『花道古書集成』第五巻の花材

『花道古書集成』第五巻の花材
 
『活花圖大成』

 『活花圖大成』は、『華道古書集  第一期第五巻』の最初の書で、吉尾泰雅によって作成され寛政元年(1789)に刊行された。花材は、二巻に分けられた77図に70程記されており、その内60種を現代名にした。新しい種はないものの、60種あることから十八世紀後半の茶会記に記された茶花と対照させると、含まれるものは40%ある。使用頻度11位までの茶花は全てあり、23位までも18種含まれている。したがって、花材数が60種しかない中で、『活花圖大成』は十八世紀後半の茶花を比較的反映していると言えよう。

『生花出生傅圖式』
 『生花出生傅圖式』は、『華道古書集  第一期第五巻』の『生花出生傅(第四巻古流挿花湖月抄と同じ)』に次ぐ書である。五大坊卜友によって作成され、刊行時期は記されていない。花材は、四季に分けた百図の中に50程記され、46種を現代名にした。新しい花材がないこと、花材の種類が少ないことから茶花との検討は差し控える。

『挿花故實集』
  『挿花故實集』は、序文から、亀齢軒莎来によって寛政五年(1794)に作成された。書には、花材についての記載はない。

『挿花四季枝折』
  『挿花四季枝折』は、『庸軒流  插花四季枝折』と表題され、知化堂呼牛によって著され、寛政五年(1794)に刊行されている。花材は、110図の中に80程記され、70種を現代名にした。その中に新しい花材が10種あるので紹介する。 
  「すずこゆり」は、「○甤(スズコユリ)」とも記され、ユリ科のアマドコロとした。
 「三稜」は、カヤツリグサ科のウキヤガラとした。
 「半夏」は、サトイモ科のカラスビシャクとした。
  「河原○蒿」は、キク科のカワラヨモギとしたが、不明な漢字があることから確定できない。
  「河原茱茰」は、グミ科のアキグミかナツグミであろう。判断しにくいことから総称名としてグミとした。
  「玫瑰」は、「ハマナス」振り仮名があり、バラ科ハマナスとした。
  「肥後たいそう」は、キク科のヒゴタイとした。
  「雪下紅」は、ナス科のヒヨドリジョウゴとした。
  「布袋草」は、ミズアオイ科のホテイソウとした。
  「満んさく」は、マンサク科のマンサクとした。
  なお、『挿花四季枝折』に描かれている図は、必ずしも正確に記されているとはいえないものもあるので、表記されている名と合わせて検討した。たとえば、図には、「志をに」と読める文字があり、描かれている植物はシオンに似ているが、良く見ると花も葉もシオンと言い切る自信はない。そのため、不明な花材とした。
  また、「羊草」と読める植物、描かれている図はキク科のシオン、スイレン科のスイレンとは全く異り、図からは植物名を判断するのは困難な花材もあった。
  それでも現代名にした種は70あることから、十八世紀後半の茶会記に記された茶花と対照させる。使用頻度11位までの茶花は8種あり、23位までは15種しかなく多いとはいえずない。全体でも茶花の39%しか含まれていない。したがって、花材数が70種としては、『挿花四季枝折』は十八世紀後半の茶花を反映しているとは言い難い。

『抛入花薄精微』
 『抛入花薄精微』は、得実斎万水によって寛政七年(1796)に刊行されている。三巻の128図に80程の花材が描かれ、64種を現代名にした。その中に新しい花材が3種あるので紹介する。 
  「茼蒿」は、キク科のシュンギク、現在シュンギクと呼んでいるものと思われる。花材名としての「春菊」は、数多く記されており、シュンギクである可能性があるものの種名を確定することができず不明としていた。「春菊」は、春に咲くキク類を指しているもので、必ずしも「茼蒿」を指すものでない。その他にも、「夏菊」「寒菊」等も同様であると判断している。
  「宝釋艸」は、ユリ科ホウチャクソウとした。
  「燕麦」は、イネ科のカモジグサとした。
 『抛入花薄精微』と十八世紀後半の茶会記に記された茶花と対照させると、含まれるものは27%と低い。また、使用頻度11位までの茶花は8種あるものの、23位までは12種しかない。したがって、『活花圖大成』は十八世紀後半の茶花をあまり反映していない。

『新刻瓶花容導集』
  『新刻瓶花容導集』は、池坊専定より寛政九年(1798)に刊行されたもので、瓶花が152図記されている。図には花材名の記入はなく、描かれた絵から植物名を明確に同定することは困難である。

『挿花秘傅伝圖式』
 『挿花秘傅伝圖式』は、風鑑斎積水によって寛政十年(1799)に刊行された。書は四巻に分かれ、花材は文と図に記されている。数多くの図はあるものの花材としては、70図程で、その61種を現代名にした。その中に新しい花材は1種、「ゑんかう杦」で、スギ科のエンコウスギとした。十八世紀後半の茶会記に記された茶花と対照させると、含まれるものは33%と低い。使用頻度11位までの茶花は8種あるものの、23位までは15種しかない。したがって、『挿花秘傅伝圖式』は十八世紀後半の茶花をあまり反映していない。

『東錦』
  『華道古書集成  第一期第五巻』の最後とある『東錦』は、図の中に描かれているが、図自体が少なく、花材の植物名を判断するには絵が雑なので、検討はしない。
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