和のガーデニング 3

和のガーデニング  3
・時間の芸術(生育・開花時期の違いを活かした植栽)
  日本庭園と盆栽、スケールはまったく異なるものの共通する部分は多い。さらに言えば、鑑賞に求める本質は同じではないだろうか。というのは、日本庭園も盆栽も、三次元の造形に留まらない時間の芸術だからであろ。双方とも、四季の変化はもちろん、時代を超えて存続することを前提に作られている。
  なかでも注目したいのは、年間を通して観賞に堪えるという事。日本人なら当前のことと思うだろうが、四季折々に植物を楽しむということは、日本の気候を前提に成立している。ヨーロッパの人たちは、冬に植物を観賞する庭など思いも寄らないだろう。ローズガーデンなどはその典型で、観賞時期は見事な花の咲く季節だけである。その他の季節に、バラの枝や樹形を観賞しようなどとは考えもしないだろう。それに対し、日本庭園や盆栽は四季折々の変化を味わうことができる。花がはもちろん、新緑、紅葉、冬枯れの樹形、そこに雪が降ればまたそれを楽しむことを前提にしている。この楽しみ方こそ、和のガーデニングの基本である。 ヒロハノアマナ
イメージ 1  季節によって移り変わる日本の自然。それをよりハッキリと示すのが野草である。野草の生育・開花時期の違いを活かして、ヒロハノアマナ(日本原産のチューリップ) 、スカシユリキツネノカミソリ、シュウカイドウの植栽を紹介したい。これらの植栽で注目したいのは、ほぼ同じ場所で春にヒロハノアマナ、夏にスカシユリキツネノカミソリ、秋にシュウカイドウが咲くことである。一方、西欧流の花壇は、同じ場所で季節ごとに花を楽しむには、花の咲きかけたポット苗をその都度植え替えなければならない。それでは、切り花を季節ごとに地面に挿し込み、並べるのと何ら変わらないではないか。西欧流に簡便な方法で草花を消費するのではなく、じっくりと芽が出る時から眺め楽しむことを、今の日本の花壇づくりに薦めたい。
(以上は、環境緑化新聞http://www.interaction.co.jp/publication/news/  10月15日号掲載)
 
ヒロハノアマナスカシユリキツネノカミソリ・シュウカイドウの組合せ
  まだ寒い一月の中頃、初々しい葉を勢い良く一斉に出す植物がある。それはアマナで、青々した葉を勢いよく伸ばす景色、春はもうすぐ来るというメッセージが託されていて見る者を感動させる。草むらを形成する節分の頃には、少し遅れてヒロハノアマナも芽を出す。花の開花は、ヒロハノアマナの方が早いようで二月末から、続いてアマナも咲き始める。
  ヒロハノアマナが散る頃、スカシユリが芽を出します。また、ヒロハノアマナの種ができる頃、少し離れた草影にキツネノカミソリが葉を出すものの他の植物も一斉に茂り、気づかないうちに消えていることが多い。スカシユリが生育している内に、ヒロハノアマナは消えてしまう。五月になるとスカシユリの側に、シュウカイドウが芽を出す。五月の末頃からスカシユリが可憐な花を咲かせる。六月下旬になると、シュウカイドの葉が勢いを増し蕾を付ける。七月に入るとシュウカイドウが少しずつ咲き始める。同じ頃、スカシユリの葉は枯れてしまい、種を付ける。その後は、シュウカイドウの独壇場で十月の中頃まで咲き続ける。そして、葉は霜で萎れ、落葉の中に消えてしまう。
  これらの草花は、大谷石に区切られた、狭い場所に生育している。土は砂壌土で、日当たり、風通しは比較的良い場所で、管理しやすい位置にある。生育する植物の数量は正確にはわからないが、ヒロハノアマナ十数株、スカシユリ5株程度、キツネノカミソリ1株、シュウカイドウは落種から数多く発芽するが最終的には3~5株程にする。この植栽で注意すべきは、シュウカイドウの取り扱いである。放置していると、シュウカイドウが繁茂して他の植物を駆逐してしまうからである。
★ヒロハノアマ
