大正十一年後期 コレラ警戒の中、スポーツや行事は行われる

江戸・東京庶民の楽しみ 172

大正十一年後期 コレラ警戒の中、スポーツや行事は行われる
 コロナならぬコレラが発生、拡大しなかったためか、市内の遊びはあまり影響されなかった。庶民の生活は大きな変化が無く、例年と同様に楽しまれていたものと推測される。          
                               
・九月「お目見得挨拶が大失敗のデブ公・・・千代田館に出場」十五日付讀賣
 九月の前半は残暑。第一回日本庭球選手権競争が催され、帝大運動場がファンで埋まるなど、年々スポーツ競技会が盛んになってきた。しかし、野球を除けば行うのも見るのもほとんど学生だった。占めている。
 「美しい早稲田穴八幡の祭礼」(十五日付讀賣)と、氏子の町々が各々数千円かけて大層な神輿を新調し、渡御。渡御にあたって、以前は芸妓にさせていた手古舞姿を学校通いの娘さんにさせたとか。従来の慣習にとらわれずに、それでいて地域に密着した祭はしっかりと継承されている。映画は比較的観客が入っているようで、特に浅草の千代田館は連日満員御礼の広告を出し、来日中の人気俳優「デブ公」を迎えて興行。また、ロシアのパブロア舞踏団も来日公演、入場料が12円という高値であるにもかかわらず連日満員。永井荷風も二十六日にその舞踏を見ている。
・十月「帝展大当たり」十八日付讀賣
 十月に入ってコレラが発生。魚市場が閉鎖されるなど人が集まる場所に警戒の指示がでた。そのためか、「浅草界隈大寂れ観客四割も減る」(四日付東朝)と、外出を見合わせる人が多く、市民のレジャー気運を冷やした。市内の小学校では、遠足見合せ、運動会も中止、さらに休校も次々でた。もっとも、このようなコレラ警戒のなかでも、スポーツや行事などは行われており、最も盛況だったのは池上のお会式。氷水やアイスクリーム等の食品については大警戒のなか、日蓮上人大師万宝下にあって正午には7万人の参詣者を数えた。
 また、二十二日頃からはコレラ防疫隊の解散など、下火になってきたのを受けて、「帝展に一万二千人の大入」(二十四日付讀賣)、靖国神社例祭が賑わうなど秋の行楽活動は活気を取り戻し始めた。
 三十日、学制領布五十年祝賀会が帝国大学(文部省主催)、日比谷公園東京府市連合)で開催。「三千の大宮巨頭を迎へ 本郷通りの賑さ」「人で埋った日比谷の祝賀会」(讀賣)と、参加者は1万人を超えた。青年会館では新婦人協会の第二回政談演説会が開かれ、満員で非常に盛況であった。三十一日は天長節奉祝会、大園遊会は催されたが、大夜会は経費節約によって行われず参加者の期待は裏切られた。
・十一月「危険なオートバイ競争」六日付讀賣、「消費経済展大人気で日延」二十三日付讀賣
 一日、明治神宮御鎮座万三ケ年記念の中祭、二日から大祭。神宮外苑では東京市総合青年団などをはじめとする自彊術実演や弓術など、内苑では剣術や柔道などの奉納試合。五日には、洲崎埋立地で東京モーター・サイクル社主催の全国オートバイ大競走大会が開かれ、死傷者数名。市内ではさまざまな催しが行われているが、家族連れで楽しむ姿を探そうと思うとこれが意外にむずかしい。お茶の水東京博物館で開催されていた消費経済展が大人気のために日延べ、他に目ぼしい催しがなかったこととみえて日曜には1万4千人も訪れた。そのため急遽、夜間開場や期間延期を行った。秋の行楽、恒例の菊人形は根強い人気で、特に国技館の大菊花園はたびたび新聞に載った。「国技館の大菊花園でお名残の大福引デー」(二十四日付東朝)の料金は、大人60銭、小人30銭。これは、レジャーとは趣が異なるが、来日中のアインシュタイン博士が神田青年館で第二回目の公演を行った。開会と同時に2500席の開場が満員となり、300名以上が開場に入れないというほどの人気であった。
