続華道古書集成の植物 第五巻

続華道古書集成の植物    第五巻

『花ふ』
 『花ふ』は、解題によれば「筆写本・・・本文は宣阿弥が先師の伝を書写して廊坊犬部卿に授げた直筆の秘書である・・・内容は、花の譜(・・・秘伝・・・)とその花の絵を記した・・・巻物・・・天文時代の自筆花伝書」とある。
 『花ふ』の花材は、30余記されており、そのほとんどはこれまでの花道書に記されているもので、改めて示す必要はないと判断した。なお、図に「五月五日あやめ」と、アヤメの記載があった。

『花瓶之畫圖』
 『花瓶之畫圖』は、題名通り花瓶について記されており、花材の記載はない。

『真揃之口傳』
 『真揃之口傳』は、解題によれば「写本・・・奥書に書写年記無く・・・江戸初期と思われる・・・華帥池坊専好の秘伝書で・・・砂の物の秘伝に関して寛永時代の池坊専好(法橋)以後の伝書に見られぬ花材が見られ」とある。
 『真揃之口傳』には60程の花材が示され、そのうち58を現代名にした。これらは、これまでの花道書に記された花材で、新しく登場した花材はない。

池坊家傳百ヶ條聞書』
 『池坊家傳百ヶ條聞書』は、解題によれば「池坊家伝来の秘伝を百ケ条に書き留めた聞書集・・・原本ではなく転写本・・・書写された年代は江戸中期で、文中の花形絵には彩色がある」とある。
 『池坊家傳百ヶ條聞書』には55程の花材が示され、そのうち51を現代名にした。これらは、これまでの花道書に記された花材で、新しく登場した花材はない。

『深秘口傳書』
 『深秘口傳書』は、解題によれば「立花の口伝を中心に、砂の物となげ入の深秘を伝えた書」とある。作成は、記載された享保十五年(1730年)と思われる。
  『深秘口傳書』には115程の花材が示され、そのうち114を現代名にした。これらは、これまでの花道書に記された花材が大半を占め、新しく登場した花材は次の6種である。
 「岩つつし」は、ツツジ科のイワツツジとしたが、確証はない。『深秘口傳書』には「さつき」が記されている。そのため、「岩つつし」はサツキとは異なるツツジであると考えた。しかし、「岩つつし」がイワツツジであるという条件を満たしたわけではない。
  「紫つつし」は、ツツジ科のオオムラサキとしたが、確証はない。『深秘口傳書』には「切嶋  龍久  紫つつし  山つつし  餅つつし  赤つつし」等が記されている。これら一連のツツジから推測して、「紫つつし」はオオムラサキとした。
  「赤つつし」は、上記と同様、ツツジ科のクルメツツジとしたが、確証はない。
  「高野槇」は、スキ科のコウヤマキとした。
  「兒笹」は、イネ科のチゴザサとした。
  「はこ柳」は、ヤナギ科のヤマナラシとした。
 なお、現代名にできなかったのは、「大葵」である。花の大きなアオイということから、フヨウではないかと思われるが、確信がないので不明とした。

『遠萩原流浮草記聴書』
  『遠萩原流浮草記聴書』は、解題によれば「写本・・・原賀可流の相伝にたる伝書を、享保二十一年に萩原嘉藤次という人物が書き留めていたものを、それ以後のある時期・・・書写されたもの・・・成立は・・・奥書によれば・・・延宝九年・・・その後・・・都合五度目の書写・・・内容は全て遠州流の茶花挿図」とある。
 『遠萩原流浮草記聴書』には35程の花材が示され、その大半を現代名にした。これらは、これまでの花道書に記された花材なので、詳細な記述は省く。

