「厳戒要す」とだけで対応は

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)481

厳戒要す」とだけで対応は

 七月二十二日の読売新聞は「敵機動部隊依然厳戒を要す」「艦上二六四機撃墜破」との「戦局大観」。「本土決戦論(三)」は、「隘路打開の鍵は 統帥責任生産」と、軍需生産についての見解だが、このような時機に及んでと。

 二面に「すぐに実行しよう お藷の手入れ」「一本残らず収穫あげるも努力次第」との掛け声。その下紙面に「どんぐり食糧化 今年は千二百万石採集」もある。

 朝日新聞も「厳戒要す敵企図 交通網攻撃を開始」と。

 二面に「焦土を潤す文化の涼風 麹町に壕舎の本屋さん店開き」とある。また、「怖しい悪性インフレ」と、闇市場では急激なインフレが進んでいる。「“お金が紙屑”では敗戦」と闇の自粛を訴えているが、逆効果にならないか。

 市民の不安は、「プー。又すぐ解除。と又プー。今度は、中々解除されず・・・ドドーンと遠くで地響きのやうな音がする。さては、艦砲射撃が始まったか。ラヂオは、それ迄、B29一機のことばかり言ってゐたが、急に『房総南端及相模湾に砲声あるも、陸岸には特異なる事象を認めず』と言った。又続いて『房総南端及相模湾の砲声は、我軍の敵艦船に対する彼我の砲声にして陸岸には依然特異なる事象を認めず』と来た」と、ロッパは、敵の上陸を意識してのことであろうと。

B29 の爆撃激化も対応できず

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)480

B29 の爆撃激化も対応できず

 七月二十一日の朝日新聞は「インフレ防止・焦眉の急」「通貨の軽視観念抑制」経済秩序維持のためと。

 二面に「米生産、民需へ綱渡り」「家鴨や豚を飼って」、外食券の不正、「配給の砂糖を廿四貫横領」と。諸般の問題点に触れているが、解決策など有るだろうか。

 読売新聞はB29 小都市爆撃を激化」あちこちの被災地を列挙。また「本土決戦論(二)」は、「『勝利の確算』あり」「必死背水の布陣」「闘魂こそ最大の武器」と、「闘魂」を武器と言うのはすり替えである。「インフレ防止」など他記事は、朝日新聞とほぼ同じ。

 二面は「油断が怪我の因」「〝一機だから〟とて大型爆弾を投下」と原爆を予見するような記事、「爆風には低い姿勢を」と。また「わが家の兵站線」には「食時五観の心構へ」野菜は自給・二粥一飯とある。だが、「馬鈴薯 来月から配給 お米一升の代替率・一貫八百匁」と、「一飯」どころか「粥」すら危うくなりそうだ。

 高見は、「雨。煙草に野鶴の葉をまぜて飲む。配給がすくないのでそうして飲みのばそう というのだ。かぼちゃの葉を食う。初めての試食だが、まずくはない」とある。

 

本土決戦論

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)479

本土決戦論

 七月二十日の朝日新聞は「房総南端に敵小艦艇」「白浜付近を砲撃」、「十八日百卅五機を屠る」と、米軍の攻撃と戦果を報告。

 読売新聞も同様「白浜(外房)を艦砲射撃」「厳戒要す 機動部隊の動向」などと。なお、本土決戦論(一)武力戦篇(上)」「一億の憤怒を翼に 機を待つ特攻機 確信せよ・的撃滅の日」とあるが、「敵の航空攻勢」「制空権奪えず」との見解。やはり「論」を展開するのであろう。

 二面にはそれを受けたように「敵殲滅の準備へ・耐へ難きを忍べ」「失ふな勝利の自信」。そして、「近視眼的勝敗論は尚早」とあるが、誰に向けての記事であろうか。また「わが家の兵站線」には「食物は手近に豊富〝いかもの喰ひ〟結構」と、食糧難の国民とは無関係な記事ではなかろうか。