・十二月「今年の芝居見物 四百余万人」二十六日付讀賣
 十二月も半ばを過ぎると「鶴見花月園の氷滑り」、園内の池が凍り安全に滑れるようになった。信州まで遠出しなくても練習できるのは非常に好都合であり、しかも無料とか。新聞紙上では、スキーやアイススケートがたびたび記事になっているが、当時、自前のスケート靴を持っている人は稀であった。花月園の氷滑りとは、たぶん、子供たちが下駄で滑っていたのではなかろうか。
 「今年の芝居見物 四百余万人」(二十六日付讀賣)の見出し。演劇改善で問題となっている興行時間については大劇場次第ではあるが、六時間に決まるらしいという見解。なおその時点で、帝国劇場では十時間、新富座明治座などは八時間であった。大正十一年の一月から十月までの各劇場の入場人員は434万人で、最も多いのは曽我廼家五九郎が経営する観音劇場で42万人。各座の新春の入場料は、帝国劇場が特等7円20銭・一等7円・二等5円・三等1円80銭・四等70銭、最も高いのは新富座で特等8円30銭、ここは五等でも1円と安くはなかった。なお、観音劇場は1円・70銭・40銭・30銭と、映画料金と大差ない金額であった。
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大正十一年(1922年)後期の主なレジャー関連事象・・・12月ソビエト社会主義共和国連邦成立
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9月9読 千代田館「シーフ」他連日満員御礼
  11日 まのあたりに観たパブロアの舞踏
  14読 日本選手権競技大会開催
  15読 千代田館にデブ公お目見えで大入満員
  15読 美しい早稲田穴八幡の祭礼
  15朝 帝大運動場で日本庭球選手権競争、ファンで埋まる
  17朝 神田劇場旭大歌劇団の「バンドゥラ」他満員御礼
   20日 明治座「謎帯一寸徳兵節」連日満員
  26永 荷風、帝国劇場に露国人の舞踏を観る
10月2読 自治記念日日比谷に群れた喜びの人々数万
  2読 稲門三田を破る観衆場の内外に満ち、万余
  4朝 コレラ発生で浅草界隈大寂れ観客四割減る
  6朝 遠足見合せ運動会などこの際中止、市内小学校
  12読 日光方面に臨時観楓列車運転
  13朝 お会式、正午参詣人無慮七万、コレラ大警戒の続々休校 
  17読 ベッタラ市、あさづけ大根が安いなか賑わう
  23読 昨日の帝展に1万2千人の大入り
  25朝 靖国神社例祭、不良青少年90名現行犯で検挙
  31読 日比谷公園、文部省主催学制頒布五十年記念祝賀会などで賑わう
  31永 荷風、岩崎男爵別邸の庭園に憩う
11月3都 明治神宮大祭、著しい人出
  3朝 新富座近松二百年法要
  5日 芝浦球場で米国プロチーム対慶応、観衆2万
  6読 洲崎埋立地で危険なオートバイ競争
  12朝 淋しい日比谷平和大会
  14読 菊は見頃の国技館
  23読 消費経済展大人気で日延べ
  24朝 国技館の大菊花園でお名残の大福引デー入場料60銭
  25日 神田青年館のアインシュタイン講演、開会直ちに満員2千5百名、会場に入りきれぬ人気
  26永 細雨糠の如し・・銀座通人形町いずれも道路沼の如し
12月2朝 本郷座「大親鸞」一週間満員の盛況
  11朝 三田・稲門が納の野球、待ち焦がれたファンの熱狂
  21朝 キネマ倶楽部「阿修羅の如く」他空前の大 好評連日満員
  22読 鶴見花月園の氷滑り
  23読 不景気知らずの上野動物園
  25朝 夜の日比谷に大合唱クリスマスを祝う四百人の女子
  31永 此夜暖気春の如く街上銀座・・散歩の男女踵を接す