『花壇地錦抄』2さつき・梅・桃・海棠・櫻

『花壇地錦抄』2さつき・梅・桃・海棠・櫻
○さつきのるひ・・・162品

 サツキについては、「さつきのるひ」として品名が続く。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。『牧野新日本植物図鑑』には、サツキ(ツツジ科)以外の品名については詳細な種の記載はない。
○さつき八木の事
○つつじ五木の事
 以上の二つは、前記の品名から再度記されている。
 次に、『花壇綱目』には「さつき」の品名が記されていない。ただ、「躑躅」の品名の中に、『花壇地錦抄』の「さつきのるひ」に似た名前がいくつかある。たとえば、「あらし山・おそらく・こくれない・せいはく・はころも・ふたおもて・まききぬ・らかん」などがある。これら8品名が、同じ植物であるとすれば、水野元勝はツツジとサツキの区分をしなかったことになる。現代では、サツキはツツジ科の一品種であり、サツキだけを細区分することは少ない。と言うことは、勝元はツツジ科の植物を現代風に見ていたとも言えそうだ。

○梅のるひ・・・48品
 「梅」48品は、21品が説明あり、27品が名称のみ。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。ウメについては、「かうなん・源氏・白梅・紅梅・きんしうさん・○枋梅(すわうばい)・ゑびら梅・しだれ梅・ぶんご・むめばち・寒梅・未開紅・とこなり・寒梅・大梅・座論・八重白・鶯宿梅・飛梅・難波・櫻桃・せいしやう・なんきん梅・ゑちぜん紅梅・うす紅梅・きんし梅・かき紅梅・つくし紅梅・ほしくだり・かゞ紅梅・八重紅梅・からむめ・小梅・なんせん寺紅梅・浅黄・わか草・のきば・かうる紅梅・さぬき・さきわけ・さらさ・杢右衛門・りんし梅・天龍寺・とらの尾・緋梅・やうきひ・黄梅」の品名がある。以上48品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「ぶんご・櫻桃・からむめ・小梅」の4品である。
 「ぶんご」は、ブンゴウメ(バラ科)。
 「櫻桃」は、ユスラウメ(バラ科)。
 「からむめ」は、ロウバイロウバイ科)。
 「小梅」は、バラ科のニワウメ(こうめ)とバラ科のコウメ(シナノウメ)とツツジ科のスノキ(こうめ)がある。これら中で、花材や茶花として登場する植物名から、ニワウメ(こうめ)を選択した。
 「黄梅」は、説明に「格別」とあり、オウバイ(モクセイ科)ではない。
 「梅のるひ」にまとめられた植物は、当時の人達の観察や印象から判断されたものであろう。この分類は、現代の植物分類『牧野新日本植物図鑑』では科の異なる植物がいくつも含まれている。なお、ここに判断した現代名について、異論はあるだろうが、花伝書や茶会記に記された頻度から推定している。特に「小梅」は、複数の名称があり迷うところである。また、白梅や紅梅など他の名も通称の呼び名として使用されている品名がある。
 次に、『花壇綱目』の「梅」53品と比べると、品名数は、『花壇地錦抄』の方が5品少ない。同じと推測できるものは、17品「浅黄・大梅・黄梅・櫻桃・しだれ梅・蘇枋梅・天竜寺・飛梅・とらの尾・難波・緋梅・ぶんご・未開紅・八重白梅・やうきひ」がある。なお、類似した品名があり、詳細な検証ができないためさらに同じ植物があるかもしれない。

○桃のるひ・・・21品
 「桃のるひ」は、「江戸版」「京都版」とも21品同数でほぼ説明も同じである。「桃」は、「西王母・あめんたう・一歳桃・帚桃・大坂桃・火桃・白桃・しだれ桃・さきわけ・長せいもも・源平桃・紅桃・ずばい・紅しだれ・よろいたうし・にがもも・李・さもも・楊梅・からもも・夏もも」の品名がある。以上21品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「李・からもも・楊梅」の3品である。
 「李」は、アンズ(バラ科)。
 「からもも」は、アンズ(バラ科)。
 「楊梅」は、ヤマモモ(ヤマモモ科)。
 なお、判断に迷う品名に「あめんたう・よろいたうし」がある。
 「あめんたう」は、「李」スモモや「唐桃」アンズという解釈がある。しかし、当時にはもう現存していないことが記載してあり、それ以上触れないことにした。
 「よろいたうし」は、類似した名にヨロイドオシ(メギ科)があるが、「桃のるひ」とは異なると判断した。
 なお、「李」や「楊梅」は、現代ではモモの仲間として見ていない。『花壇綱目』では8品記されており、これらには含まれていない。『花壇綱目』と『花壇地錦抄』に共通するものとして、「西王母・さもも」がある。

