江戸時代の椿 その21

江戸時代の椿  その21
・『古今要覧稿』その4
  和漢三才図会云椿和字(注・・ネットで表示できない文字はで記している。)
(按に新撰字鏡云椿椛揮三同勅屯反豆波水又云○○○三字豆波木とみえたりその三字棒構櫨は本邦にて造りし新撰の字なりといへども椿杶の三字は慥に西土の字なるを寺島良安の西土の椿字をさして和字也といひしは誤り也)
 
夫木和歌集に殷富門院大輔の歌「霞立こせの春野のはまつばきつらねもあへず見えみみへすみ」
(按に此歌は万葉集に巨勢山の列々椿つらつらにの歌の詞をとりてよみしにてつらつらは袖中抄につらなれる椿といふ歟といひし意にてそれを下の句にまはしてつらねてもといひ中の五文字につばきとばかりいひては二もじたらはぬ故に強てはまの字をうめて五もじとなせしものなれ共濱椿は八雲御抄に非此椿在濱物なりと注させ給ひたればつばきを以て巨勢山にとりなせしはおそらくはあやまりならん或ははまはもとたまにてそのた字のつくりのこの上体の摩滅せしによりて伝写するも
の遂にそのたを以てはに作りしにてもあるべきにや
八雲御抄云はたやまつばき(万)
本革一家言云本草本條以荘子楚南有大椿以八千歳爲泰秋之椿與常椿混淆為一物者誤矣非特漢人誤焉我邦和歌者流又襲用而不察也又有諸書曰露椿曰大椿者有三年而實三年而花之説稻若水會云非実有三年而花実但以其花実耐久而言而巳即今世間多有之呼毛智乃木者是也與椿樗之椿逈別其樹尤多寿故荘子惜以寓言蓋云楚南則非其常椿自可知焉是亦不可不弁
(按に荘子にいはゆる大椿は即本草にいはゆる椿樗の椿と一物なるべきを今稲若水のせつうけて松岡玄達もそれを以てもちのきとなせしはうけがたしたとへ楚の南にありていひたりとて椿樗の椿に非ずといへる証とはなし難しおもふにこれは袖中抄につらつら椿を女貞なりとひし説をふるくよりひそかにいひ伝へたる事などありてしかいひしにや又は冬青を一名万年樹或は万歳枝或は長生などいふ名あるによりての事にてもあるべきにやいまだその詳なる事をしらずといへ共既に多青似椿とはいひたるにその冬青を以てただちに椿なりといへる説はとりがたし)
 
藻鹽草云はた山かた山云々
(按に八雲御抄に万葉集を引てはたやまつばきと見えたるはまさしく伝写するもののかた山椿のかを誤りてはに作りしものなるに藻鹽草にはそれを二つの名としてならべ出せしはあやまリ也)
 
   ひのきつばきあやつばき
ひのきつばきは一名をあやつばきといふ此樹は伊勢国鈴鹿郡つばきの神社の境内及び同郡高宮村などに多し即椿の枝に檜の葉さしまぢりて花は常のつばきなりされども紅白の二種あり寛保年中台命によりて彼村より二樹を奉りしを吹上の御園に植させ給ひしよし今三縁山増上寺台徳院殿の御廟のうちに栄ゆるものは(諸国採薬記国史草木昆虫考)後に移し植させ給ひしにてもあるべきにや一説に檜椿は寄生にしてすべて南方暖和の地に生す薩摩讃岐及び伊豆などにもままこれありといへり今按にひのき椿の伊勢国及び増上寺等にあるものは予いまだ其樹を親見せす今忍岡の禰荷(俗にこれを穴のいなりといふ)の境内にあるものは即白玉椿にしてその樹極めて高大なりといへ共その寄生は多く枝梢にありて本幹大枝には生ぜすその形は朴樹或は桑樹上の寄生とは異にして扁柏に似て扁柏に非ず海柏に似て海柏にもあらず別に是一種の寄生なり
諾州採薬記云伊勢国鈴鹿郡高宮村に檜椿といふ名木あり椿の木より檜の葉出る惣じて此村の椿に檜木交り出る弘法大師の檜木を椿になし給ふと申伝ふるよし予寛保中夏台命によりて彼土に行此椿の木御用に付一丈許の木二本を奉りしを吹上御庭に植させられしなり此椿のありし村は東海道石薬師の駅より一里程江戸の方へ来れば其村みゆる也国史草木昆虫攷云あやつばき云々式に鈴鹿郡椿太神社あり今は椿の明神と申ける友人村田春海が記に云御社の前にいたればかなたこなたにいと陰ふりたる椿の花白きと赤きがあまたたてり立よりて見るに檜の木のさましたる葉の枝ごとに生いでたりこはいかなる種ぞと問へば此御社の前なるは皆かかる葉の生いづめりこをむかしよりあやつばきとぞいふなるこのうしろなる高嶺をつばきがたけともいひなぺてこのほとりに椿いとおほしとなんいふまたこの御社はなにの神のいははれ給ふにかといへば猿田彦の大神なりとぞやがていがきのもとにのかづきて「はふりこがいはふみむろの綾椿遠つ榊代に植し種かも」
 
○釈名
ひのきつばき
諾州採薬記○此即鈴鹿郡の方言也
あやつばき
国史草木攷引村田春海記〇あやつばきは椿の神社にてふるくよりいひ伝ふる名なるよし既に上文に見えたり
 
