茶花と花材の植物名その13

茶花と花材の植物名その13
  茶会記や花伝書に記された植物名を整理する。茶花や花材として記された名称は、当時の呼び名であり、必ずしも現代名と同じではない。また、同じ植物と思われるものにも、いくつもの名前が書かれている。その上、書かれている名(漢字で記された)の読み方も何通りかあり、混乱している。そこで、茶花と花材にどのような呼び名があったかを、現代名の五十音順に示している。
  現代名としては『牧野新日本植物図鑑』(北隆館)を基本にし、『樹木大図説』(有明書房)を補足的に使用する。なお、その他の資料として、『資料別・草木名初見リスト』(磯野直秀)、『明治前園芸植物渡来年表』(磯野直秀)を参考にした。
  茶花と花材の名称を再度検討する際、これまで不明であった植物の現代名が明らかになり、錯誤もいくつかわかった。その結果、以前に示した茶花や花材の名前が変わり、花伝書の花材数や種類にも変化が生じた。そのため、以下に示す植物名を全て示した後、花伝書の各々について再度整理する予定である。

ハマオモトヒガンバナ科)・・・種名・・・ハマオモトの初見→花壇地錦抄1695年
浜木綿(ハマユウ)=ハマオモト・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
 
バラバラ科)・・・総称名・・・バラの初見→古今和歌集914年頃
  『山科家礼記』には、貞享二年十月十四日などに「シヤウヒ・イハラ・白チヤウシユン」が登場する。これらの名前から現代名を判断することは困難なため総称名のバラとする。
しやうひ=バラ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
チヤウシユン=バラ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
薔薇=バラ・・・『天王寺屋会記』1571年(元亀二年)に記される。
 
ハランユリ科)・・・種名・・・ハランの初見→諸禽万益集1717年
葉蘭=ハラン・・・『挿花千筋の麓』1768年(明和五年)に記される。
葉らん=ハラン・・・『美笑流活花四季百瓶圖』1780年(安永九年)に記される。
羽蘭=ハラン・・・『古流挿花湖月抄』1790年(寛政二年)に記される。
 
ハルリンドウ(リンドウ科)・・・種名・・・ハルリンドウの初見→諸禽万益集1717年
春龍膽=ハルリンドウ・・・『源氏活花記』1765年(明和二年)に記される。
 
ハンカイソウ(キク科)・・・種名・・・ハンカイソウの初見→花壇地錦抄1695年
はんくわい草=ハンカイソウ・・・『川上不白利休二百回忌茶会記』1782年(天明二年)に記される。
 
ハンゲショウドクダミ科)・・・種名・・・ハンゲショウの初見→花壇地錦抄1695年
はんけ=ハンゲショウ・・・『川上不白利休二百回忌茶会記』1782年(天明二年)に記される。
 
ハンノキ(カバノキ科)・・・種名
ハリ=ハンノキ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
はんの花=ハンノキ・・・『金森宗和茶書』1655年(承応四年)に記される。
 
ヒイラギ(モクセイ科)・・・種名・・・ヒイラギの初見→古事記712年
柊之花=ヒイラギ・・・『隔蓂記』1647年(承応四年)に記される。
拘骨=ヒイラギ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
ヒオウギ(アヤメ科)・・・種名・・・ヒオウギの初見→訓蒙図彙1666年
カスアフキ=ヒオウギ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
ひあうぎ=檜扇=ヒオウギ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
野菅花=ヒオウギ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
鬼扇=仙人掌=鳳翼=ヒオウギ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
烏荻=ヒオウギ・・・『立花便覧』1695年(元禄八年)に記される。
烏扇草=日扇子=ヒオウギ・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
檜あふぎ=ヒオウギ・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
からすあきふ=ヒオウギ・・・『攅花雑録』1757年(宝暦七年)に記される。
 
ヒガンザクラバラ科)・・・種名・・・ヒガンザクラの初見→蔭凉軒日録1463年
ひがん櫻=彼岸櫻=ヒガンザクラ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
新正櫻=ヒガンザクラ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
貼梗海棠=ヒガンザクラ・・・『古流挿花湖月抄』1790年(寛政二年)に記される。
 
ヒガンバナヒガンバナ科)・・・種名・・・ヒガンバナの初見→温故知新書1484年
マンシユシヤケ=ヒガンバナ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
曼珠沙華ヒガンバナ・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
まんじゆさけ=ヒガンバナ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
山應荘=すてごばな=ヒガンバナ・・・『抛入花薄』1767年(明和四年)に記される。
 
ヒギリクマツヅラ科)・・・種名・・・ヒギリの初見→訓蒙図彙1666年
唐桐=ヒギリ・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
頳桐=ヒギリ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
ひとう=ヒギリ・・・『古流挿花湖月抄』1790年(寛政二年)に記される。
 
