江戸東京市民の楽しみ(昭和時代)330
戦争が終り一ヶ月たっても、変わらぬ戦中の生活
敗戦後ひと月近くなって、やっと、大本営が廃止された。朝日新聞には、「民主主義、結構だが 一足飛びは無理」とある。また、敗れたりとはいへ 誇りは捨てるな」浅ましい姿(タバコやチョコレート拾い)は慎もうとの記事を掲載。マッカーサーは「日本は第四等国に下落した」と毎日新聞の記事と。
九月の第二週に入っても、惨憺たる東京の焼跡はそのまま。「水道」は「年末までご辛抱」と。「生必品は配給制で」と、戦中と変わりない。そして、渋谷駅のホームから観ると道玄坂の焼跡は平地になり草が生えているとの状況は変わらない。まだ都民は、戦中と同じような生活が続いている。
しかし娯楽は、ラジオが歌謡曲や軽音楽の放送を再開し、相撲、野球、庭球など明朗体育も復興の兆しがある。人々への娯楽への制限が少しずつ緩められ、久しぶりに米国映画を見ることができるようになると。
九月七日、朝日新聞は「民需生産は全力再興 沖縄、小笠原基地」など、米軍当局が広汎な計画を言明している。
二面に「米人記者のみた広島」に「生存者の憎悪の眼」と「夏の太陽の下・廃墟に漂ふ死臭」の記事。
他に「誤解招く娘の笑顔粋な素足も挑発的」との注意喚起もある。
九月八日、朝日新聞は「民間の自主活動を促進 重点は民生の確保 統制も果敢に改廃刷新」と、中島商相の所信。ただ、商相は「生必品は配給制で」と、戦中の制度を踏襲したまま進めようとしていることが記されている。
他に、東京 神奈川「憲兵の解散完了」との記事もある。
二面に「けふ連合軍 帝都へ進駐」と、とうとう東京に米軍が進駐することを伝えている。
「戦災都市の復興」は「本建築など問題外 差当たり簡易住宅」、「近く許す 要残留者家族呼寄せ」と。まだ殆ど手がついていない状況である。「戦災都市住宅は 区画を定め建築」とあり、戦時中に許された土地利用の使用権をそのまま放置することは出来ず、「紛争防止に近く新法令」を確立するとなったと。現実には、人々は生活をしており、様々な問題があり不可欠な「水道」は「年末までご辛抱」、「引込み栓修理もやつと六割」という状況であった。東京の惨憺たる焼跡は、そのままであったようである。
九月九日、朝日新聞は「極めて平穏の裡に 連合軍、帝都進駐」したとしている。
二面に「伝統を誇る米騎兵師団 代々木原に幕営」と。また「『もしもし』にご注意 外国向郵便物を米軍が検閲」が行われると。
他に、ラジオが歌謡曲や軽音楽の放送を再開する。「相撲、野球、庭球など明朗体育を復興」と、少しずつ娯楽への制限がゆるめられた。「東宝名人会 九月十三日 日比谷公会堂」の広告。
高見は「米兵の婦女拉致の噂を街で聞くが、新聞にも出ている」として、毎日新聞から「当局の厳重な抗議と聯合軍司令部の命令が次第に徹底し、最近の不祥事発生件数は漸次低下しつつあるが、なかには憲兵の監視網を巧みにくぐって婦女拉致事件が他に比べて目立って来た、・・・被害者の大半は泣き寝入りで被害届をせぬので、表面化しているのは少いが、目撃者の届出は相当ある…当局では他への注意のためにも被害を受けた場合は恥を忍んで最寄の交番か警察署まで速に届出るように要望している なお被害者のなかには恥かしいと無名の手紙や投書をする者があるが、投書等では何の役にも立たず直接申出ることが肝要である」と。「この新聞記事は読む者にとってなんともいえないなさけない気がする」と。
九月十日、朝日新聞は「陸軍将兵の復員五百八十九万」との見出し、「完了迄に三箇年」かかると。
二面には、「一夜に“天幕村“出現。代々木に進駐軍」が入営したことを報告。「別れも愉し」上映広告
読売新聞の「新聞、ラジオ検閲打ち合わせ」のなかで、「米国映画の日本輸入に反しても諒解成立し、日本国民は久しぶりに米国映画に接することができることになった」と、高見は記している。
九月十一日、朝日新聞は「マ元帥、管理方針を発表」。それは「自由主義を助長奨励 不当な干渉行わず」とある。