 ロッパは、新橋駅前で街頭演奏「今にも降り出しそうな空の下、約一万人位╶─╴ぢゃなかろうか、人の海」。盛況であったのだろう、ロッパは「歌ってゝも気持よく、何だか馬鹿に愉快だった」と。

 またロッパは、「北海道は中止のこと、むろん満州行も止めにして、在京のことゝ定める」と、記している。戦況の悪化を鑑みてのことであろう、開き直った心境を示すものでもあろう。

何たる日本

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)478

何たる日本

 十九日の朝日新聞は「敵機動部隊執拗に蠢動」と、「狙いは航空兵力減殺と人心攪乱」との記事。加えて「茨城沿岸へ艦砲射撃 関東に敵艦上機跳梁」と米軍の攻撃を伝える。

 新聞は前向きに報道すべき、特に二面は明日への糧になる記事にと、思うのだが。読売新聞二面は、「遠藤長官と一問一答」で「飛機生産線いまや急上昇」と判断しているのに、「蔓る私利私欲こそ 余剰戦力化の癌 一人一人が増産に直結」と。行き着く先は精神論、原料不足解消や製作な行程など、具体的に踏み込んでいない。

 ロッパは、「すべてが狂ってしまった。お盆も藪入りもなく、その代り金もちっとも要らず。水戸の艦砲射撃は、やっぱり夢ではなく、新聞を見ると、『日立・水戸方面に艦砲射撃』と出てゐる。もはや、敵の上陸も近いといふ気がする。何たる日本。・・・ラヂオ、ブザー鳴り、敵機京浜に近しと言ふ。十一時半、広場の仮設舞台、野天である。工員数百。しまひの『強く明るく』にかゝると、大空に爆音、工員たちも空を見上げる、B29が頭上通過、高射砲ドヾンドヾンと撃ち出す。それでも歌ふ、面白いって気がしてた。『あせらずに元気でいつも明るく強く進まう!」と歌ひ乍ら、僕も空を見る。工員たち、空を半分、こっちを半分、拍手する。終って、事務所へ歩く時、空からヒラヒラ、謀略ビラが落ちて来る。拾って貰ふと、『マリアナ時報』。事務所の人たち、『いやア実に印象的で反ってよかった』と言ってる」と、気分を良くしている。

都民は落着いたもんだ

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)477

都民は落着いたもんだ

 七月十八日の日新聞は、「関東海面に再び 機動部隊来襲と、平塚・沼津、桑名市付近など、各地の攻撃を記している。

 読売新聞も「敵機動部隊再び南下」「次期作戦の瀬踏み」「急ぐか本土上陸強行」とある。各地には、都市暴爆・交通破壊を狙ふ」と、「B29 百九十機来襲」「平塚・沼津等」を初めに、「千葉・茨城・神奈川に艦上機百八十機」などが続いている。

 二面に「九州輸送陣はかく戦ふ」「醜弾にも破壊されぬ国鉄魂」「手押し〝人力列車〟」との記事。気持ちとしては理解できても、本気の沙汰かと。他に、「公用に多い虚偽深刻」と、「私事旅行の証明書濫発」に「正直に」とある。このような不正は、これまでなかったわけではあるまい。そして、「わが家の兵站線」には「滋養の王、昆虫の蛹「昆虫界に食糧無尽」がある。なお、「野菜と魚 輸送難を嘆く 産地の滞貨」との記事がある。

 ロッパは、「夜半、夢うつゝで、ラヂオきいてたら、水戸が今、艦砲射撃を受けてゐると、言ってゐた。水戸と言へば、すぐ近くではないか、冗談ぢやない・・・十二時七分前、ブーウー。『敵は伊豆北部より小田原へ』、B29一機B24一機の由。・・・今度は鹿島灘方面から小型艦載機編隊が、又続々と入って来る。やがて空K出づ。ドヾーンドヾーン高射砲の音、既に百八十機』尚続々と後続目標があると言ってゐる。然し、近隣何の騒ぎもなし。子供の嬉々として戯れる声がするし、家の中も、平常通りである。東京都民は落着いたもんだな、一寸考へると呆れることである。一時十五分、まだ後続編隊云々とやっている」と、平穏であった。