『生花實躰  はしめくさ』
 『生花實躰  はしめくさ』は、解題によれば「初版は享和三年十月・・・茶道系の花匠・・・春宵斎の口伝を・・・編述した伝書」とある。
  『生花實躰  はしめくさ』には165程の花材が示され、そのうち153を現代名にした。新しく登場した花材は6種である。記された花材数が多いだけに、これまで記された植物のなかでも珍しい種がいくつも記されている。また、花材名もこれまでの記載名になかった呼び名を記したものがあり、現代名の確定に迷うものもあるので、以下に示す。
  「カラモモ」はアンズであるが、他に「寿櫻桃」との記載がある。
  「玉簪花」はキボウシとしたが、「タマカンザシ」の仮名もある。「玉簪花」はタマノカンザシである可能性があるが、他にギボウシの記述がない。これだけ多くの花材が記される中、ギボウシが抜けるのは不自然と思い、キボウシとした。
  「麒麟草」はキリンソウであるが、「費菜」との記載がある。
  「萍蓬草」はコウホネであるが、他に「蓬蓬艸」との記載がある。
 「鳫翅(柏)」は、「サハラ」と仮名があることからサワラとした。
  「紫苑」はシオンであるが、他に「鬼の醜草(シコクサ)」との呼び名がある。
  「繡線菊」は、「シモツケ」と仮名があることからシモツケとした。
 「蒴藋」は、「ニワトコ」と仮名があることからニワトコとした。
 「午鞘子」は、「ムラサキシキブ」と仮名があることからムラサキシキブとした。
 なお、花材の植物名について、推測はできても確定しなかった例として、「柞」「夏黄梅」をある。
  「柞」は、これまでコナラとしてきた。しかし、『生花實躰  はしめくさ』の記述の中では、ナラなどの木を総称していると思われるので、現代名を確定しない。
 「夏黄梅」は、キソケイを指すとの見解がある。だが、キソケイの渡来は、白井光太郎によると明治維新頃としており、享和三年(1803年)当時には存在しなかったことになる。したがって、「夏黄梅」がどのような植物を指しているか不明である。
  新たに登場した花材のなかで現代名にしたものを示す。
  「糸杉」は、イトヒバ、サイプレス、センニンスギ、ヒムロなどの名が想定される。ヒムロは「姫むろ」として花材に記されている。サイプレスは江戸時代には渡来していない。そのため、イトヒバかセンニンスギである可能性が高い。『樹木図説』(有明書房)によれば、『草木奇品家雅見』にある「白斑立糸杉」はセンニンスギであると指摘している。よって、「糸杉」はスギ科のセンニンスギとしたが、確証はない。
  「塩風」は、キク科のクマノギクとした。
  「竹島百合」は、ユリ科のタケシマユリとした。
  「八代草」は、キキョウ科のヤツシロソウとした。
  「額艸」は、ユキノシタ科のガクアジサイとした。
  「御帯花」は、バラ科のコゴメウツギとした。

『石州流生花傳書』
  『石州流生花傳書』は、解題によれば「写本・・・成立は、安永五年・・・この時期とみることができる・・・石州流のみでなく、茶花の伝書」とある。茶花について記しているが、花材の名称は20にも満たない。また、記されている花材に新しい植物もなく、詳細な記述は省く。

『生華傳歌』
  『生華傳歌』は、解題によれば「写本・・・筆写年代は、文化八年・・・と考えられる」とある。生花の歌に記された花材は、10程で新しい植物もなく、詳細な記述は省く。

『千撰諫草中奥』
  『千撰諫草中奥』は、解題によれば「五冊より成る「千家普體流生華」の流の秘伝書・・・内容は、明和四年に・・・刊行された『挿花千筋の麓』と・・・全く同じになっている部分がある・・・冊子本」とある。奥書に文政五年(1822年)とある。
  『千撰諫草中奥』に記されている花材は、40程である。新しく登場した花材はないが、気になる記述がある。それは、「葱華」と「玉簪花」である。それぞれに「キホウシ」「タマノカンサシ」と仮名が振られている。『千撰諫草中奥』では、ギボウシとタマノカンザシを分けている。これまでの花伝書の花材の植物名としては、双方ともギボウシしていた。しかし、ここで「玉簪花」がタマノカンザシであった可能性が出てきた。

『千家流傳集・千家生花秘傳書』
  『千家流傳集・千家生花秘傳書』は、解題によれば「写本・・・文政十三年・・・『千家生花秘傳書』の方は、歌と発句・・・『千家流傳集』は・・・千家流傳書の要約」とある。『千家流傳集・千家生花秘傳書』に記されている花材は40程で、新しく登場した花材はない。

