江戸の盆栽 5

江戸の盆栽  5
盆栽(はちうゑ)の値段 4
★三百文の植物
  三百文というのは、今の金額でいうと9,375円。気軽に購入できる額ではないと思われる。
  「たこ作り梅」は、ウメの作りものの盆栽であろう。イメージ 1
  「石菖有栖川」は、サトイモ科の「セキショウ」の園芸品種。『牧野新植物図鑑』には、「小さいものをアリスガワゼキショウ」と記されている。現代では、ポット苗として通信販売で求めることができる。値段は千円以下である。
  「正宗類」は前記セキショウの斑入りの種類か。
  「牡丹葉延胡索」は、中国原産のケシ科「ケマンソウ」か。「延胡索」は生薬。「牡丹葉」が付いていることから園芸品種として売られていたのだろう。
 「漢種淫羊藿」は、中国産のメギ科イカリソウの一種と思われる。「淫羊藿(インヨウカク)」は生薬名。
  「クマタケラン」は、ショウガ科の「クマタケラン」。薬草として販売か。
  「杜若(青のクマケラン)」は、ショウガ科の「アオノクマタケラン」。『牧野新植物図鑑』には、「クマタケランに比べて全体に緑色だけで赤味がない」とある。
  「カサユリ」は、ユリ科の「クルマユリ」であろうか。
  「葵葉つる胡椒」は、コショウ科の「コショウ」であろう。「葵葉」と付くことから園芸品種だと思われる。
  「橘類」は、ミカン科の「タチバナ」類であろう。『本草図譜』には、「黄橘」「朱橘」「緑橘」「包橘」「福州たちばな」などが記されている。「橘類」はこれらの種類を指していると思われる。
  「ツキヌキヒアフギ」、「ヒアフギ」は「ヒオウギ」であろう。「ツキヌキ」は、茎が葉を突き抜けている、というような花や葉の形態を形容したものであろう。詳細はわからないが、アヤメ科の「ヒオウギ」の園芸品種。イメージ 4
 「東京桂」は、カツラ科「カツラ」の園芸品種かと思ったが、どうも違うようだ。ニクケイを「桂」と書くことがあるから、「トンキンニクケイ(東京肉桂)」という中国原産のクスノキ科の樹木ではないだろうか。
 「鷹爪」は、ウコギ科の「タカノツメ」であろう。
 「姫石楠」は、ツツジ科の「ヒメシャクナゲ(ニッコウシャクナゲ)であろう。『原色園芸植物大圖鑑』(北隆館)によれば、本州中部地方以北の高山に生育する常緑小低木、園芸種は尾瀬至仏山原産とされている。
 「コンロン花」は、アカネ科の「コンロンカ(崑崙花)」。
  「白ダン菊」は、クマツヅラ科「ダンギク」の白花であろう。
  「金豆」は、ミカン科の「キンズ」であろう。
  「白八重フダン菊」は、キク科の「シュンギク」、白の八重咲き種であろう。
  「キンギン草」は、ラン科の「キンギンソウ」であろう。屋久島以南にも自生するらしい。
  「小槿花」は、アオイ科ムクゲ」の園芸品種。小槿花(せうきんくわ)は、『草木育種後編』(岩崎常正)に「ぼんでん花というふ木槿の一種なり」とある。
  「紅ウラ大文字草」は、 ユキノシタ科「ダイモンジソウ」の園芸品種、青葉山裏紅大文字草であろう。
  「菜莉花」は、モクセイ科の「ジャスミン」。
 「水生萱草」はよくわからない。なお、『本草綱目啓蒙』の「萱草」の項に「一種水中ニ生ジ小花ヲ開キ黄色ナル者アリ。コレヲ水スゲト云。集解ニ引トコロノ水葱、是ナリ。」とある。
 
★壹朱の植物
  壹朱という金額は、「文」に換算すると二百五十文相当とされている。ただし、この換算率は変化するものである。この表を作成した当時は、壹朱が三百文以上であったと思われる。この表は価格順に並べられていて、これを見ると三百文と五百文の間にあることから、壹朱を四百文相当とすれば、今の金額で12,500円ぐらいになる。
