和のガーデニング 9

和のガーデニング  9
  和のガーデニングは、日本固有の貴重種を紹介したり、そのような種を保護から増殖することまでを目指している。貴重種を鉢植にして愛玩することは昔から行なわれているが、それより地植えにして生息域を広げることを目指したい。種の減少、さらには絶滅が危惧されている植物の多くは、いわゆる乱開発によって生息環境を奪われたことが大きな要因である。すでに市街化された住宅地であっても、かつて周辺に生息した植物なら、再現させることはそんなに難しいことではない。そのような植物として、千葉県レッドデータブック掲載種一覧のカテゴリー:A 最重要保護生物に指定されているクマガイソウを取り上げたい。
イメージ 1 千葉県内では、30年ほど前(昭和50年代)にはごく身近な植物であったクマガイソウ、宅地開発によってかなり消失してしまった。開発が始まる前は、地元の人も、クマガイソウを「豚の饅頭」などと呼んで、別に珍しい植物という認識はなかったようだ。それが現在では貴重な植物して、近在の竹林地では容易に見ることのできない植物になってしまった。このような植物は、環境条件を再整備して、植えれば活着するだけでなく、案外簡単に増えていく。そのような実例として、我家にクマガイソウの群落を創出した経験を紹介したい。
  当初は、ススキ、アズマネザサの薮、ヌルデが何本か生えているような原野であった。そこに家を建て、樹木を何本か植え庭らしき様相を整えた。そして5年ほどして、近くの宅造地に掘り返されたクマガイソウを5~6株持帰り、モクセイの木の下に植えた。クマガイソウの移植は難しいと聞いていたので、あまり期待していなかった。翌年春、なんとクマガイソウが芽を出し、その数も増えており、花も咲いた。3年後には株分けして植栽域を広げると、その後も増えて群落を形成し、15年ほどで200株以上となった。植栽地の広さは20㎡程ではあるが、一面に咲く開花時期は壮観な眺めが楽しめるまでになった。
イメージ 2 貴重とされる、いわゆる高山植物を標高の低い市街地に植えることは、非常に難しい。それは、まず高山ならではの気温と湿度を調整しなければならず、平地では容易にできないからである。どうしても育てたいなら、木陰をつくり、散水をまめに行なうなど、高山に近い環境を整えなければならない。そうすることで、花を見る程度は可能であろうが、勢い良く増えていくようなことは期待できない。それに対し、以前に生育していた地域であれば、市街化されても気温や降水量などの気象条件は大きく変わらない。過去に生育していた植物であれば、クマガイソウのような貴重種であっても、再生は可能である。生育に適した環境を取り戻せば、庭園や公園でも、案外簡単に様々な野草を鑑賞することができる。
(以上は、環境緑化新聞http://www.interaction.co.jp/publication/news/  4月15日号掲載)
 
○クマガイソウの群落ができるまで
イメージ 3  クマガイソウ植栽の具体的な経緯を示す。場所は佐倉市の南東部、宅地化する以前は、丘と丘の間の水田であった。宅地として造成され、取得した当時は、セイタカアワダチソウが一部に生育し、ススキ、アズマネザサの薮、ヌルデが何本か生えているような状況であった。
  
   庭にするためにまず行なったのが、山砂の客土。イメージ 4
 
 
 
 
 
 
 
イメージ 5次いで、イヌシデ、ケヤキ、コブシ、シラカシ、モクセイなどの高木を植栽、また、低木や草花を植え、芝を張るなど庭らしい様相を整えた。
 
 
 
 
  イメージ 6 植えた樹木が活着し、あたかも以前から生育していたように落ちついた5年後、前述のようにクマガイソウを入手した。どこに植えようかと、植栽場所を探し、カンアオイキクザキイチゲを植えたモクセイの下を選んだ。移植した時期は、六月初め、梅雨の直前であった。植栽時には、土壌改良や施肥もせず、その後もほとんど放置したままだった。夏期は、モクセイの下であったことから、直射日光があたらなかったので、葉は焼けず暑さを乗りきった。また冬期も、樹冠に守られ、霜にあたることはなく、保温された。
イメージ 7 クマガイソウは、少しずつ増えているが同じ場所に固まり、混みいっているので、生息域を増やすため株を分け移植した。その5年後頃、また株分け移植を行なった。そして、約15年後(平成十六年頃か)、さらに生育域を広げるため、庭の他の場所にも移植した。
 