ヒゴタイ(キク科)・・・種名・・・ヒゴタイの初見→日葡辞書1603~4年
肥後たいそう=ヒゴタイ・・・『挿花四季枝折』1794年(寛政五年)に記される。
 
ヒシ(ヒシ科)・・・種名・・・ヒシの初見→古事記712年
芰荷=ヒシ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
ヒトツバ(ウラボシ科)・・・種名・・・ヒトツバの初見→池坊専栄花伝書1567年
石葦=ヒトツバ・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
ひとつば=いはかしは=ヒトツバ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
一ツ葉=ヒトツバ・・・『立花便覧』1695年(元禄八年)に記される。
 
ヒナゲシ(ケシ科)・・・種名・・・ヒナゲシの初見→毛吹草1645年
美人草=ヒナゲシ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
虞美人草=麗春=ヒナゲシ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
ひしん草=ヒナゲシ・・・『立花便覧』1695年(元禄八年)に記される。
 
ヒノキ(ヒノキ科)・・・種名・・・ヒノキの初見→古事記712年
ひの木=ヒノキ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
檜=ヒノキ・・・『山科家礼記』1488年(長享二年)に記される。
さひ=富草=幸草=ヒノキ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
 
ヒバ(ヒノキ科)・・・種名
ヒハ=ヒバ・・・『山科家礼記』1488年(長享二年)に記される。
 
ヒマワリ(キク科)・・・種名・・・ヒマワリの初見→花壇綱目1664年
日向葵=ヒマワリ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
迎陽花=ヒマワリ・・・『生花百競』1768年(明和五年)に記される。
ひまわ里=ヒマワリ・・・『挿花故実化』1778年(安永七年)に記される。
 
ヒムロ(ヒノキ科)・・・種名
ひむろ=ヒムロ・・・『仙傳抄』1445年(文安二年)に記される。
 
ヒメカンゾウユリ科)・・・種名・・・ヒメカンゾウの初見→お湯殿の上の日記1567年
姫萱草=ヒメカンゾウ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
姫くわんぞう=ヒメカンゾウ・・・『古今茶道全書』1693年(元禄六年)に記される。
 
ヒメバショウ(バショウ科)・・・種名・・・ヒメバショウの初見→大和本草1709年
美人蕉=ヒメバショウ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
ヒメフジマメ科)・・・種名
ひめふじ=ヒメフジ・・・『川上不白利休二百回忌茶会記』1782年(天明二年)に記される。
 
ヒメユリユリ科)・・・種名・・・ヒメユリの初見→万葉集785年前
ヒメユリ=ヒメユリ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
ひめ百合=姫百合=ヒメユリ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
紅百合(ひめゆり)=ヒメユリ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
山丹(ひめゆり)=ヒメユリ・・・『立花指南』1688年(貞享五年)に記される。
連珠=紅花菜=ひかり草=ヒメユリ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
 
ビャクシン(ヒノキ科)・・・種名・・・の初見→蔭凉軒日録1462年
ヒヤクシユン=ビャクシン・・・『山科家礼記』1488年(長享二年)に記される。
白槇=ビャクシン・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
白芷=ビャクシン・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
ヒョウタ(ウリ科)・・・種名・・・の初見→古事記712年
瓢干ノ花=ヒョウタン・・・『天王寺屋会記』1582年(天正十年)に記される。
壺盧子=なりひさこ=ヒョウタン・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
ビヨウヤナギ(オトギリソウ科)・・・種名・・・ビヨウヤナギの初見→日葡辞書1603~4年
美楊=ビヨウヤナギ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
びやう柳=びゑう柳=ビヨウヤナギ・・・『立花便覧』1695年(元禄八年)に記される。
金絲桃=ビヨウヤナギ・・・『生花枝折抄』1773年(安永二年)に記される。
 
ヒヨドリジョウゴ(ナス科)・・・種名・・・ヒヨドリジョウゴの初見→名語記1275年
雪下紅=ヒヨドリジョウゴ・・・『挿花四季枝折』1794年(寛政五年)に記される。
 
ヒルガオヒルガオ科)・・・種名・・・ヒルガオの初見→新刊多識編1631年
昼かほ=ヒルガオ・・・『金森宗和茶書』1652年(慶安五年)に記される。
晝顔=ヒルガオ・・・『立花訓蒙図彙』1695年(元禄八年)に記される。
鼓子花=晝かほ=ヒルガオ・・・『挿花千筋の麓』1768年(明和五年)に記される。
 
ビワバラ科)・・・種名・・・ビワの初見→正倉院文書760年
ヒワ=ビワ・・・『山科家礼記』1491年(延徳三年)に記される。
枇杷=ビワ・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
 
フキ(キク科)・・・種名・・・フキの初見→新撰字鏡900年頃
フキノタウ=フキ・・・『山科家礼記』1488年(長享二年)に記される。
欵冬=フキ・・・『池坊専應口傳』1542年(天文十一年)に記される。
蕗塔=フキ・・・『替花傳秘書』1661年(寛文元年)に記される。
欵冬臺=ふきのとう=フキ・・・『立花正道集』1684年(天和四年)に記される。
蕗苔=フキ・・・『抛入花傳書』1684年(貞享一年)に記される。
虎髭草=フキ・・・『立花秘傳抄』1688年(貞享五年)に記される。
山蕗=フキ・・・『抛入花薄』1767年(明和四年)に記される。