  「ブダウ」はブドウ科の「ブドウ」。詳細な品種はわからないが、園芸品種と思われる。
 「」はカキノキ科の「カキ」。品種改良された実のなるものではなかろうか。
  「地堀林檎」は、バラ科の「リンゴ(わりんご)」。「地堀」は、掘り起こしたばかりで、鉢植されず菰巻きのような状態であろう。
 「綿黄蓍」は、よくわからない。「黄蓍」は生薬名。黄耆は綿黄耆、紅耆(晋耆)、土黄耆(木耆)、和黄耆、4種類ある。綿黄耆は黄耆の正品とされ、マメ科のキバナオウギの根から得られるという。それから考えて、「綿黄蓍」はマメ科の「キバナオウギ」か。
  「あらね松葉蘭」はマツバラン科の「マツバラン」。「あらね」は鉢植されず、根がむき出しになっているものと思われる。
  「黄連(エゾ細葉  サツマ大葉)」は、キンポウゲかの「オウレン」。(エゾ細葉  サツマ大葉)と付いているから、園芸品種であろう。
  「白木地黄」はよくわからない。「地黄(ジオウ)」は、ゴマノハグサ科の「ジオウ(サオヒメ、アカヤジオウ)」。根茎は生薬、「地黄」という。
  「日光紫参」。「紫参(シサン)」は、『本草図譜』に「ハルトラノウ」とある。タデ科の「ハルトラノウ(イロハソウ)」で、「日光」は産地の名だろう。なお、生薬「紫参」はイブキトラノウの根茎から得られる。
  「アスペルチイ」は、全くわからない。
  「莨菪」は、ナス科の「ハシリドコロ」だろう。「莨菪」は生薬で、『牧野新植物図鑑』には「本来の莨菪は支那原産の別の種」とされている。
 「山芍藥」は、キンポウゲ科の「ヤマシャクヤク」。
  「ヱゾ地楡」は、バラ科の「ワレモコウ」であろうか。「地楡」は漢名。「ヱゾ」は蝦夷地原産のということか。
  「岩ザクラ」は、サクラソウ科の「イワザクラ」であろう。
  「山豆根」は薬名で、マメ科の「ミヤマトベラ」ではなかろうか。
  「ハリブキ」は、ウコギ科の「ハリブキ」だろう。「針蕗」は生薬。
 「ヤシャビシヤク」は、ユキノシタ科の「ヤシャビシヤク」、珍しい植物とされている。
  「零陵香」は、よくわからない。「草零陵香」は、『和漢三才図会』にあるが「零陵香」と関係あるかどうかは不明。なお、シソ科の「バジリコ」を漢名で「零陵香」と呼ぶ例があるらしいが、これもよくわからない。
  「八重巻丹」。漢名の「巻丹」は、ユリ科の「オニユリ」。八重咲きのオニユリであろう。
  「班入豊後笹」は、イネ科の「ブンゴザサ」。葉に斑が入っているのだろう。なお、『牧野新植物図鑑』では「オカメザサ(ブンゴザサ  ゴマイザサ  メゴザサ)」と表示されている。
  「石寄生」は、植物が寄生した石であろうか。よくわからない。                                 ホルトノキ・草木錦葉集よりイメージ 3
  「膽八樹」は、ホルトノキ科の「モガシ(ホルトノキ)」であろうか。『牧野新植物図鑑』には「[漢名]膽八樹を使うは誤り。」とある。
  「紅毛ヨメナ」は、キク科の「ヨメナ」であろう。「紅毛」似ついてはよくわからないが、花か葉に赤い毛があるものであろうか。
  「岩石蘭」は、ラン科の「ガンセキラン」であろう。
  「常緑葉八丈草」は、セリ科の「アシタバ」であろう。
                   
★五百文の植物
  五百文は、今の金額で言えば15,625円。
  「黄實オモト」は、黄色の実のなるオモトであろうか。
  「狼芽」は、どのような植物かわからない。
 「チヤボ白アヤメ」は、アヤメ科の「サンズンアヤメ」の白花であろうか。
