華道書(花伝書)の花材と茶花その6

茶花    23 茶花の種類その20
  華道書(花伝書)の花材と茶花その6
『立花便覧』
イメージ 1 『立花便覧』は、『華道古書集成』第二巻の『立華時勢粧』に次ぐ花伝書で、元禄八年(1695)に刊行されている。著者は、「立花便覧序」を書いた松領山であろうが、どのような人物であるかはわからない。
記されている花材を数えると145種ほどあり、現代名で示せたのはその内124種である。花材を現代名に該当させるにあたって、次のような疑問点のあったことを記す。「樫木」は、植物名をカシとしたが、堅い木、カシ類を総称している可能性がある。また、「常盤木」という表記があるが、これは常緑の樹木を指すものとして、植物名とはしなかった。
  「露盆」は、「イチゴ」と振り仮名があり、草本のイチゴを指すものと思われるが、『牧野新日本植物図鑑』には植物名としてはない。また、「花いちこ」という表示もあるが、該当する植物名はわからない。
「山卯木」は、『樹木大図説』の解説からハコネウツギタニウツギだと思われる。他にも、ノリウツギクサギ、サワフタギ、ムラサキシキブなどの名もあり、確定できなかった。
  『立花便覧』の花材は、十七世紀後半に使用された茶花の71%を含んでいる。十七世紀後半に登場した茶花で、『立花便覧』に記されていない記されていない植物は、サザンカフクジュソウ、ハンノキ、テッセン、ナツツバキ、ハシバミ、ヒイラギ、ミツマタ、マメ、ロウバイモクレン、モミ、エノコログサ、オカトラノウ、カザグルマキスゲ、コブシ、ヒルガオである。また、茶花の使用頻度の20位までを見ても、7位のサザンカ、16位のフクジュソウがないだけで、『立花便覧』も十七世紀後半に使用された茶花の使用動向を反映している。
 
『古今茶道全書二』
  『古今茶道全書二』は、『古今茶道全書』五巻ノ内の二で「花生様の事」の記述に花材が記されている。元禄六年(1693)永昌坊書肆習成軒刊行とされているが、著者は記されていない。『古今茶道全書』は、茶書であるがその詳細はわからない。
  同書には、90種ほどの花材名が記されており、74種を現代名に該当させた。これまでの花書に比べて花材数が少なく、記されている植物にも偏りを感じる。茶書であるから、十七世紀後半に使用された茶花を数多く含んでいると思われたが、56%しか含まれていない。また、使用頻度20位までの茶花のコウホネカキツバタアジサイ、イチハツが含まれていない。これらの植物は、特別珍しい植物ではなく、著者が知らないはずはない。『古今茶道全書二』は、当時の茶花の使用動向にあまり関心がなかったように感じる。
  ただ、キクに関しては著者に拘りがあったようで7種も記している。その内、「こんきく」をノコンギク、「我妻菊」をアズマギクと現代名にできたが、残りの「秋菊、あさ菊、寒菊、しん菊、夏菊」は、現代名を確定できなかった。また、この書の特徴として、「あはもり、梅ばち、風車、熊谷、鷺草」など、山野草が多いこともあげられる。以上から、『古今茶道全書二』は、花書の花材として少し変わった植物を記しており、茶道の茶花としても当時の茶会記の植物の使用状況を反映しているとは言い難い。
 
  『當流茶之湯流傳集巻之三』は、『當流茶之湯流傳集』六巻ノ内の三で、茶席での花について記され、17の花之図がある。著者は、廣長軒(遠藤)元閑で元禄七年(1694)に刊行された。『當流茶之湯流傳集』は茶書であるが、著者はこの項について華道を意識して書いているようだ。
同書には、40種ほどの花材名が記されており、40種を現代名に該当させた。『古今茶道全書二』に比べても花材数が少なく、さらに植物の偏りを感じる。十七世紀後半に使用された茶花が71種ある内で、含まれるのは21種で、19種が異なる。茶花の種類は、当時の使用実態を反映しているとは言い難い。また、『古今茶道全書二』に記された植物と対照させると、同じ植物は70%しかない。『當流茶之湯流傳集巻之三』は『古今茶道全書二』の茶花とも異なる植物が記されていると言えそうだ。遠藤元閑は、『茶湯六宗匠伝記』『茶湯評林』『三伝集』『流伝集』『霜月集』などを著す茶人である。幅広い見識を持つ人物であるにもかかわらず、『當流茶之湯流傳集巻之三』にコブシやシャクヤクセキチク、フキ、フクジュソウムクゲレンギョウを初めとする、当時の茶花を数多く記さなかったのは不思議でならない。