の作業日数が少なくなったように感じる。
 ガーデニング作業も採取・収穫も、どちらも六義園内での活動であり、合わせて見た方がわかりやすい。安永四年の春(現代の暦に対照させた)の活動は、安永三年より活発で、特に春草摘みが5割ほど多くなる。その理由として、前年以前のマツや雑木の伐採・剪定が進み、日が差し込むようになって、土筆・萱草・蒲公・蕗・車前等の下層植生が豊かになったためと推測する。六義園の様相が徐々に変化しているのであろう。また、園内の伐採・剪定が進んだことで、安永三年よりも作業をしなくても良い状況になったのだろうと推測する。
 植物名を記した日数は、安永三年は267(月平均75)に対し四年は304(月平均79)とあまり変わらない。植物の種類数も安永三年は75(月平均6)、四年が90(月平均7)と、出現数はほぼ同じくらいと言えそうだ。安永四年に記録した植物名で最も多かったのは、安永三年と同じスギナ(表記は土筆)で21、次いでハツタケ19、ウメとマツが14、ツバキが9となっている。安永二年は、マツ・ウメ・ツバキ・クリ14の順になっている。
 次に、新たな植物種について示すと、安永二年六義園に移ってから記した植物の種類は39種、翌三年が57種、安永四年が47種となっている。3年間で143種に増えている。
 その他、植物を貰ったり、遣ったりした日数は31日ある。安永三年では、採取・収穫が52日、遣り取りした日数は48日ある。