  「(閭の上に草冠がある)」は、『本草綱目啓蒙』によれば「ネアザミ・ニヒマグサ」とあり、トウダイグサ科の「ノウルシ」を指しているようだ。
 「迷迭香」はシソ科「マンネンロー(ローズマリー)」。
  「チリメンツバキ」は、葉に皺があるツバキのことだろうか。詳細は不明。
  「漢種正精」は、全くわからない。
  「ユキモチサウ」は、サトイモ科の「ユキモチソウ」。
  「ヒモラン」は、ヒカゲノカズラ科の「ヒモラン」。
  「白花龍膽」は、リンドウ科の「リンドウ」の白花。
 「白根葵」は、キンポウゲ科の「シラネアオイ」。
 「甘草」は、マメ科の「カンゾウ」であろう。
 「ヲキナマキ」は、マキ科の「ラカンマキ」の変種であろう。翁槇、「葉に白斑が砂子に入り、白髪状に見える」(『樹木大図説』より)とある。
  「カキノハグサ」は、ヒメハギ科の「カキノハグサ(柿の葉草)」。
  「節分草」は、キンポウゲ科の「セツブンソウ」であろう。
  「梅惠草」は、ユリ科の「バイケイソウ」。
 イメージ 2大山連花」は、モクレン科の「オオヤマレンゲ」。
 「カツラ」は、カツラ科の「カツラ」。
  「迎年菊」は、キクの仲間には違いないと思われるが、詳細は不明。
 「大サギ草」は、ラン科「サギソウ」の園芸品種「ダイサギソウ」であろう。
  「千歳虆」は、ユキノシタ科「ヤマアジサイ」の変種「アマチャ」であろう。
  「白花蔓荊」は、クマツヅラ科の「シロバナハマゴウ」であろう。
  「ヒリヤウヤドリ」は、わからない。                            
  「江戸小櫻草」は、サクラソウ科に「エゾコザクラ」があることから、サクラソウの園芸品種ともとれるがよくわからない。もしかすると、サクラソウ科以外の植物の可能性もある。
  「蕑重風車」、蕑はフジバカマであるが、重風車が何を指すかはわからない。
  「ツガザクラ」は、ツツジ科の「ツガザクラ」。
 
★六百文。今の価格に換算すると18,750円になる。
  「ナツツバキ」は、ツバキ科の「ナツツバキ」。
  「サユリ」は、ユリ科の「ササユリ(サユリ)」。
  「朝鮮人」は、ウコギ科の「チョウセンニンジン(オタネニンジン)」。
  「四方ヒアフキ」は、アヤメ科の「ヒオウギ」の園芸品種であろうが、「四方」の意味は不明。
  「ヲロシヤ牛房」はよくわからないが、ロシア産の「ゴボウ」であろうか。
  「蚤休草」は、ユリ科の「ツクバネソウ」の仲間の植物らしい。蚤休は生薬名。
  「タモトユリ」は、ユリ科の「タモトユリ」。
  「ボウラン」は、ラン科の「ボウラン」。
  「白花ヒメシャガ」は、アヤメ科「ヒメシャガ」の白花だろう。
  「菊カツラ」はよくわからない。「カツラ」の変種なのか、「菊」の意味は不明。
  「ニレザクラ」は、バラ科の「ザイフリボク」ではなかろうか。
  「斑入ナギ」はマキ科の「ナギ」。葉に斑が入ったものであろう。
  「白蘚」は、ヨーロッパ原産のミカン科「ハクセン」であろう。
  「桔梗蘭」は、ラン科の「キキョウラン」。イメージ 5
  「ダイダイ」は、ミカン科の「ダイダイ」。
  「霧島」は、ツツジ科の「キリシマツツジ」。
  「」は、カバノキ科の「シラカンバ」であろう。
  「佛手柑」は、ミカン科の「ブッシュカン」。                        
  「トキハスゝキ」は、イネ科の「トキワススキ」。
  「細葉山吹草」は、キンポウゲ科ヤマブキソウ」の、葉の細い園芸品種であろう。
  「唐逢虆」は、中国産のバラ科「クサイチゴ」の仲間だと推測される。
  「寒タデ」は、タデ科「タデ」の変種なのであろうか、わからない。