昭和二十年八月終戦を迎え、空白の市民

江戸・東京市民の楽しみ(昭和時代)270
昭和二十年八月終戦を迎え、空白の市民
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昭和二十年(1945年)・八月、広島に原子爆弾投下⑥、ソ連対日宣戦布告⑧、ポツダム宣言受諾⑭、戦争終結
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 八月に入り、八月一日付朝日新聞の一面見出しは、「敵空母十数隻 丗日の来襲二千機」「敵艦三膄撃沈破」「地雷で吹飛ぶ敵兵」など、まだ戦果を記し戦争の継続を促している。それに対し、毎日新聞には、「焦土に爆笑続く」日比谷公園で野外劇、吉右衛門真実の一幕と、街中のことを記している。
 朝日新聞は、二日付一面の見出し、「制空部隊、潜艦協力 来襲の敵を痛撃す」「わが陸海の戦備着々強化」「撃墜破千二十機 七月中の来襲敵機二万」。三日付一面見出しは「見えぬ縦深陣地で 敵接岸に手具脛」。四日付でも、「大鳥島を艦砲射撃 敵戦艦に直撃弾 わが陸上部隊猛然反撃」と、戦争続行を記している。そして、二面には「最後の連絡果して 局舎と運命共に 死してなほ手にバケツ」と、国民に戦意の持続を訴えている。
 それが、五日付朝日新聞の一面見出しは、「牛島中将・大将に」「沖縄血戦に善謀・・・」と讃えている。前日二面のような末端の人であるならば、その行動を讃えざるを得ないが、最高位の指揮官が多数の兵士や住民を死傷に追いやったのに「善謀」と評価している。
 これまでの強気の見出しは、六日付になると「敵、太平洋の作戦区域変更 米、本土戦に専念 南方受持つ老猵な英豪」と、敵の脅威を示している。そして翌日七日には、「沖縄周辺の敵艦隊に 壮烈なる突入作戦 伊藤大将以下大義に殉ず」と、言葉は壮絶でも、戦果は明らかに敗北である。
 七日付二面には、「敵中小都市爆撃の実相 "嗜虐"の本性発揮 殺傷の八割は婦人、幼少者」とある。泣き言のような見出し、これで国民の戦意を挙げようとしているのであろうか。さらに、「旅行者外食券 徹底せぬのか少ない利用者」と、戦いとは直接無関係な事柄に触れ始めた。
 八日付一面、「広島へ敵新型爆弾 B29小数機で来襲攻撃 相当の被害、詳細は目下調査中」。九日付一面、「敵の非人道、断乎報復」とある。この時点で、第三者が判断するのであればわかるが、特攻隊で戦闘を持続している日本軍は、「非人道」ではないのか。
 六日、情報局へ行った高見順は、乗った「車の破損のひどさ、車内の乗客の、半分はまるで乞食のような風態のひどさ」、「これらのひどさは、もっと増すであろう」と感じた。八日、新橋から田村町辺の様子を「人の様子はいつもと少しも変わっていない。恐ろしい原子爆弾が東京の私たちの頭上にもいつ炸裂するかわからないというのに・・・人々は、のんびりした、ぼんやりした顔をしている。これはどういうことか」と書いている。
 確かに、読売新聞には九日付に、銀座松竹・帝都座等「北の三人」封切りの公告。十日付にも、大勝館「夏風、伊太郎頑張る」上映の公告。明日にも原子爆弾が投下されるような雰囲気は無い。日本軍の威勢のよい戦勝記事は影をひそめ、原子爆弾ソ連対日宣戦布告、ポツダム宣言についても一部ではあるが触れるようになった。
 朝日新聞は、十日付朝刊に「ソ連 対日宣戦を布告」。十一日付朝刊に「一億、困苦を克服 国体を護持せん」。十二日付朝刊に「大御心奉載(旧字)し 赤子の本分達成 最悪の事態に一億団結」。十三日付朝刊に「ソ連軍を邀へ激戦」と続くが、戦果は書かれていない。
 高見順は十一日、「廃墟のなかの停留所に立った。焼跡はまた格別の暑さだ。大門の辺に電車が見える。とまったまま動かない。停電だ・・・日中の街の真中だというのに、気がつくと恐ろしいような静けさだ・・・トラックの疾駆が腹立たしかった・・・人の往来がないので、いくらでも疾駆できる。木の枝の偽装を施しているトラックもあった」。
 そして十四日、銀座のエビスビアホールで、「久しぶりのビール・・・一杯飲むと・・・また新来の客のような顔をして・・・三杯飲んだ。酩酊したのもいる。声高にみな喋っている。けれど、日本の運命について語っているものはない。・・・そういう言葉を慎んでいる」。「四国共同宣言の承諾の発表! 戦争終結の発表!」が翌日あることを知っても、「みな、ふーんというだけであった。溜息をつくだけであった」と。そして、「銀座は真暗だった。廃墟だった。汁粉など食わせるところは、どこもない」で、高見順の日記は結ばれている。
 十五日付朝日新聞の一面見出しは、「戦争終結の大詔渙発さる」「新爆弾の惨害に大御心」。敗戦という言葉はないものの、「国土の焦土化忍びず」とある。そして、「再生の道は苛烈」などの見出しもある中で、社説は「一億相哭(みんなで泣く)の秋」とある。毎日新聞の社説は「過去を肝に銘し前途を見よ」とあり、「一億総懺悔」に触れている。