二面に「敗れたりとはいへ 誇りは捨てるな」浅ましい姿(タバコやチョコレート拾い)は慎もうと。また、この二日間に帝都の進駐事故(強奪)廿九件、婦女子への暴行は皆無と。
九月十二日、朝日新聞は「大本営を廃止 十三日午後十二時限り」と。
二面に「”心遣い”が過ぎてか 入城早々の缶詰 面目ない一部の非行」。「拳銃で脅迫、現金強奪」と、街や劇場に米兵の非行がある。他に、東京逓信局で「小包便の引受け再開」十六日からと、まだ戦後復興への足どりが始まったという状況である。
高見は渋谷駅の「ホームから道玄坂の焼跡が見えたが平地になってしまった焼跡に草が生えていて、昔の賑やかな道玄坂をそこに思い描くことは難しかった。もとからそんな軀さの生えた、家のポツンポツンとしかない丘陵地だったような気がするのだった」と、景色を記している。
九月十三日、朝日新聞は「緊急勅令で選挙法特例 『住居の期間』撤廃」すると。
また「根本的改革は必至」として、悪性インフレ防止のために「国民貯蓄は一層増強」することを勧めている。
二面に「民主主義、結構だが 一足飛びは無理」との見解もある。「アメリカ映画 まづ年内に劇物廿本」の見出し。「アメリカ映画会社から寄付された劇映画二十本が年内に輸入上映される見込みでいづれも日本語字幕入りである」と。日本ニュース「米軍進駐」など近日公開広告。他に、米兵が「都電を襲い身体検査」と称し、乗客から時計、万年筆を強奪したとある。
高見は、「・・・自動車の運転手から聞いた話だそうだが、アメリカの兵隊にとめられて女のいるところへどうしても連れて行けといわれた。ただし金はない。自動車賃に煙草〇個出す。女の方も、煙草で話をつけてくれ、そういわれて運転手は困ったが、いやだというとピストルでポンとやられるかも知れないので、向島へとにかく車をやった。すると――『そこには派手な振袖を着た一少女歌劇の衣裳だかを、借りて来たという話ですが、とにかく派手なキモノを着た女がいて、もう慣れたもんで、ハローなんていって、いきなりアメリカ兵の頸ッ玉に抱きつく。いやはや、どうも…… 』と話し手はいった。運転手は待合にかけあって煙草〇個で (数を聞いたのだが忘れた ) 百円貰い、運賃を取って残りを渡した。アメリカ兵は喜んで家に上った。地理がわからないから、待っていてくれと、いったそうだが、運転手はアメリカ兵の姿が見えなくなると、すぐさま逃げ出した」と。
九月十四日、朝日新聞は「日本側による国内の定期航空を許可」され、差し当たり終戦事務に使用とのことで。
また「失業人口千三百万」緊急に対策樹立とある。他に、杉山元帥の最期、婦人も後を追ひ自刃の記事。
二面に、連合国記者団団長ブライアン氏の「滞京二週間の印象」がある。それは「敗因は真珠湾攻撃」、今後について「大転換が必要だ」と、また「全国民の冷静さに一驚」などを示した。そして、「一九四〇年解散されたはずの黒龍会が四三年には再び頭をもたげてゐる」ことなどに触れ、「米国民は日本の今後の出方を注意深く見守っている」と結んでいる。他に、「職場を挙げて 復員軍人を歓迎 輔導会に求人十一万」。「神社等に米軍憲兵」、「中央郵便局荒らし 不法行為漸増(米兵の)」などがある。
高見は、日本の軍人について「・・・『日本軍の将校は少くとも精神においては米軍に勝れていると自信を持っていたが、いま目の前に見るアメリカ将校の態度は全くわれ/\日本の将校よりも上である、自分等が井戸の中の蛙で独りよがりになっているうちに彼等に追越されていた』としみじみ感じた、精神的な面において然り、事務的な面におけるきびきびしたところ熱心な点は全く足もとにも及ぱぬ、会談は夜の八時から十一時半にまで及んだにも拘わらず臨席の将校誰一人あくび一つしない、大佐位の者が自らペンをとって自分のいうことを一言洩らさず丹念に書きとめている熱心さに感心した」と。また、高見は、マッカーサー元帥のいう「日本は第四等国に下落した」毎日新聞より、を記している。