江戸東京市民の楽しみ(昭和時代)326
国民の大半は混乱し、社会が停滞する八月の月末
まだ国民は、終戦後の新しい社会については勿論、敗戦自体についても、漠然としていてその日その日の生活をするだけ。新聞やラジオ放送の情報をどのように受け入れるか、混乱と言うより迷っているようだ。
朝日新聞は、国民の関心を軍人の復員に向けようとしている。だが、人々の関心は連合軍、進駐軍で、戦中の十五日までは怒りを助長させ、憎しみを植えつけようとしていた。その米国軍に対し、手のひらを返すような方向へと導こうとしている。
あまりにも極端な転換に追いつけないことを示すのが、八月三十日の「夫を追ひ自決」の記事。「尊撰同士会員」の三婦人、何れも二十代、愛宕山に集まりピストル自殺したと。空襲で家族や住いを失った人の中には、進駐軍に石を投げつけたい人も少なからずいたであろう。そして、横暴な軍人に対しても、まだ恐れを感じる人がいたようだ。
朝日新聞二面で気になるのは、二十七日では「世界の動き 米英ソの動向」「依然、暗黙の駈引き」。二十八日は「政府なき伯林の昨今」「瓦礫除去に十六年」。三十一日が「欧州から見る」「暗い悲しみ捨てゝ 自戒すべきは自戒」そして「日本を語る入京の米紙記者」もある。これらの記事は何れも紙面を大きく占めているが、当時の国民が知りたいと思えるニュースとは感じえない。報道も混乱していたためなのであろうか。
三十日『朝日新聞』は、社説に「一億総懺悔」を掲載、国民を誘導しようとするものであろう。懺悔すべきは、政府・軍に指示されて従った大半を占める国民の側なのであろうか。国民は、まだ戦中のマインドコントロールのまま、そこにつけ込むように「一億総懺悔」を出した。また国民も混乱し、上からの指示を待っていたところにである。
八月二十七日
朝日新聞は「連合軍第一次進駐の日程変わる 調印も九月二日に順延」とある。
二面に東京都計画局長に「帝都再建の途を聴く」と、「七十五坪に一戸宛て 周囲は自給農園 人口三百万、緑の健康都」を描いている。実現性の裏付けはないものの、当時の希望を表す東京都を示すものであろう。
「整然と終った将兵復員輸送」を受けてか、「東京を中心に 乗車制限解除」の記事がある。また、「勤労女性も頑張る横須賀」に「徒な不安は無用 だが隙を見せるな」「進駐区域の婦女子に警告」との記事もある。
高見は、「民家は使用せず 安んぜよ婦女子 米軍進駐・横鎮の注意」との毎日新聞記事から「〔横須賀発〕聯合軍の横須賀地区進駐の宿所につき・・略・・婦女子の問題について・・略・・発表した。・・略・・米軍の進駐に関連し巷間婦女子に対する危惧の念強く、・・略・・これは全くの杞憂にして不用・・略・・米軍当局としてもこの種の事故に対しては深き関心と十分の対策等を講じ・・略・・但し・・略・・人情、風俗、言語を異にする外人に対しては何事に限らず先方の誤解により思わぬ結果を招来すること あり勝ちだから・・略・・女子は態度、容儀を正し皇国臣民たるの矜持を忘れず、荀くも外人をして誤解せしめる如きことなきを要す、万一事件が発生せる場合には警察等を通じ直ちに横須賀連絡委員会に申出でられたい」との記事を紹介している。
八月二十八日
朝日新聞は「上陸米軍は五十万 完了までに五箇月」と「行政機構の改編 官吏、峻厳な反省“官僚的”な払拭せよ」と報じている。しかし、前日には「皇国臣民」との言葉が示すように、戦中の基本姿勢を崩していない。
二面の最初は「復員兵の手記」に「二日三晩、己と戦ひ」「悟った民族の道」「頑な心解く銃後の姿」と、綴られている。次に「けふ連合軍進駐 学徒、清掃に大童 灰塵の横浜、悩み多き設営」が始まるとの記事。そして、「さあ、新しい元気で いゝ体、知恵を磨きましょう」と「少国民へ、前田文部大臣が放送」した内容を掲載している。
