続華道古書集成の植物 第四巻その2

続華道古書集成の植物    第四巻その2

『千流花之秘書』
  『千流花之秘書』は、解題によれば「写本・・・天明五年・・・書写者によってさらに書き加えられたものと考えられる」とある。『千流花之秘書』には60程の花材が記され、そのうち49を現代名にした。これらの大半は、これまでの花道書に記された花材である。
  新しく登場した花材は、「ひこたい」「ひよん」の2種である。「ひこたい」は、キク科の多年草ヒゴタイとしたが不安がある。「ひよん」は、マンサク科の常緑高木イスノキとしたが不安がある。『資料別・草木名初見リスト』(磯野直秀)によれば、ヒゴタイの初見は『日葡辞書』(1603~4)とある。だが、『千流花之秘書』には、「利休居士生花之事」に「宗易在世に生けたる花」の一つとして「ひこたい」がある。初見が利休没後12年程であることから、花材として知られていたと考えることもできるが、疑問は残る。次のイスノキは「ヒョンノキ」と呼ばれることから、「ひよん」はイスノキの可能性が高いと推測したもので、確証はない。
 花材以外の記述には、多少の疑問があっても控えることにして、ここでは植物名の記述について、気になる部分を示す。特に気になるのは、「杜若  菖蒲  鴟尾」の記述の7行前に「杜若花菖蒲鴟の尾の類」という記述があること。同じ花材を再び記したものと思われるが、「花菖蒲」は「菖蒲」となっている。
  さらに、「利休居士生花之事」に「金盞  銀臺」という記述がある。花材名を列挙しているのであるから、「金盞」と「銀臺」は別々の花材として分けて記しているはずである。しかし、写す前の原本は、スイセンの一種である「金盞銀臺」と記していたはずである。書写者に植物名の知識があれば、間違いに気付いただろう。もしかすると、『続華道古書集成』に掲載する時点でミスをしたとも考えられるが、そうではないだろう。他にも、誤字や書写ミスがいくつもある。ということからも、前記の花材、「ひこたい」「ひよん」は、イスノキとヒゴタイに間違いないと言えないのである。

『千宗流生花口傳』
  『千宗流生花口傳』は、解題によれば「写本・・・外題には口伝とあるが、むしろ生形の書である・・・千家流伝書の抜抄であろう・・・(天明~寛政年間)に誰かが筆写したと推定される」とある。花材は65程記され、64を現代名にした。これらの植物は、これまでの花道書に記された花材で新しい植物はない。

『一流尊師生口傳覚書』
  『一流尊師生口傳覚書』は、解題によれば「東山流の伝書・・・奥書によれば「文化元子年書」(一八〇四)」とある。『一流尊師生口傳覚書』は、それを文政十年(1827年)に写されたものである。花材は20程記され、不明なものを除いて大半の植物はこれまでに記されており、改めて示す必要はないと判断した。

『四方の薰り』
 『四方の薰り』は、解題によれば「流祖未生翁の華道の真を伝えるための著作・・・三十六花図・・・文化十四年の冬・・・挿けたものを花図にしたようである」とある。
  花材名は図の他にも記され185程あり、そのうちを150を現代名にした。これらの大半は、これまでの花道書に記された花材である。新しく登場した花材は9種、一応植物名を同定したが、4種には多少不安がある。
  「苧環草」は、キンポウゲ科オダマキとした。
 「熊竹蘭」は、ショウガ科のクマタケランとしたが、確証はない。
  「岩蕗」は、ユキノシタ科のクロクモソウとしたが、確証はない。
 「琉球藺」は、カヤツリグサ科のシチトウとしたが、確証はない。
 「ちゃほ檜」は、ヒノキ科のチャボヒバとしたが、確証はない。
 「にちにち草」は、キョウチクトウ科ニチニチソウとした。
  「淡竹」は、イネ科のハチクとした。                            
  「濱万歳青」は、ヒガンバナ科のハマオモトとした。
 「布袋草」は、ミズアオイ科のホテイアオイとした。
  また混乱する記述として、「端午の華 眞菖蒲ニ花しようふ」がある。「眞菖蒲」は、サトイモ科のショウブを指すものと思われる。続く「花しようふ」はハナショウブ思われるが、絵を見るとアヤメのように見える。さらに、「華菖蒲・・・菖蒲(あやめ)・・・真竹ニ・・・菖蒲」とある。前の「菖蒲」に(あやめ)と仮名が振られているが、後の「菖蒲」には仮名はない。続いているため、同じように読むものと推測するが、不安が残る。「華菖蒲」と「花しようふ」は、ハナショウブを指しているものだろうか。

池坊前傳』
  『池坊前傳』は、解題によれば「奥書によると文政二年に・・・相伝した「花伝」の「秘訣」を伝えた書・・・花品の形を、図示し乍ら四季の使い分けを述べている」とある。
  花材は45程示され、これらの植物はこれまでの花道書に記されており、改めて示す必要はないと判断した。

『古流生花門中百瓶圖』
  『古流生花門中百瓶圖』は、解題によれば「刊本・・・文政七年(一八二四)・・・古流の生花作品集・・・一〇二作をのせる」とある。
  花材は35程示されているが、図版が縮小され判読しにくい。解読した花材は、これまでの花道書に記されており、改めて示す必要はないと判断した。

『生花十三ケ条』
  『生花十三ケ条』は、解題によれば「伝書・・・松月堂古流のものである・・・文政八年・・・に記されたもの」とある。花材の記載はほとんどない。

『花傳之書』
  『花傳之書』は、解題によれば「粗本・・・利休・宗旦の故事をもとにして茶の花を伝えている」とある。花材については、椿、梅、杜若など10種程が記されているだけである。

『撓方挿方初學』
 『撓方挿方初學』は、解題によれば「江戸時代末期に創流された「河原邊流」の書である。本書は、特別の秘伝を伝えるというよりも、稽古者の参考にするために書かれたものの写しである・・・漢字にふり仮名を加え・・・図は本書の性質上、細部を省略して骨格が描かれている・・・安政三年霜月」とある。
  『撓方挿方初學』には55程の花材が示され、55を現代名にした。これらの大半は、これまでの花道書に記された花材である。新しく登場した花材は、「伽羅木」「磯馴松」の2種である。
  「伽羅木」は、イチイ科の常緑針葉樹キャラボクとした。
  「磯馴松」は、ヒノキ科の常緑針葉樹ハイビャクシンとした。
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『続華道古書集成第四巻』のまとめ
  『続華道古書集成第四巻』に記された花伝書の花材は、大半がこれまでに記された植物である。現代名にしたのは327種である。新しく登場した花材は23種あり、全て一回しか登場しない。そのため、現代名にした花材の植物名には、多少不安が残るものもある。『続華道古書集成第四巻』の花伝書では、花材に注目して記した書はない。最も多くの花材が記された花伝書は、『四方の薰り』で、185程記され、そのうち150を現代名にした。