『花壇地錦抄』1芍薬/2椿・茶山花・躑躅

『花壇地錦抄』1芍薬/2椿・茶山花・躑躅
芍薬のるひ・・・116品
 シャクヤクについては、「芍薬のるひ」として「小車・・・」と品名が続く。『牧野新日本植物図鑑』には、シャクヤクキンポウゲ科)以外の品名については詳細な種の記載はない。
 芍薬の品名は、最初の56品には解説があり、それに続く56品は名称のみである。芍薬については、「江戸版」「京都版」ともほぼ同じであった。なお、芍薬についても「しで三がい」と同じ名前がある。説明は、「しで三がい 皿うす紅中小しべ有ぬれさぎのごとく」と「しで三がい 皿うすかう中にけん小しべ有白シ上にうす紅大平しべあり」と説明が異なり別の植物と推測する。
 次に、『花壇地錦抄』と『花壇綱目』の芍薬には同じと推測できる品名がいくつかある。そこで、類似した品名を捜すと8品(あめかした・しん紅・もの川・やうきひ・わしかしら・金山寺・大くれない・羅生門)がある。
 これらが同じ植物かを検討するため、重複した品名の説明を比べる。
・「あめかした」錦は「うす色もりあげ中ニけんしべ又上に大平しべあり」
 「あめか下」綱は「大輪也」
・「しん紅」錦は「皿上々くれない上に太平しべ小しべまぢりもり上ケ」
 「新くれない」綱は「大輪也」
・「もの川」錦は名前だけ記す
 「ものかわ」綱は「大輪也」
・「やうきひ」錦は名前だけ記す
 「楊貴妃」綱は「大輪也」
・「わしかしら」錦は「くれないもりあげ」
 「わしのかしら」綱は「大輪也」
・「金山寺」錦は名前だけ記す
 「金山寺」綱は「大輪也」
・「大くれない」錦は「皿上紅中ニ太平もり上ケさら一はい上々紅」
 「大くれない」綱は「大輪也」
・「羅生門」錦は「上くれないもりあけのよし」
 「羅生門」綱は「大輪也」
 以上のように、同じ植物と判断するには『花壇綱目』の説明は簡単すぎる。そのため、名称が似ているということで、同じ植物であろうとした。否定することができないという消極的な判断であり、同じと断定するには問題がある。

『花壇地錦抄』2木之類
○椿乃るひ・・・205品

 ツバキについては、「椿のるひ」として品名が続く。『牧野新日本植物図鑑』には、ツバキ(ツバキ科)以外の品名については詳細な種の記載はない。なお、『牧野新日本植物図鑑』に記載はないものの「侘助」の品名がある。「侘助」はワビスケで、園芸品種として知られており無視できない。「侘助」については、「わびすけ」http://www.ctb.ne.jp/~imeirou/soumoku/u/wabisuke.htmlを参照されたい。
 椿の品名は、205品に解説がある。「江戸版」「京都版」ともほぼ同じであった。次に『花壇地錦抄』と『花壇綱目』の椿には同じと推測できる品名がいくつかある。そこで、類似した品名を示すと5品(いだてん・ミやういきん・松かさ・人丸・村雨)がある。
 これらが同じ植物かを検討するため、重複した品名の内容を比べる。
・「いだてん」錦は「白花三重花丸ク中少けし九月時分より咲大りん」
 「いだてん」綱は「白き八重也 早咲」
・「ミやういきん」錦は「赤せんやう大りん白ほしかすり有」
 「妙義院」綱は「赤き千重白き飛入」
・「松かさ」錦は「赤八重大りん花形よし」
 「まつかさ」綱は「しほりの大輪なり」
・「人丸」錦は「白せんやう大りん」
 「人丸」綱は「白の八重大輪なり」
・「村雨」錦は「うす色八重赤かすり花のまわりにこまかなるさいをもり上げ中りん」
 「むら雨」綱は「白き八重赤飛入」
 以上から、これらは同じ植物と判断した。

○茶山花のるひ・・・50品
 サザンカについては、「茶山花のるひ」として品名が続く。最初の36品までは説明があるが、次の14品は名称のみ、「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。
 『牧野新日本植物図鑑』には、サザンカ(ツバキ科)以外の品名については詳細な種の記載はない。なお、『花壇綱目』には、サザンカの詳細な品名は記されていない。

