早春の草花

早春の草花   
  二月に入ると、多くの植物が一斉に活動をはじめる。とは言っても、咲いている花はまだ少ない。もっとも、前年から咲いているスイセンシロバナタンポポ、渋いところではフユノハナワラビなど、探せば咲いている花はある。年によっては、セツブンソウやミスミソウフクジュソウが一月から咲く。二月に咲くといっても、まだチラホラと咲く程度であるが、それでも春の訪れを十分に伝えてくれる。

シロバナタンポポ
 イメージ 1 シロバナタンポポは、関西地方では珍しくないが、関東地方ではあまり見かけない。栽培してみると、カントウタンポポより繁殖力が強く、取り扱いも容易な気がする。シロバナタンポポの一番の魅力は、十月から咲くこと。タンポポと言えば春の花と思いがちだが、シロバナタンポポは、秋から咲き始める。冬になると、花の数は減るもの、年が明けても咲き続け5月まで咲いている。
  タンポポを薦めるのは、子供も親しみを覚えるような愛らしい花で、日本人にとって馴染みやすいからである。タンポポは大昔から生えているが、文献で初めて示されたのは『草木和名(10世紀初頃)』『文明本節集(15世紀末~16世紀初)』とされている。以後、注目されるのは茶花としてだろう。茶書『松屋会記』に記されたのが寛永十八年(1641)二月二日である。時期としては、旧暦だから現代の三月初旬、カンサイタンポポの開花時期としては、少し早いような気もする(シロバナタンポポかも)。さらに探していくと、『槐記』に享保十一年(1726)三月二十四日に「白蒲公英」を活けたという記載がある。シロバナタンポポは、案外身近な植物だったようだ。さらに、十八世紀後半には食用として、摘み草が広く行なわれ、たぶん、この頃から日本人のタンポポ好きが深まったのだろう。
イメージ 2  タンポポはキク科の宿根草で、高さは15~30㎝ほどで、日当たりの良い場所であれば土質を選ばない、強靱な植物である。ただ、胞子で増えるため、思いどおりの場所に出るとは限らず、また、胞子を播いても必ず発芽するとは限らない。タンポポの発芽調査を見ると、セイヨウタンポポよりカントウタンポポの方が、さらに、シロバナタンポポの方が発芽率が低いという報告がいくつかある。そこで、移植した場合はどうかと、我が家の庭で試してみた、すると、カントウタンポポよりシロバナタンポポ方が移植しやすいという結果がでた。そのためか、我が家の庭では移植をしたことによって、シロバナタンポポの方が優勢である。
  シロバナタンポポの性状等については、以下の表に示す。この表は、関東地方を基準に作成している(正確には、千葉県佐倉市南部での実例をもと想定)。なお、・印は、年によって異なったり、少ない場合を示している。(以後の表についても同様である)
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  タンポポの根は、写真のように様々な形をしており、 根が堀取り時に途中から切れても大半は活着する。タンポポの移植は容易で、堀取り後、一日くらい放置しても、枯れないくらい丈夫だ。また、狭い場所、石と石の隙間のような所でも生
育することから、細い竹筒に発芽させて、それを移植することもできる。したがって、必要に応じた場所に移すには便利な植物である。

ヒロハノアマナ
イメージ 5  ヒロハノアマナは、東京周辺では陽の当たる林縁で、二月初旬に芽吹き下旬に咲く。戸外に彩りの少ない時期に、花と葉の両方を楽しむことができる植物として貴重である。この植物の特徴は、スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)・「春植物」と呼ばれるように、夏には葉が枯れ消えてしまうことである。この春の一時だけしか見られない植物を「春の妖精」とも呼び、愛好する人が多い。
イメージ 6 なお、もっと早く青々した緑が見たいという人には、アマナが適している。アマナは一月中旬に芽吹き、二月初旬には勢いの良い草むらを形成する。ただ、アマナの花は、ヒロハノアマナより少し遅いことに加え、葉の中に埋没気味で、春の息吹を伝える葉に比べると感動が薄い。
イメージ 7 ヒロハノアマナ、アマナは、共にユリ科多年草(球根)である。ヒロハノアマナは、草丈が15㎝程、葉の幅が7~15㎜と幅の広さが強調される。それに対しアマナは30㎝位まで伸び、葉の幅はヒロハノアマナより多少狭い程度で、中には幅10㎜以上の葉もある。ヒロハノアマナが広く感じるのは、葉の幅がアマナより多少広い程度でも、長さが半分しかないためである。しかも、ヒロハノアマナには、葉の中央に白色の線があり、視覚的にもより幅広く感じさせる。
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 この両植物の栽培については、難しいと記されたものを見たことがあるが、私が取り扱う植物の中では容易な部類である。移植は休眠中であれば可能で、ヒロハノアマナは10㎝程の深さに、アマナは5~7㎝の深さに埋めれば良い。特にアマナは、掘り起こして一日や二日放置しても乾燥に耐える。病害虫の心配は、まだ寒い時期なのでほとんどない。ただし、アマナは繁殖力が強く、むしろ繁茂しすぎてしまうため雑草として排除する必要もある。しかし、気にしなければそのうち消えてしまうので、私としては落葉樹の下草として生育させておくことを勧めたい。