○海棠のるひ
 「海棠」は、「江戸版」「京都版」ともに3品でほぼ同じである。カイドウについては、「海棠のるひ」として「海棠・壮子美・實海棠」の品名がある。以上3品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「海棠・實海棠」の2品である。
 「海棠」は、ハナカイドウ(バラ科)。
 「實海棠」は、ミカイドウ(バラ科)。
 「壮子美」は、『牧野新日本植物図鑑』では確認できなかったが、『樹木大図説』には、ズミ(バラ科)の別名としてトシミカイドウ、変種オオズミ(バラ科)の別名としてトシミカイドウがある。これらのトシミカイドウが「壮子美」を指すかは、判断できない。

○櫻のるひ・・・46品
 「櫻のるひ」は46品あり、30品に説明があり、16品が名称のみ。「江戸版」「京都版」とも同数でほぼ同じである。品名は、「吉野・なでん・奥刕なでん・楊貴妃・きりがやつ・ちやうちん・大手鞠・小手鞠・大ちやうちん・わしの尾・らいてう・とらの尾・浅黄・しだれ・ひかん・大しだれ・右衛門櫻・色よししだれ・ふげんざう・丸山・たいさんぼく・こんわう櫻・ちもと・ちしゆ・にはざくら・なら櫻・しほがま・ほたん櫻・ひよとり・うば櫻・ちごさくら・いぬさくら・ひたちころ・はちす・きりん・うすいろ・ひざくら・おそさくら・いとさくら・いとくり・くまかへ・ありあけ・しやうしやう・さこん・まさむね・ほうりん寺」である。以上46品の中で、『牧野新日本植物図鑑』で確認できたのは、「吉野・なでん・ふげんざう・にはざくら・ほたん櫻・いぬさくら・いとさくら・ひかん」の8品である。
 「吉野」は、ヤマザクラバラ科)と推測する。
 「なでん」は、ナデン(バラ科)。
 「ふげんざう」は、フゲンゾウ(バラ科)。
 「にはざくら」は、ニワザクラ(バラ科)。
 「ほたん櫻」は、サトザクラバラ科)。
 「いぬさくら」は、イヌザクラ(バラ科)。
 「いとさくら」は、シダレザクラ別名イトザクラ(バラ科)。
 「ひかん」は、ヒガンザクラ(バラ科)と思われるが、秋の彼岸にも咲くと記されていることが気になる。
 「ひざくら」は、『樹木大図説』にヒカンザクラバラ科)の別名として記されている。
 「しほがま」については、サトザクラ系のサクラとして国の天然記念物に指定された、シオガマザクラ(バラ科)がある。これが同じ植物を指すものかは未確認。
 その他のサクラについても、変種や園芸品種などを指すものがあり、「ほうりん寺」は、京都の法輪寺に八重の「法輪寺桜」があるとされている。
 さらに、「とらの尾」については、花伝書『立花訓蒙図彙』にウワミズザクラ(バラ科)を「虎の尾」と記している。これが同じ植物を指すものかは不明。
 次に、『花壇綱目』の「櫻」40品と比べると、その半数以上の22品が『花壇地錦抄』に含まれている。それらは、「浅黄・ありあけ・いとさくら・うすいろ・うば櫻・きりがやつ・きりん・くまかへ・こんわう櫻・しほがま・ちもと・とらの尾・なでん・なら櫻・はちす・ひかん・ひざくら・ふげんざう・まさむね・楊貴妃・吉野・わしの尾」であり、同じ植物と推測する。なお、サクラの品名は類似しており、詳細に調べれば同じ植物がさらにあるかもしれない。