『花壇地錦抄』6草木植作様伊呂波分5

『花壇地錦抄』6草木植作様伊呂波分5

ひ 15品
「びやくしん」はミヤマビャクシン、本文中の「柏槙」に対応するものだろう。
「ひむろ」はヒムロ、本文中の「ひむろ」と同じ表記である。
「ひのき」はヒノキ、本文中の「檜」に対応するものだろう。
「びやう柳」はビヨウヤナギ、本文中の「美陽」に対応するものだろう。
「ひいらぎ」はヒイラギ、本文中の「柊木」に対応するものだろう。
「ひさかき」はヒサカキ、本文中の「ひささき」と同じ表記である。
「ひよんの木」はイスノキ、本文中の「榼」に対応するものだろう。
「ひめしやが」はヒメシャガ、本文中の「姫鳶尾」に対応するものだろう。
「ひごたい」はヒゴタイ、本文中の「ひごたい」と同じ表記である。
「ひあうぎ」はヒオウギ、本文中の「ひあふき」に対応するものだろう。
「びぢんさう」はヒナゲシ、本文中の「美人草」に対応するものだろう。
日向葵」はヒマワリ、本文中の「日廻」に対応するものだろう。
「ひるがほ」はヒルガオ、本文中の「白ひるがほ」などに対応するものだろう。
「ひとつは」はヒトツバ、本文中の「一葉」に対応するものだろう。
「ひるむしろ」はヒルムシロ、本文中の「蛇床」に対応するものだろう。

も 5品
「もつこく」はモッコク、本文中の「もつこく」と同じ表記である。
「もち」はモチノキ、本文中の「柊棈」に対応するものだろう。
「もくせい」はモクセイ、本文中の「木犀」に対応するものだろう。
「もつかう草」はモッコウ、本文中の「木香」に対応するものだろう。
「もぢづり」はモジヅリ、本文中の「もぢづり」と同じ表記である。

せ 11品
「せんりやう」はセンリョウ、本文中の「仙蓼」に対応するものだろう。
「せきせう」はセキショウ、本文中の「鬼石菖」に対応するものだろう。
「せんだいはぎ」はセンダイハギ、本文中の「仙臺萩」に対応するものだろう。
「せんをふけるひ」はセンノウ、本文中の「白仙翁花」などに対応するものだろう。
「せうま」はアカショウマ?、本文中の「升麻」に対応するものだろう。
「せつていくわ」は本文中の「節庭花」に対応するものだろうが、『牧野新日本植物図鑑』に該当する植物名は不明。
「千日向」はセンニチコウ、本文中の「千日向」と同じ表記である。
「せきちく」はセキチク、本文中の「石竹」に対応するものだろう。
「石蘭」はガンセキラン?、本文中の「石蘭」と同じ表記である。
「せきこく」はセッコク、本文中の「石斛」に対応するものだろう。
「せうぶ」はショウブ、本文中の「菖蒲」に対応するものだろう。

す 4品
「すわう」はハナズオウ、本文中の「(蘇)枋」に対応するものだろう。
水仙花」はスイセン、本文中の「水仙花」と同じ表記である。
「すミれ草」はスミレ、本文中の「菫草」に対応するものだろう。
「筋しやが」は本文中の「筋鳶尾」に対応するものだろうが、『牧野新日本植物図鑑』に該当する植物名は不明。

「伊呂波分」の考察
 「草木植作様伊呂波分」に記された植物名は、『花壇地錦抄・草花絵前集』(平凡社東洋文庫・江戸版)が289品、『花壇地錦抄』(京都園藝倶楽部・京都版)が291品である。数の違いは、「は」項で、「江戸版」14に対し「京都版」は16ある。「京都版」より少ない植物名は、「濱おもと」と「ばれん」の2品である。これは、平凡社東洋文庫の編集過程で2品を欠落させた可能性がありそうだ。本来は、双方とも同数であったと考えるのが順当な判断だと思われる。そこで、イロハ順45項(8+0+16+7+7+2+7+6+8+1+2+14+5+26+0+7+3+3+6+0+4+1+5+2+0+4+13+8+8+3+8+9+3+3+9+12+14+4+0+3+15+15+5+11+4)の植物名の数は、291であるとして検討する。
 「草木植作様伊呂波分」の植物は、そのほとんどがこれまで記した植物であるが、本文の表記と異なる名が多い。「草木植作様伊呂波分」の表記名と本文の表記名が同じものは108、その倍の181が異なる表記をしている。さらに、本文に登場しない植物名が2ある。この2品は「かりや」と「ふづ草」で、『牧野新日本植物図鑑』には記されておらず、以下にも示しているがどような植物であるかわからない。
 伊藤伊兵衛は、「草木植作様」つまり植栽方法について、まとめたものを記そうとしたのだろう。それも、本文に記された順ではなくイロハ順に変え、本文を総括するつもりもあったのではなかろうか。「伊呂波分」は、現代であれば索引に該当するもので、本文の内容を忠実に反映しなければならない。しかし、著者は、思い浮かぶ名で書き留めたためと思われ、その結果、「伊呂波分」と本文の名称が異なったのだろう。なお、違うといっても先頭の文字は、「ぼろ」は「ほろの木」、「あすなろ」は「あすならふ」のように同じであることは面白い。中には、「によい」が「ふとい」に対応する例があるものの、大半は仮名が漢字に、漢字が仮名になっている場合が多い。

○注目する記述
 本文では触れなかった記述、個々の説明で注目する記述を紹介したい。また、問題点や再度検討すべき点についても示したい。

・「いつまで草」(ツタ)は、本文中の「藤並桂のるひ」に分類されているにもかかわらず、「垣根等ニからましむる」さらに「かつらのるひなり」と記されている。

・「牡丹」は、他の植物にも増して詳細な説明があり、関心の高さがわかる。ただ、「白水」(米のとぎ汁)を殺菌用に用いている節がある。そのような効果はない。

・「布袋草」は、「消安草なり」と移植が難しいことを記している。

・「唐蓮」は、実際に施した方法を説明し、中でも「鬼蜘のいとにて花の腰を二タまわりほどまきて置ハさかり久敷物也」の解説は面白い。

・「ちくば草」(ナンバンギセル)は、「たね取りにくき物なり」とある。ナンバンギセルの種を収穫するのは、さほど難しいものではない。ナンバンギセルは、一般の植物と種の扱いが異なり、直接蒔いても寄生する植物がなければ生育し花は咲かない。そのためか、種がとりにくいと判断しているようだ。

・「かりや」の読みは、『花壇地錦抄・草花絵前集』(平凡社東洋文庫・江戸版)と『花壇地錦抄』(京都園藝倶楽部・京都版)の記述によったものである。なお、『花壇地錦抄』(日本農書全集54 園芸1)には、「かるかや」と記されている。同書同列に記されている「寒葵・からぎぼうし・かせつ・風車」などと共に、植栽法を示す仲間にカルカヤ(イネ科)を含むのに疑念がある。特に肥料として、カルカヤは「合肥」さらに「くたしこえ」「魚の洗汁」を必要とする植物ではないと思う。そのため、「かるかや」は誤りと判断する。

・「からけいたう」は、種の蒔き方について詳しい。

・「蘇鉄」は、当時は珍しく珍重され、人気があったようで詳細に記されている。注目するのは、「蘇鉄のいたミたるにハ釘を打てよしと此義分明ならすかえつて毒なるへし」である。「弱った蘇鉄に釘を打ち蘇生さす」との言い伝えは、この時代から否定されていた。にもかかわらず、現代でも「蘇鉄に釘」は広く流布されている。