 ヒロハノアマナユリ科多年草(球根)で、草丈は15㎝程。この植物の特徴は、スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)・「春植物」と言われるように、夏には葉が枯れ消えてしまうことである。この春の一時だけしか見られない植物を「春の妖精」とも呼び、愛好する人も多い。ヒロハノアマナの同属にアマナという植物もあり、それを代わりに植えても良い。ヒロハノアマナの葉の幅が7~15㎜と幅の広さが強調されているが、アマナにも10㎜以上の葉もある。広く見えるのは、葉の長さとの関係からで、アマナは30㎝伸びるのに対し、ヒロハノアマナはその半分以下なのと、中央に白色の線があるために余計に幅広く感じるのである。イメージ 2               アマナ
  ヒロハノアマナは、東京周辺では陽の当たる林縁で、二月初旬に芽吹き下旬に咲く。戸外に彩りの少ない時期に、花と葉を楽しむことのできる植物として貴重である。なお、さらに早く青々した緑が見たいという人には、アマナが適している。アマナは一月中旬に芽吹き、二月初旬には勢いの良い草むらを形成する。ただ、アマナの花は、ヒロハノアマナより少し遅いのと葉の中に埋没気味で、春の息吹を伝える葉に比べると感動が薄い。
 この両植物の栽培については、難しいと記されたものを見たことがあるが、私が取り扱う植物の中では容易な部類である。特に病害虫の心配はないと思う。なお、アマナは繁殖力が強く、どちらかといえば繁茂しすぎるため雑草として排除する必要もある。しかし、気にしなければそのうち消えてしまうので、落葉樹の下草として生育させておくことを勧めたい。
イメージ 3スカシユリ
 スカシユリユリ科多年草(球根)で、草丈は50㎝位まで伸びる。花期は六月上旬、10cm程の鮮やかな濃い橙色に赤褐色の斑点のある花が咲く。その花に隙間があることから、「透かし」百合という名が付けられたとされている。栽培は比較的容易で、日当たりを好むが、多湿を嫌うことから風通しの良い場所が適している。夏の直射日光で乾燥しやすいので、撒水と共に根元に日陰を作ることも必要。そのような意味で、シュウカイドウの植栽は効果的である。開花後の処理として、結実させると株が弱るので摘んだ方が良い。球根の植え替えは行なった方が良いが、他の植物の根や球根などを考慮して過密になるまで控えておくこと。なお、植え替え時には、スカシユリの代わりにコオニユリカノコユリの植栽、混植も試してみたいと考えている。
キツネノカミソリ
イメージ 4 キツネノカミソリは、ヒガンバナ科多年草(球根)で、葉は長さ30㎝程あるが直立しないので10㎝程である。春に葉が出るものの、夏前に枯れ、葉の消えたあとに七月末頃から花茎が出る。花茎は高さ30~50㎝、黄赤色の5㎝程の花が数輪開く。日陰に咲く鮮やかな花の色は、実に印象的で、個人的にはこの花を見ると夏の終りを感じる。
  実は、この花は、意図的に植えたものではない。庭のあちこちに生育しているものの一つで、たまたま草むらの下に出てきたもの。キツネノカミソリは、毎年同じ場所に出ているのだろうが、消えてしまうものもあるようだ。ということで、ほとんど手入れをしていない。
★シュウカイドウ
イメージ 5 シュウカイドウはシュウカイドウ科の多年草(球根)で、草丈は80㎝位まで伸びる。花期は七月上旬から咲き始め、十月中旬頃まで咲いている。花は、2㎝程の桃色の花が分枝して咲き、雌雄異花である。まず雄花(4弁)が咲き、花茎が分かれて伸びまた雄花が咲き、繰り返してその先端に雌花を咲かせる。
  シュウカイドウは、乾燥には弱いものの非常に強靱な植物である。手入れというより、むしろ繁殖力が強いので間引きを適宜しなければならない。花を長期間咲かせるには、生育差をつけ、場合によっては先に咲いた株を剪定する必要もある。花が枯れた後、葉腋に小豆大の種(ムカゴ)のようなものができ、地面に落ちて翌年芽を出す。その数は多く、放置するとその一角は、シュウカイドウで全て埋めつくされるくらいである。