古今要覧稿第三百八
●草木部椿図一
椿花品類数種ありといへども花弁と花色と花形との三つを以て名を異にして世にもてあそばる世にもてあそばるるが故に種養家利をあらそひ培種に心を用ひ実をふせて以て異樹異花の生ぜん事を専要として以て終に奇花をも得るに至れりそもそも椿花の世にもてあそばるること二百年前よりの事は林道春の百椿図の序を見てしられたり(此序前に出)扱上にいふところの花色花弁花形の三を以て分別するときは紅花あり白花ありたまたま黄花あり間色をもつていふときはあげてかぞふべからずといへども紫紅色或は淡紅或は深赤或は淡赤あり淡赤の中にも淡の淡なるものあり或は紅赤弁に白点あるものあり或は白花弁に紅点あるものあり且点に大小あり一々に弁すべからず花弁は単弁重弁八重百重千葉のものあり百重千葉の花に至りては花蕊あらずして花弁簇出す単弁の花の中に一花かさなり出て開く有尤奇なり花形をいへば只大小の差別と横にひらたき物と竪に細長きものとあり花の大なるは必す重弁にあり単弁のものにはなしももへ千葉の花にも大なるはなし中花多くして小輪もなし小輸のものば単弁の花に多しさて其銘に至りては国々の方言もあれど多くは種樹家より出花り猶くはしき事は初巻に載たり
『右四図之外    山つばき(同実)  同淡紅の吻  同八重  金山(下総国八木村産)  ゆあがり  しかみ  さらさ  わびすけ紅色のもの  緋車  星車  老松(同一種)  猩々  朝がかり  ものかは  からあや  から錦  小櫻  しら玉  黄つばき  以上二十二図略之』
 
古今要覧稿巻第三百九
●草木部  椿図二
『車さか(加藤伊勢守藤原泰彦所蔵百椿図)  きつかう(同上)  無官(同上)  みなもと(同上)  南きん(同上)  山の井(同上)  京椿(同上)  せつけい(同上)  越前(同上)  実盛(同上)  さらしな(同上)  三段花(同上)  かんまく(同上)  雪の下(同上)  飛鳥川(同上)  赤坂(同上)  ちりめん(同上)  信濃(同上)  せつこう(同上)  底くり(同上)  さくら木(同上)  さんばさう(同上)  まつ葉(同上)  しらひと(同上)  伊吹(同上)  いもせ(同上)  しつ(同上)  常盤(同上)  きくとぢ(同上)  織部(同上)  かすみが関(同上)  大和牡丹(同上)  りうこ(同上)  淡路島(同上)  あふひ(同上)  なつかい(同上)  ほし刑部(同上)  一二(同上)  白こしみの(同上)  北斗(同上)  からや腰みの(同上)むらさき(同上)  きりん(同上)  さらさ(同上)  南蛮ほし(同上)やに絞(同上)  大りん(同上)  まつ風しぼり(同上)  かざ車(同上)  異国(同上)  以上五十図略之』
 
古今要覧稿巻第三百十
●草木部  椿図三
『いさはや(加藤伊勢守藤原泰彦所蔵百椿図)  蜀江錦(同上)  猩々(同上)  水引(同上)  よりして(同上)  竜田川(同上)  きりつぼ(同上)  小鹽(同上)  島桔梗(同上)  きりがやつ(同上)  酒天童子(同上)  美の島(同上)  赤櫓(同上)  初時雨(同上)  はつれ雪(同上)  関守(同上)  砂金(同上)  山の雪(同上)  もつくはひ(同上)  水車(同上)  海棠(同上)  ゆりたて(同上)  ちむ花(同上)  たつたん(同上)  ひとよき(同上)  よつやさんかい(同上)  九愛(同上)  薮椿(同上)  しづか(同上)  平吉(同上)  十五夜(同上)  とた菊(同上)  しら菊(同上)  はつし白(同上)  本因坊(同上)  しら玉(同上)  さざん花(同上)  高砂(同上)  からさか(同上)  泰山府君(同上)  人麿(同上)  しほかま(同上)  まち(同上)  とび入大うす色(同上)  まつしま(同上)  木工(同上)  もまち(同上)  あいみ河(同上)  無綾しぼり(同上)  富士さんかい(同上)  以上五十図略之』
 
古今要覧稿巻第三百十一
●草木部  椿図四
『赤紅(種樹家弥三郎培養する所)  八代(同上)  金鶏(同上)  隅田川(同上)  鈴か山(同上)  鹿児島(同上)  星牡丹(同上)  獅々頭(同上)  酒中花(同上)  蝦夷錦(同上)  唐錦(同上)  翁絞(同上)  藻衣(同上)  丹頂(同上)  春の臺(同上)  松か枝(同上)  桃花鳥(同上)  玉垂(同上)  鷲の山(同上)  関守(同上)  小蝶佗助(同上)  ト伴(同上)  鳥の子(同上)  草紙洗(同上)  花見車(同上)  上妻(同上)  盤釜(同上)  高倉(同上)  沖の
波(同上)  玉坂(同上)  初瀬山(同上)  羽衣(同上)  木珍花(同上)  そこ紅(同上)  薄色両面(同上)  玉川(同上)  数寄屋(同上)  妙見寺(同上)  白桔梗椿  雪月花  玉手箱  下妻  白瀧  都鳥  大れんげ  白ちん花  以上四十六図略之』