フクジュソウ
イメージ 9  新春の花といえば福寿草。特に江戸時代は、フクジュソウの人気が高かった。フクジュソウの魅力は、節分の頃に咲く花としては大きく、黄金色の豪華な色彩であろう。そして、花の表情が非常に豊かなこと、花色が多彩なだけではなく、咲き方にも微妙な変化を見せてくれる。ちょっとした環境の変化に敏感で、日中でも日が翳ると1~2分で花を閉じ、再び日が当たると、いつの間にかまた開いている。このような現象は、気温の低い時期に咲くことから、花びらを開閉して花の中の温度を下げないようにしているのであろう(花の中は外気より5~10℃高く、一足早い春になっている)。光や温度変化に対応することで、フクジュソウはよりデリケートな花として愛されたのであろう。
 イメージ 17 フクジュソウキンポウゲ科多年草で、草丈は10cm~30cmとなる。栽培で気を付けなければならないのは、根の乾燥と過湿である。緩やかな傾斜地で、滞水しない場所を選びたい。植栽は、1月の末頃から蕾が出始めることから、10月頃から12月初旬までに行いたい。フクジュソウの根は長く、切断しないように深く植え込む必要がある。なお、園芸店で開花寸前の鉢植を購入したものは、根が切られている場合がある。花を見るだけなら良いが、開花後に露地へ植え替えても翌年には咲かないことが多い。まして鉢植のままで放置すれば、翌年は花どころか葉もでてこないことがある。
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イメージ 11  地植えで活着したら、ほとんど手入れをしなくても良いくらい管理の楽な植物である。施肥する人もいるが、私は不要であると考えている。花期は長く、一ヶ月半も続くような年もある。花が終わる前から茎と葉は伸び始め、5月には消えてしまう。この期間までは日の当たることが必要であるが、それ以降は日陰となるようにしたい。


ミスミソウ
イメージ 12  ミスミソウは、「雪割草」とも呼ばれる。ミスミソウと呼んでいる植物は、詳細に見ると生育地によりキンポウゲ科ミスミソウ属のスハマソウオオミスミソウケスハマソウなどに分けられる。ここではミスミソウと一括して記す。ヒロハノアマナなどは夏季に葉が消えてしまうが、ミスミソウは年間を通じて葉をつけている。寒中のミスミソウの傷んだ葉から蕾を出し、健気に花を咲かせる様子は早春らしさをより印象づける。ミスミソウが文献に記されたのは、享保十八年(1733)刊行の『地錦抄付録』である。生花に使用されることもあったが、もっぱら園芸植物として鉢植で愛好された。天保十二年(1841)に『長楽花譜』という、65品の彩色図譜が刊行されている。以後も、数多くの品種がつくられ、花色や咲き方、葉形など多様な変化が好まれている。
 イメージ 13早春の花としてミスミソウに人気があるのは、カタクリやセツブンソウより花色が豊富で、青紫から赤、桃色に白と多様なこと、また栽培が容易だからである。また花については、同じ紫でも咲く年によって微秒に違い、花の形状も千重咲、二段咲など様々な変化が楽しめるのも魅力。もっと多くの人に楽しんでもらいたい植物である。それも、鉢植だけでなく、庭や公園の一角に露地植えしてほしい。ミスミソウの露地植えを薦めるのは、群生した花を見てほしいからである。 
  イメージ 14早春の花としてミスミソウに人気があるのは、カタクリやセツブンソウより花色が豊富で、青紫から赤、桃色に白と多様なこと、また栽培が容易だからである。また花については、同じ紫でも咲く年によって微秒に違い、花の形状も千重咲、二段咲など様々な変化が楽しめるのも魅力。もっと多くの人に楽しんでもらいたい植物である。それも、鉢植だけでなく、庭や公園の一角に露地植えしてほしい。ミスミソウの露地植えを薦めるは、群生した花を見てほしいからである。 
  ミスミソウの植栽に適した場所は、開花時には直射日光がよく当たり、6月以降は日陰となるという条件が必要である。また、風通しがよく、滞水しない場所が望ましい。それに加えて、真夏の高温と乾燥は大敵である。加えて、冬季に霜や寒風が当たらない場所を選びたい。そのような条件を満たす場所としては、北東から南東に面した緩やかな斜面が望ましい。傾斜していると、鑑賞面からも栽培面からも最適である。 
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  ミスミソウは、一旦活着すれば山野草としては育てやすい部類の植物である。植栽、株分けは、開花後の4月末から梅雨入りくらいまでが適している。 なお、ミスミソウの苗を入手する時期を考えると、園芸店に並べられるのは冬である。購入後すぐに植えた場合、髭根の根鉢を壊さずに植えることができれば、大半は活着する。しかし、その時期に移植するのはリスクを伴うので、ポットのままで花を咲かせ、花が終わってから移植することを薦めたい。その頃には、根元から新しい葉も出始め、最も活力がみなぎっている時期である。この時期にまずすることは、花の咲き終わった茎を根元から切ること。また、枯れかけた古い葉も切り取る。根だけの状況になるため、少し不安になるかもしれないが根がしっかりしていれば問題はない。
イメージ 16  管理も比較的容易で、やることと言えば、夏季の乾燥防止のための散水、ただし根腐れしないように。肥料は、過肥にしないことで、原則として必要ない。その他として、鳥などによって発芽した植物を抜く必要がある程度だ。
  繁殖は株分けが一般的だが、こぼれ種からも結構増えるので、時間をかければ群落となる。ミスミソウは、繁殖力が旺盛。できれば、3年に一度株分けして増やすことを提案したい。密生すると、髭根が絡み合い、花付が悪くなることもある。株分け後に施肥をする人もいるが、できるだけ自然のままにしておきたい。