 
  イメージ 8その場所は、ケヤキ、ヤマモモ、タムシバサンシュユ、ツバキなどの生育している地である。そこには、エビネニリンソウ、アキチョウジなどが生育している。現在(平成二十五年)では、クマガイソウは約50株になり増えている。また、モミジとツバキの下にも移植し、そこでも30株ほどに増えている。
 以上のような経験から言えることは、生息環境を整えれば、クマガイソウは容易に植栽できるということである。我が家では、植栽地よりはみ出て芽を出すので雑草扱いし、それらを抜き取りポットに植えている。移植時期は、夏と冬を除けばいつでも可能だが、梅雨前が最もよいような気がする。なお、ポット植は、地植えより難しいのではないかと思われる。それは、クマガイソウの根は、硬い地下茎で柔軟性に欠け、5㎜位の主根に1㎜ほどの細根が出ているだけである。移植時にはいつも、こんな根でよく養分を吸収できるものだと、活着に不安を感じる。そのため、ポットの大きさは、25(8号)~33㎝(10号)位は必要である。なお、深さは15㎝以上あれば問題はないようで、30㎝以上の深い鉢にする必要はない。
イメージ 9  なお、ポット植えで失敗した例も示しておく。庭のクマガイソウの近くにレンゲショウマが生育していることから、クマガイソウのポット(素焼鉢)の中にレンゲショウマを植えた。クマガイソウからは20㎝位離したが、翌年、レンゲショウマは芽を出したが、クマガイソウは枯れてしまった。クマガイソウは、他の植物の根が絡み合うと弱いのではないだろうか。以後同じことを試していないが、キクザキイチゲやヒメウズは、クマガイソウと同じポット内に共存している。
・栽培のポイント
  クマガイソウの植栽で最も重要なことは、栽培場所(適正な環境)の選定である。生育条件の似た植物が生育している場所、私の場合はキクザキイチゲであったが、これはどこにでもあるわけではない。そこで、エビネランの生育できる場所を提案したい。エビネランは、容易に入手でき、取り扱いも容易で、群落がつくり易い。もちろん、エビネランが生育すれば、必ずクマガイソウが植えられるとは言えない。エビネランは、クマガイソウより暗い場所でも、直射日光が少しくらい当たっても枯れることはない。乾燥や風、日照などの変化に対し、クマガイソウより適応力がある。クマガイソウは、エビネランより急激な湿度変化のないことが必要であると思われる。それは、風通しは必要であるが、強風や湿度の変化を緩和させる、風よけを周囲形成させることが重要であろう。
 次に、クマガイソウは、直射日光に弱いが、乾燥さえしなければやや薄暗い場所にする必要はないと思う。空気中の湿度とともに、土壌の湿度が保たれれば、明るい林内の方がよく生育するのではないかと思う。なお、気温は、夏期の高温より冬期の凍結の方がダメージが大きく、我が庭では落葉樹ではなく、常緑樹の下に植えたことが良かったものと考えている。
  最後に土壌、再三述べているが、極端な粘土質や砂礫質でなければかなりの対応性がある。我が庭では、山砂と畑土に腐葉土が混じり、特に改良はしていない。肥料は、一度化成肥料を撒いたが、特別効果がなかったので、それ以来行なっていない。また、クマガイソウには病虫害の農薬もまったく使用していない。手入れとして行なうのは、野鳥が落とす種からの実生を引き抜くことと、周辺から進入するラショウモンカズラ、カントウヨメナ、サワフジバカマなどを引き抜くことである。施肥、病虫害の薬剤散、剪定、マルチングなどの必要な園芸植物に比べて、管理は容易と言えよう。