『允中挿花鑑』
 『允中挿花鑑』は、解題によれば「袋綴・・・天保十二年・・・内容は、本文と十二月の・・・挿花図・・・二百二作」とある。
 『允中挿花鑑』の図に記されている花材は110程度で、そのうち101を現代名にした。図は、縮小されているため見にくく、文字も判読しにくい。さらに、花材名は当て字や移しかえることのできない文字がいくつかある。ただ、仮名が振られていることから、絵を見ながら推測できる花材もいくつかある。新しく登場した花材は以下のように6種あり、記された花材数に対し出現する割合は多い。
  「山査花」は、バラ科のサンザシとした。
  「紅繡毬」は、アカネ科のサンダンカとした。
  「十月櫻」は、バラ科ジュウガツザクラとした。
  「石龍丙」は、キンポウゲ科のタガラシとした。
 「木香花」は、バラ科モッコウバラとした。
  「ヤナギサウ」は、アカバナ科のヤナギランとした。
  現代名にするにあたって、絵と仮名を頼りにしていることから、いくつか疑念の残る花材がある。たとえば、「堅生玉簪」は、「ウルイ」と仮名がある。「玉簪」とあるから、ギボウシの仲間であると考えられ、オオバギボウシとした。
  次に「鬼督郵之一種」は、絵を見るとクマガイソウのようである。特徴的な花であることから、絵はクマガイソウに間違いないが、「鬼督郵」とするわけにはいかないので、保留にした。
  「深紅重臺石榴」は、「ミザクロノハナ」と仮名がある。ハナザクロではないということでザクロとした。なお、花材名は「重臺石榴」とする。
 「山茶花」は、これまでの花伝書ではサザンカであるとしてきたが、「ツバキ」と仮名がある。「茶梅花」に「サザンクワ」と仮名がある。そのため、「山茶花」はツバキ、「茶梅花」はサザンカとした。
 以上の他にも『允中挿花鑑』にしかない花材名がいくつかあり、「落霜紅」はウメモドキ、「天女花」はオオヤマレンゲ、「珍味菜」はオカトラノオ、「堅決明」はセンダイハギ、「商草花」はバイモ、「空心棑草」はハルオミナエシ、「大呉風艸」はハンカイソウ、「浮爛羅勒」はホオノキ、「鐵掃帚」はメドハギ、これらは絵と仮名があるので現代名にできた。
 なお、キクの花材名は数多く記され、「四季開菊」「赤小菊」「黄大菊」「白源氏菊」「日出菊」「仙人菊」「黄芲菊」「湯殿山菊」「白鷺菊」などある。これらには当時の呼び名(品種名)と思われ、現代名にするには図が縮小されすぎ判読できないため、保留した。

『万歳樂』
  『万歳樂』は、解題によれば「容真流の花書である・・・天保十三年冬に刊行」とある。花材は、45程の図に記されているが、縮小され判読しにくく、その数も30に満たないので検討しない。

『正傳略意抄』
  『正傳略意抄』は、解題によれば「遠州流の花書・・・小冊子・・・弘化四年の刊行」とある。花材は、図に示され20に満たない。大半はこれまでの花伝書に記された花材であるが、新しい花材として、「くろもじ」の名がある。クスノキ科のクロモジである。

『古流生花門中百五十百瓶図』
 『古流生花門中百五十百瓶図』は、解題によれば「刊本・・・弘化五年(一八四八)・・・古流の生花作品集」とある。花材は、150の図に記されている。
  花材は50程記されていることがわかるが、図が縮小され、絵も文字も判読しにくく、42種しか現代名にできなかった。これらは、これまでの花伝書に記された花材で、新しい植物はないと思われる。

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  以上で『続華道古書集成第五巻』の花伝書の花材は終わる。『続華道古書集成第五巻』に登場した花材の270を現代名にした。不明なものがいくつもあることから、実際は300程の花材が記されていたものと考えられる。『続華道古書集成第五巻』の花材の大半(94%)は、以前の四巻までに登場している。その割合は、『続華道古書集成第四巻』が93%であったことから、ほぼ同じである。なお、現代名にした花材の植物名のいくつかには不安があり、特に新たな花材は再度検討をする必要がある。