高見は、浅草「六区が戦前同様の賑わいであること。警視庁から占領軍相手のキャバレーを準備するようにと命令が出たこと。『淫売集めもしなくてはならないのです、いやどうも』『集らなくて大変でしょう』『それがどうもなかなか希望者が多いのです』『へーえ』
外へ出るとまだ明るい。劇場の前に女工さん風の若い女がかたまっている。芝居はもうとうに終っている。役者が出てくるのを待っているのだ。戦前、女歌劇の楽屋口の前にはこうして贔屓のスターが出てくるのを待っている女のファンの群が(もっと驚くべき数だったが)見受けられた。しかしこの六区の剣戟芝居の方にはそういう群は見られなかった。路地には不良などが横行して怖かったからもあろう。 それにしても、男の役者の出てくるのを(それも有名な人気役者というのならまだしも、つまらぬ役者を)待っている若い女の群というのは、珍しいと思われた。東京がすっかり田舎になった!」と、新たな動向を紹介している。
八月二十九日
朝日新聞は「戦災復興の資材に 木材百万石下賜」との記事。「米先遣隊、厚木着陸」と進駐が始まる。「結社は届出主義 言論等臨時取締法近く廃止」なる予定。実際の廃止は、十月十三日である。
二面に「医学も揺らぐ原子爆弾の惨」との見出しで、「肉塊に喰込照射」「救助の処置なし」「擦傷の女優遂に死す」と手の施しようがないとの記事。
「国民学校も大学も」「九月半から授業」そして「戦災校は差当たり勤労」とある。しかし、戦前と同じ授業を行うことは出来ないので、充分に注意し、適宜省略することを伝えている。
まだ敗戦を受け入れできない人々がいる中で、「宮城前に、神宮外苑に」「天壤無窮を祈り 若き志士ら自刃」(「十四烈士の碑」参照)の記事がある。
そして、「特殊慰安施設協会・職員事務員募集」広告が掲載されている。
高見は、「東京新聞にこんな広告が出ている。占領軍相手の『特殊慰安施設』なのだろう。今君の話では、接客婦千名を募ったところ四千名の応募者があって係員を『憤慨』させたという。今に路上で『ヘイ』とか『コム・オン』とかいう日本男女が出て来るだろう」と記している。
八月三十日
朝日新聞は「五箇条御誓文を体し 全世界と共存共栄 首相宮殿下の御経綸」を掲載。「條約実践即ち国体護持」が示される。社説に「一億総懺悔」を掲載。まだこのような発想がまかり通る。これまでは、大本営によって発せられていた。それを新聞が踏襲し、国民を導こうとするものであろうか。
二面に「帝都の中等、国民校 九月一日から授業 男子は科学 女子には躾」とある。「疎開やもめ…まだいけない家族の呼戻し」があり、まだ「現状のまゝ」という都民がいて、早く復帰させて欲しいとの記事。
「進駐軍の慰安施設」として、バー・カフェー・キャバレー・慰安所を決定したとの記事。
その下の記事に、「援護事業を強化」の見出し、「傷痍、帰還軍人、戦災者など 厚相、一般人の協力要望」するとある。
八月三十一日マッカーサー元帥到着
朝日新聞は「直接民意御聴取」。毎日新聞は「首相宮、民意暢達 に御配慮」と、国民の声を参考にしたいという。また、「内外、平静に復員中 進駐兵に雅量を持て 陸相重ねて放送」して、呼びかけたとある。
二面には、「学窓へ戻った乙女 三人掛で…燃える向学の瞳」と「楽しいな祭りの太鼓 もうひと辛抱…盛岡の疎開学童」と2枚の写真が掲載されている。その他、「あすから 都電、終電を延長」すると。また特殊慰安施設協会の「職員事務員募集」広告が掲載されている。映画広告は、「伊豆の娘たち」と「花婿太閤記」がある。