我作戦に企図挫折

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)476

我作戦に企図挫折

 十七日の朝日新聞は、米軍が「我作戦に企図挫折」と、「全国各航空部隊へ 侍従武官を御差遺 航空総軍司令官・聖慮に感泣」。神機を待ち隠忍 空母陣増強に驕る 敵機動部隊撃滅へ」と記している。

 読売新聞は「テルナテバリツク勇戦を御嘉尙」「陸海両総長恐懼、全線将兵に伝達」。また「機動部隊屠らずば 死すとも責を免れず」と「基地特攻隊へ烈々長官の訓示」とある。これらを受ける将兵・特攻隊員の心境を察しているのであろうか、現代では理解しがたい。

 二面も前向きではないようだ、「中小都市防空の欠点」「誤つた状況判断と 家を棄てゝ『退避』 忘れられたデマ封殺と戦列復帰」。また「闇の根絶策ここにあり」「配給機構に睨み」「内部から強力な監察」が続いている。

 高見は、今日の来襲記事 (毎日新聞)から「我作戦に企図挫折 避退か洋上補給か、敵機動部隊再襲厳戒・・・」とあるが、この情報は信頼できるものであろうか。

 ロッパは、「今日も街頭慰問やる筈だったが、雨だし、延期・・・三時に放送局へ・・・放送局では、電信局慰問のオケ合せ。スタヂオ内で、歌一と通り合せる。それを入口に立って見てた のが、何うも敵の捕虜らしく、気になってゐたが、通訳の人が来て、『あの中の一人は英人で、もと役者、今、貴方の歌ってるのきいてゝ、実にあれはフランスの歌ひ方だ、と感心してる』と言ふから、行くと、「へイ・ マイク!」と呼び捕虜マイク・マクノートンといふのと、通訳付きで話す。彼の父も役者で、ガス・マクノートンと いひ、 チャプリンと、パントマイムの一座 にゐたことがあるとか。『戦争済んだら一緒に芝居しようぜ』と、握手する。ギューツと力入れて握った。可哀さうな、捕虜」と、同情している。

艦砲射撃の次に、沖縄では何が始まったか

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)475

艦砲射撃の次に、沖縄では何が始まったか

 七月十日の朝日新聞は「機動部隊 継続近接」「室蘭市を砲撃」と。二面には、「藷畑へひと皮剥いだ競馬場」、「活かそう、この食資源」に「つゆくさ、いぬたで、ゐのこづち、いたどり」が続く。また、「予約の前景気も上々 勝札いよいよきょうから発売」、富籤が発売されている。

 読売新聞は「敵・本土攻撃を続く」艦砲射撃、東北や九州・東海などへ飛行機による攻撃を伝える。「社説」に、ドイツ敗戦のナチス・ドイツの「政治的迷信」をあげている。その中には、わが国軍部の「迷信」には触れていないが、もしかすると暗に潜ましているかもしれない。

 二面に「断乎戦ひ抜け敵艦砲射撃」最も有効な蛸壺」で「射程は陸上へ卅キロ」との記事。沖縄では、そのようなことで効果があったか、結局は敵の阻止も、敵からの逃避もできなかったことを忘れたのだろうか。そして、「壕舎生活 わが建設記」として、「よく噛み、不精せず」「文明を精算した手作りの一坪半」など、別天地を想定している。沖縄のような、敵が上陸して来ることを全く考慮していない。

 ロッパは市電で渋谷へ、駅前の空き地で「盛った舞台の前に、もう何千人か人が集てゐる。「戦力増強芸能隊」と旗をかゝげ、五時すぎから始まる。・・・何しろ駅前 のことだ、電車の音、自動車の音、しまひには飛行機も通る」と、街頭慰問の状況を示している。