躑躅のるひ・・・162品
 ツツジの品名は、「江戸版」が162品、「京都版」が167品に記されている。「京都版」が「江戸版」の品名を網羅しているわけではなく、1品(「ふきだん」)がなく、6品(「八重あさがほ」 「かわり朝がほ」「くわさん嶋」「こんあさがほ」「しらさぎ」「白うんせん」)が加わっている。なお、『花壇地錦抄前集』の品名は途中で切れており、半数程度しか記されていない。
 『花壇地錦抄』のツツジについては、「躑躅のるひ」として「きりしま・・・」と品名が続く。品名の中で『牧野新日本植物図鑑』に記されているものとして、「きりしま・大きり紫・りゆうきゆう・もちつつじ・ミつば・つりかね・いわつつじ・こいうんせん(あさひうんせん・うすうんせん等)・ぼたんつつじ・けらまつつじ・れんげつつじ」などの名前がある。これらの品名が現代名と一致するかは疑問があるものの、以下のように判断した。
 「きりしま」は、キリシマ(ツツジ科)。
 「大きり紫」は、オオムラサキツツジ科)。
 「りゆうきゆう」は、リュウキュウツツジツツジ科)。
 「もちつつじ」は、モチツツジツツジ科)。
 「ミつば」は、ミツバツツジツツジ科)。
 「つりかね」は、アズマツリガネツツジ別名ツリガネツツジツツジ科)と類似する名称があるものの確定できない。
 「いわつつじ」は、イワツツジと類似する名称があるものの確定できない。『牧野新日本植物図鑑』に記されているイワツツジは、スノキ属の植物である。『花壇地錦抄』に記された「いわつつじ」は、「あか中りん」とミツバツツジを指しているようだ。
 「こいうんせん」の他、「○○うんせん」と記された品名の植物は「ウンゼンツツジ」の仲間の植物と思われる。そのため一括して、ウンゼンツツジツツジ科)とする。なお、ウンゼンツツジとミヤマキリシマについては混乱があるようで、検討が必要である。
 「ぼたんつつじ」は、ヨドガツツジ別名ボタンツツジツツジ科)。
 「けらまつつじ」は、ケラマツツジツツジ科)。
 「れんげつつじ」は、レンゲツツジツツジ科)。
 以上が『牧野新日本植物図鑑』に記された植物である。その他に「くろふねつつじ」が『樹木大図説』に記されているように、「躑躅のるひ」の品名の現代名は増える可能性がある。
 次に、『花壇綱目』の躑躅147品名と同じと推測できるものは、42品ある。『花壇綱目』の躑躅は、品名だけなので詳細な検証ができないため表記を頼りに判断した。躑躅の品名は似たような名前が多く、他にも同一の品があるかもしれず、また疑問のある品もあり検討いただければと一覧を示す。
・『花壇地錦抄』   ・『花壇綱目』
「あけぼの」      「明ほの」
「あめが下」      「雨か下」
「あわゆき」      「あわ雪」
「うすうんせん」    「薄うんせん」
「おそらく」       「おそらく」
「かいだん」      「かいたん」
「かうばい」       「かうはい」                            
「かごしま」       「かこ嶋」
「かもむらさき」    「かも紫」
「きりん」        「きりん」
「くちべに」       「くちへに」
「雲井」         「くも井」
「こげん万葉」     「こけん万よ」
「こしきぶ」       「小式部」
「さつまうんせん」    「さつまうんせん」
「しこん」         「しこん」
「しもふりだん」    「霜降段」
「しゃぐま」       「しやくま」
「しやむろ」       「しやむろ」
「白四季」        「白四季」
「せいかいは」     「せいかひは」
「そしだん」       「そし段」
「たつた」        「たつ田」
「ときわ紫」       「常盤紫」
「ともへうんせん」   「ともへうんせん」                        
「はつゆき」      「はつ雪」
「めきり嶋」       「め切嶋」
「やうきひ」       「楊貴妃
「八重きり嶋」      「八重の切嶋」
「やしほ」        「やしほ」
「花車」         「花車」
「金しで」        「金して」
「金だい」        「金たい」
「銀たい」        「銀たい」
「三吉野」        「三吉野」
「紫きり嶋」       「紫しほり
「紫しぼり」       「紫切嶋」
「紫丁子」        「紫丁子」
「大きり嶋」       「大切嶋」
「藤きり嶋」       「藤切嶋」
「白きり嶋」       「白切嶋」
「八はし」        「八はし」